黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

冨樫がちゃんと仕事していた頃

 当ブログでは「モンスターハンターRISE」の発売以来、平松伸二の「モンスターハンター」を始めとしてハンターと名の付く作品を紹介してきたが、残念ながら今回はハンターと名の付く作品ではない。本来なら前回紹介した「不思議ハンター」の本誌連載版を紹介するべきなのだが、あいにく私は単行本を未所持なので。なんで他の黒岩よしひろ作品は電子書籍化されているのに、コレだけされていないのだろうか

 他にも黄金期以外だったらハンターと名の付く作品はいくつかあるが、どれも単行本未所持で電子書籍化もされていないのでネタ切れである。なので、いっその事「HUNTER×HUNTER」でも紹介しようとも思ったが、さすがにメジャー過ぎて改めて紹介してもしょうがないので今回は「HUNTER×HUNTER」と作者が同じこちらを紹介したい

 

 てんで性悪キューピッド(89年32号~90年13号)

 冨樫義博

 

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作者自画像4冊ぶんまとめて


 作者は87年に「ジュラのミヅキ」でホップ☆ステップ賞佳作受賞、更に「ぶっとびストレート」で第34回手塚賞準入選するも雑誌掲載はされず、同年増刊ウインタースペシャルに「とんだバースデイプレゼント」が掲載されてデビューを飾る。翌88年オータムスペシャルから3号連続で増刊に読切作品が掲載されたのち「狼なんて怖くない‼」が89年20号に掲載されて本誌デビュー。そして同年32号から本作品で初の連載を開始する事になったのであった。因みに次号では成合雄彦が「カメレオンジェイル」でやはり初連載を開始していて、後のジャンプの看板作家が立て続けにデビューを飾っているのは興味深い事実だ

 

 そんな本作品は、暴力団の跡取り息子で女性嫌いの鯉昇竜次と、それを直す為魔界から送られてきた悪魔のまりあが織りなすラブコメディである

 鯉昇家は代々スケベな家系で、父の竜蔵も竜次の他にそれぞれ別の女性に産ませた4人の娘を持つほどスケベであったのだが、そんな環境で育った為に竜次は現実の女性に興味を持てず、いつか天使か妖精が現れて、美しい森の中で2人で仲良く暮らすだなどと現実逃避していた。竜蔵はこのままでは鯉昇家が衰退してしまうと心配し、竜次と一緒に暮らして女性に興味を持つように仕向けるスケベの家庭教師を雇う事を決めたのであった

 更に他にも竜次の心配をする者がいた。それは悪魔たちである

 悪魔たちにとって鯉昇家の男子の魂は超高級品であり、このまま竜次が現実の女性に興味を持てずに血が途絶えてしまったら大きな損失となる。のみならず、未来予想によるともし竜次に子供が生まれたなら、その子供の魂は途轍もない価値になるという。なので、竜蔵に家庭教師として雇われるべく魔界から下級悪魔のまりあを送り込んだのだが、人間界に現れて早々悪魔の姿を竜次に見られてしまい…という感じで始まるドタバタ劇は、積極的に迫る女性キャラと逃れようとする男性キャラという構図も相まって高橋留美子の「うる星やつら」の影響を感じさせる。いや、家族が暴力団で姉妹が一杯という設定だから江口寿史の「ストップ‼ひばりくん!」の方か

 ところで、本作品は短期終了作品の中では比較的知名度が高い方だろう。それも当然で、作者は後に「幽☆遊☆白書」に「HUNTER×HUNTER」と大ヒットを飛ばしたのだから…という理由ではない。確かにそれによって知名度が更に上がったのは事実だが、本作品は連載当初から読者に強い印象を与えていたのである

 その理由は、第1話の冒頭からして女性(悪魔だが)の全裸が堂々と描かれていたからだ

 勿論そういうシーンは冒頭だけでなく、テーマがテーマだけに作品の随所に見られる。おかげで私もそうだが、当時の読者の中には作者の事をエロ売りの作家と思っていた者も少なくなかっただろう。だが、作者の後の作品が女性の裸どころか女性が登場する事自体少なく、登場したとしても幻海とかビスケとか性的魅力に欠けるキャラだという事を考えると、本作品は作者にとって非常にイレギュラーな存在だったと言える

 

 何故、本作品はエロいシーン満載となってしまったのか?それはおそらく担当編集者の存在が大きかったのではないかと思われる

 漫画の担当編集者は、特にジャンプにおいてはデビュー前の頃からマンツーマンで漫画家と密に接している事から、漫画家に対する影響力はかなり強く、まだ実績のない若手からすれば頭の上がらない存在である。その力は作者も「幽☆遊☆白書」の単行本19巻のカバー折り返しに 担当→原作者の同義語の場合あり などと書くくらいに作品にも影響を及ぼす程だ。そして、当時の担当編集者である高橋俊昌は、他に担当した漫画家が「きまぐれオレンジロード」のまつもと泉、「BASTARD!」の萩原一至、そして前回紹介した黒岩よしひろと、どういう事かその作品は総じて肌色成分が多い傾向にあるのだ。また、先程「ストップ‼ひばりくん!」の影響を感じさせると書いたが、高橋俊昌は江口寿史の担当だった事もあるし、加えて後に「ヘタッピ漫画研究所R」に作者が登場した際、本作品を黒歴史扱いしているシーンが描かれている事からも、作品の方向性を決める段階において担当が主導的な役割を果たし、作者の方はあまり乗り気では無かったという推測も決して穿ち過ぎとは言えないと思う

 結局本作品は、作者の乗り気の無さが反映されたのか、エロい以上のインパクトは残せず、その分野の本家とも言える桂正和の「電影少女」の連載が開始されると、お役御免とばかりに連載終了となってしまった

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 と、短期で終了してしまった上、作者から無かった事にされている本作品であるが、下世話な話、他人の黒歴史を覗き見るのは楽しいし、なによりもあの冨樫義博の描いたエロいシーンを見る事が出来るというだけでも一読の価値はあるのではなかろうか