黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

原点回帰し過ぎ問題

 黄金期の終焉から早や二十五年が過ぎ、当時の誌面を彩った漫画家の多くは第一線から引いており、鬼籍に入った者も見られる。中には荒木飛呂彦のように今も尚現役バリバリで存在感を放っている者もいるが、数少ない例外と言えるだろう

 そんな例外の1人として外す事が出来ないのが、ゆでたまごである

 二十年以上の時を経て2011年11月から週プレNEWSで連載が再開された「キン肉マン」は、(それを批判する気は無いが)かつての人気だけが頼りで中身は明らかにパワーダウンしている安易なリバイバル作品とは違って当時と変わりない、いや、むしろ当時よりもパワーアップしていると思えるような熱い話になっており、最早現在進行形で連載が続いている漫画を読む事が殆ど無くなった私が続きを楽しみにしている数少ない作品となっている

 という訳で、今回紹介するのはゆでたまごによるこの作品だ

 

 SCRAP三太夫(89年24号~40号)

 ゆでたまご

 

画像は電子書籍版です

 作者は原作担当の嶋田隆司と作画担当の中井義則という同級生2人によるコンビで、高校在学中の78年に「キン肉マン」で赤塚賞準入選、翌79年2号に掲載されデビュー&初登場を飾る。のだが、当時副編集長で後に第3代編集長となる西村繁男の著書「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』」によると、2人は漫画家になれると考えておらず、既に就職が決まっていたという

 

shadowofjump.hatenablog.com

 そこを西村と、「キン肉マン」に登場するアデランスの中野さんのモデルでお馴染みの編集者である中野和雄の2人で当時2人が住んでいた大阪まで赴き、例え漫画家として成功しなくとも就職口を紹介すると説得して親の承諾を得て79年22号から「キン肉マン」の連載を開始する。と、これがいきなりTVアニメ化し、キン消しことキン肉マン消しゴムがバカ売れして社会現象となるなど大ヒットを記録して一躍ジャンプの看板作家に登り詰める。また、「キン肉マン」の連載と並行してフレッシュジャンプ82年8月号からは「闘将‼拉麵男」の連載も開始している(~89年1月号)

 87年21号で「キン肉マン」が連載終了すると、程なく同年34号から「ゆうれい小僧がやってきた!」の連載を開始し、翌88年24号で終了。そして同年43号及び89年5・6号で読切作品の「SCRAP三太夫」を掲載、それが連載化となり24号から開始されたのが本作品である

 そんな本作品は、20XX年、東京我楽太シティのロボット警備隊基地のS級ロボット警官、三太夫の奮闘を描くロボット警察漫画である

 ところで作者と言えば、時にゆで理論などと揶揄されるトンデモ理論や滅茶苦茶な展開と、それをカバーして有り余る熱いバトルが魅力である事からバトル漫画畑の人間と思っている方が多いと思うが、元々は前述の通り赤塚賞出身というギャグ畑の人間であり、代表作である「キン肉マンからして、特にその初期においてはギャグが目立つ内容となっているのを忘れてはならない

 主人公の三太夫は、原料不足からそこらに捨てられていた粗大ゴミを原料に作られ、それでも足りない頭部を補う為に近所のレトロ屋(所謂古道具屋)でバケツを買い、マジックで顔を描いて乗っけて完成させたという間に合わせのロボット警官。なのだが、そのバケツが実はかつて最強と謳われた柔術家、姿サンタローが返り血を洗い流すのに愛用していたバケツであり、それには柔道着と数々の奥義が封じられ、サンタローの霊がとり憑いていた。…柔術家なのに柔道着なのかい、と突っ込んではいけない。当時は格闘技に対する世間の知識は乏しく、柔術という言い方は柔道の古風な言い方なのだろう程度の認識でしかなかったのだ。まあ、読者側はそれでもいいけど作者側がその程度でどうかとは思うが

 さておき、そんな経緯から三太夫は普段はダメダメでS級、と言ってもSuperとかSpecialなどという上等な意味ではなくではなく、下等なScrap級の称号を持つポンコツロボットなのだが、正義の怒りが頂点に達するとバケツからボロジャケットことサンタローの柔道着が飛び出し、身に纏う事によって二本背負いなどサンタローの得意技が使えるようになり、悪党たちと激闘を繰り広げる

 とまあ、そんな感じなのだが、ボロジャケットが飛び出すのは基本的にクライマックスになってからで、物語の大部分は普段のポンコツ三太夫がウンコマシンガンだのジェット小便だの小学生が喜ぶようなギャグ満載の言わばズッコケヒーロー漫画となっている。考えてみれば「キン肉マン」も序盤はそんな話、というか、タイトルからして「ウルトラマン」のパロディであり、そういう意味では本作品は作者の原点に回帰した作品と言えるだろう

 だが、それは作者の原点ではあるかもしれないが、なにせ「キン肉マン」がブレイクしだしたのは超人オリンピックが始まりバトル路線に舵を切ってからであり、今更初期路線を踏襲する事など読者は望んでいなかった。結局本作品は5話目にして掲載順がかなり後ろの方に追いやられ、「キン肉マン」で超人オリンピック編の第一次予選が始まる第29話にも届かない19話、その内巻末掲載が5回という体たらくで終了してしまった。ラストエピソードは「キン肉マン」と世界観を共有しているかのような示唆があったが、アレは最初から考えていた事なのか、テコ入れが間に合わなかっただけなのか

 尚、余談ではあるが、つい先日とあるTVでバカリズムが本作品を評して気の抜けたコーラなどと例えていたが、私が例えるならコーヒー牛乳である。それはまだコーヒーの味を経験していない子供にとっては親しみやすい味だが、既にコーヒーの味に慣れた者にとっては風味が薄いし甘すぎるので求めたものとは違うと感じる。(超人オリンピック以降の)「キン肉マン」のようなバトル漫画を期待したのにバトル要素の薄いギャグ路線で読者の期待を裏切った本作品にはピッタリではあるまいか