黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

どう考えてもアレの影響

 開運!なんでも鑑定団というTV番組を知らないという人はあまり多くないだろう

 知らない人の為に一応説明しておくと、ゲストや応募者が自分の宝物を披露し、それを専門家が鑑定して値段をつけるという二十年以上も続いているバラエティ番組で、TV離れが進んでいる現在ではそこまで元気はないものの、かつては毎週のように20%を超える視聴率を叩き出し、年配者だけじゃなく若者の中にも骨董品に興味を持つようになった者が増えたものだ

 そして開運!なんでも鑑定団の人気がピークであった95年、ジャンプで骨董屋を主人公とする作品の連載がスタートした。それが今回紹介するコレだ

 

 かおす寒鰤屋(95年51号~96年9号)

 大河原遁

 

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作者自画像

 作者の大河原遁は85年に大河原正敏名義で第5回ニューフレッシュジャンプ賞準入選を受賞、同年フレッシュジャンプ10月号で受賞作である妖仙遊録が掲載されてデビューを飾る事となる

 その後89年にはLONELY ARMYで手塚賞佳作を受賞するがなかなか本誌に登場する機会がなく、本誌に登場したのはデビューから約九年後、94年に開催された黄金の女神像争奪ジャンプ新人海賊杯の参加者としてであった

 これは若手漫画家の読切作品を毎号掲載し、読者アンケートで3位以内に入った作品は連載が約束されるという企画で、作者はDies Ireaという現代の必殺仕事人的な作品でエントリーするも残念ながら圏外、そして翌95年に行われた第2回にかおす寒鰤屋でエントリー、見事3位となり連載を勝ち取ったのであった…と言っても、エントリー作品は4つしかなかったのだが

 

 そんな経緯で連載がスタートした本作品は、古美術店の寒鰤屋を営む主人公倉本駆馬の元に持ち込まれたり、主人公の方が目をつけたりしたお宝が出てきて、それを欲しがる悪人が非道な手段を使って手に入れようとするところを駆馬が上泉新陰流の技で成敗して解決、という流れの時代劇でよく見られるフォーマットで、そこに骨董をトッピングしましたという感じだ

 本作品について作者は単行本カバー折り返しの挨拶で「尊敬する藤子不二雄先生や、つげ義春先生が骨董を題材にした作品を発表されたのを見て、いつか自分もやってみたいという試案がありました」と述べている

 私はそれを嘘だなどと言うつもりはない。つもりはないが、この時期にやってみたみたのはどう考えても開運!なんでも鑑定団のおかげで骨董がちょっとしたブームになっていたからだよね

 

 そんな事情故か、本作品は色々なところに急拵えの歪みが見受けられる

 まず気になるのは、そもそもの主題である骨董品からして物語の起点になる以外の役目が薄いという事だ。まあ、当時はちょっとした骨董ブームだといってもジャンプ読者の中にはそんなに骨董話に食いつく人もいないだろうし、週に19ページしかない中で骨董品をガッツリ絡ませるとなると他に割くページがなくなってしまうのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが、そこを薄味にしてしまった為に前述の第1回で3位以内に入る事の出来なかったDies Ireaとあまり変わり映えがしないというか、ジャンプで短期終了してしまう作品の典型的タイプになってしまっている。この手の話は私は好きなんだけど、本当にすぐ終了してしまうんだよなあ…

 更にエピソードの質が話数を重ねるにつれ完全に右肩下がりになってしまっているのが残念な点だ。序盤は出てくるお宝をなんとかエピソードに絡ませようとする工夫が見られ、特に第2話なんかは楽茶碗と落語のネタである井戸の茶碗を掛けて人情噺に仕立てるという構成で私好みのエピソードなのだが、後半になるとそんな機転は無くなり、展開もキャラの非常識な行動で強引に話をかき回すというものが多くなってしまっている

 ここら辺は作者が初の連載、それも週刊連載という事で一杯一杯になってしまったのだろう。作者の述懐によると当時は初の連載という不安を抱えていた上に、群馬在住で週に二日だけ上京して集英社の会議室で原稿を仕上げるという変則的な生活、更に不摂生の為にアレルギー性皮膚炎を発症してしまったという。こんな状況では自分の実力を充分に発揮するのは難しかっただろう

 しかし、そんな作者の状況など読者も編集部も気にする訳もなく、気になるのは話が面白いか、人気があるかだけである。結果、本作品は僅か九週で終了と相成ってしまう。元々少年誌向けのテーマではない上に途中から息切れしてしまったとなれば止む無しだろう。そして作者はその後ジャンプでは読切作品は掲載される事はあったが連載作品はこれが最初で最後となってしまったのだった

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あまり期待されていなかったのか、三週目には早くも後ろの方に追いやられている

 だが、それは作者の経験不足を物語っていても実力不足を物語っていた訳では無い。その証に時を経て2003年にスーパージャンプで連載を開始した王様の仕立て屋は、服の仕立て職人が主人公という更にニッチな主題ながらもジャンプより年齢層が高めの読者層には受けがいいようで、スーパージャンプ休刊後はグランドジャンプPREMIUM、更にグランドジャンプと掲載紙を替え、今も尚連載が続く人気作となっているのである

 今となっては王様の仕立て屋は読んだ事があるけど本作品は読んだ事が無い、若しくは憶えていないという人の方が多くなっているかもしれない。そういう人には是非読んで欲しい。王様の仕立て屋のルーツが本作品にあるとわかるはずだ。