黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

サクラ革命よ、静かに眠れ

 明日6月30日、所謂ソシャゲの「サクラ革命 華咲く乙女たち」(以下「サクラ革命」)のサービスが終了する。栄枯盛衰の激しいソシャゲ界隈ではサービス終了など日常茶飯事で珍しい事でもないかもしれないが、大手であるSEGAがかつての看板IPである「サクラ大戦」を持ち出し、その前段として「新サクラ大戦」のアニメ及び家庭用ゲームを制作するなどかなり力を入れたにも関わらず半年余りでのサービス終了は、いくら何でも早すぎると驚きの声があると共に、「新サクラ大戦」の時点で旧来のファンにそっぽを向かれ、新規には見向きもされないという有様なのにサービスを強行した時点でどんな判断なんだと訝られ、肝心の「サクラ革命」の出来もアレだったので早期終了も当然だという声も少なくない

 いきなりこんな事を語りだして、それがジャンプと何の関係があるのかと疑問に思う方もいるだろうが、黄金期ではないもののちゃんとジャンプと関係あるので安心して頂きたい

 それはどんな関係かというと「新サクラ大戦」のキャラクタデザインを担当したのが、あの久保帯人だという事だ。いや、「サクラ革命」の方ではないからやっぱり関係ないじゃないかと言われるかもしれないが、そこは気にしてはいけない

 という訳で今回紹介するのは久保帯人の代表作である「BLEACH」、では無くてこちらの作品だ

 

 ZOMBIEPOWDER.(99年34号~2000年11号)

 久保帯人

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 作者は95年に久保宣章名義で描いた「FIRE IN THE SKY」がホップ☆ステップ賞最終選考作となり、翌96年「ULTRA UNHOLY HEARTED MACHINE」が増刊サマースペシャルに掲載されてデビュー、同年36号には「刻魔師麗」が掲載されて本誌デビューを飾る。更に97年51号に「BAD SHIELD UNITED」を掲載した後、ペンネームを久保帯人と変え99年34号から本作品で連載デビューを果たしたのである

 そんな本作品は12個集めると死者は蘇り生者は永遠の命を得る薬であるゾンビパウダーが手に入るという死者の指輪を探して主人公の芥火ガンマとその仲間たちが旅を続ける冒険&バトル漫画である

  物語の舞台はアメリカ西部開拓時代にスチームパンク的ファンタジーを加えた感じだろうか。血と硝煙に溢れ、ならず者が闊歩する力こそ正義の世界で、賞金稼ぎであり自らも賞金首でもあるガンマ達が行く先々で騒動に巻き込まれるといった構成は「ONE PIECE」を意識しつつも、その退廃的な雰囲気はアンチ「ONE PIECE」を志向したとも言える

 ところで、作者と言えば、その作風はオサレとかスタイリッシュとか皮肉交じりに形容されているのがネット上で散見されるが、作者の代表作である「BLEACH」の連載が開始された頃にはもうジャンプを読まなくなっており、なんなら本作品の連載時も既にいい年になっていて惰性で読んでいた私は正直あまりピンと来なかった。のだが、この記事を書くにあたって単行本を買って読み返して納得してしまった。確かにキャラの台詞の言い回しや構図といった作中だけにとどまらず、単行本カバー折り返しの普通は作者の写真や自画像を載せる欄やカバーを外した表紙の地のデザインでも俺は他とは違うと言わんばかりの強い自己主張を感じて正直苦笑を禁じ得なかった

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 などと言っておきながら掌を返すようであるが、このような意見は私のように冷めた目線で見ている者や「BLEACH」の連載が長くなりすぎて途中で飽きてしまった者によるネット上の声の大きな意見と、それに影響されてネタとして拡散されているに過ぎないというのが個人的な考えだ。確かに自己主張の強い作風とは思うが、それは同時に作者の強い個性として他作品との差別化に役立っているし、そもそも論としてそんな意見が大半を占めるなら、何度も言っているが長期に渡って連載を続けるのが非常に困難なジャンプで「BLEACH」の連載を十五年も続けられる訳がないだろう

 とは言え、本作品は「BLEACH」と違って短期で終了しているので、気になる部分もある。これが初連載というキャリアの薄さに加え、単行本3巻折り返しの作者あいさつによると連載当時は精神状態がガタガタだったという事が影響しているのか、絵は雑だし、所々に挿入されるギャグは作中の雰囲気にそぐわず明らかに浮いている。中でも一番問題だと思うのは、元々全体的に情報不足気味な上、伏線のつもりなのか無駄に情報を隠した思わせぶりな台詞をちょこちょこはくので主人公のガンマすらどんなキャラかよくわからないまま読者置いてけぼりで物語が進んでしまう事だ。そして、中途で連載が終了してしまう為に結局最後まで読んでもわからないままというのは、短期終了作品あるあるだったりする

 ところで、一部には本作品が短期で終了してしまった理由を内藤泰弘の「トライガン」に類似している為とする意見もあるが、私は似ていないなどと言うつもりはないがそれが理由で連載を終了させられる程とは思わない。まあ「トライガン」についてはアニメを見ただけで原作は未読だから、間違った意見かもしれないが。それよりは上に挙げた問題の為、他の雑誌ならまだしも黄金期が終ってしまっていたとはいえバトル漫画の総本山とも言えるジャンプで長期に渡って連載を続けるられるだけのクオリティには残念ながら達していなかった事の方が大きいと感じられる。ぶっちゃけヒット作品なら多少問題があっても連載を終了させるなんて判断にはならないだろうし…作者が逮捕されたりしたら別だが

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 真相はわからないが、ともあれ本作品は27話、期間にすると半年余りで連載終了と相成ってしまい、今となっては語られる事も殆どなくなってしまっている。一方「サクラ革命」のサービス期間は本作品にも及ばないが、種々の悪評もあってしばらくはネタ的な意味で語られる事だろう。まさに悪名は無名に勝る状態ではあるが、「サクラ革命」や「新サクラ大戦」ネタで盛り上がった時には本作品の事もついでに思い出して頂ければ幸いである

名作と名作の狭間に

 前にも述べたが、黄金期のジャンプでは長期に渡って連載を続けるどころか、連載を持つ事すら非常に困難である。ましてやそれを複数の作品で成し遂げる事は非常に稀であり、黄金期を代表する漫画家でも1つの作品では大ヒットを飛ばしたものの、後が続かなかったというケースは少なくない

 そんな稀な人物の1人に入るのが徳弘正也である。黄金期の初期においては「シェイプアップ乱」を三年近く連載し、黄金期真っ只中においては「ジャングルの王者ターちゃん♡」及びそれを改題した「新ジャングルの王者ターちゃん♡」を合わせて七年以上も連載しただけではなくTVアニメ化まで果たしており、両作品については当時の読者なら当然のように憶えているだろう。そういえばTVアニメでターちゃんを演じたのがブレイク前の岸谷五朗だったというのも今となっては味わい深い話である

 だが、両作品の間に連載したこの作品の事を憶えている方は一体どれだけいるだろうか

 

 ターヘルアナ富子(86年22号~36号)

 徳弘正也

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 作者は82年に「美女は肉料理がお得意」で赤塚賞佳作を受賞、その後「彼女の魅力は三角筋?」と「軟派巌流島」の2本がフレッシュジャンプ83年2月号に掲載されてデビューすると、同年26号から「シェイプアップ乱」の連載が開始され、本誌初登場にして連載デビューを飾る事となる。そして86年、「シェイプアップ乱」が1・2合併号で連載終了の後、18号に読切作品の「What’s おニャン子」を掲載、その僅か4号後の22号から連載が開始されたのが本作品である

 そんな本作品は、カバー絵と杉田玄白が翻訳した解体新書の原題であるターヘルアナトミアをもじったタイトルから察する通り、医療漫画である…と言いたいところだが、正直医療が話の核心に絡む事はあまりなく、実際は診療客の少ない開業医の娘で高校生の亀田富子と、その同級生で向かいに住む曹星寺の息子の天童空也が中心となって繰り広げられる学園&ホームコメディと言った方が適切だろう

 ならば医療はどこに絡むのかというと、主にギャグである

 各エピソードは、例えば、開腹手術に成功したけどまた同じところを開腹するかもしれないからと傷を縫合するのではなくファスナーをつけたり、忘れ物を窓から渡そうとしたら微妙に届かなかったので、手術中の患者の腕を切断してマジックハンドのように使ったりといった感じで、わりとドギツくもあり、コントチックでもあるネタを冒頭に掴みとして入れておいて、本筋は医療関係ない人情噺を展開し、最後にギャグで締めるというパターンが多い

 これは「シェイプアップ乱」、「ジャングルの王者ターちゃん」の両作品でもままある作者の十八番とも言える構成で、話の面白さでは本作品も劣らない、とまでは言い過ぎかもしれないが、作者の魅力は発揮できていると思う。のだが、だからこそタイトルにまでした医療関係の設定があまり生かされておらず、必要があったのかとも感じてしまう。特に後半の話になると、冒頭のギャグすら医療に関係ないケースも出てくるので尚更である

 医療が本筋にあまり絡まない理由は、作者の医学に関する知識が心許ない為であろう

 医療漫画の代表格と言えばなんといっても「ブラックジャック」だろうが、その作者である手塚治虫が医師免許を所持しているという事実は有名であろう。また、ジャンプの黄金期にライバル誌であるマガジンで連載されていた「スーパードクターK」も医師でもあり漫画家でもある中原とほるが原案協力をしている

 無論両作品ともあくまで漫画であるので、内容は必ずしも現実に即しているとは言えない部分も多い。しかし話をそれっぽく見せる為には、ネットですぐに調べる事の出来る今と違って、当時は作者の知識に依存するところが多かったのである

 翻って作者の場合はどうかというと、wikipediaで調べた所、出身大学に医学部は無いようなので本人が医師免許を所持しているという事はなさそうだ。また、単行本1巻のおまけページによると本作品を書くにあたり、郷里の高知に帰って医薬品会社に勤める兄に医師を紹介して貰って取材したとあり、逆に言えば親兄弟みたいな気軽に話を聞ける続柄の中には医者がいない事がうかがえる。これでは本格的な医療シーンを描こうとしても無理な話で、医療コントみたいなものになってしまうのも止む無しだろう

 別にコントが悪いと言うつもりはない。むしろ作風を考えれば本格的な医療シーンよりもコントの方が作者の特性を生かすという意味では良いとも考えられる。ただ、問題は設定上医療を絡めざるを得ないケースが少なからず出てくる事に加え、医療というものは命のやり取りが常の現場である為、コントとしては扱いが難しい部分もある事だ

 その辺りの窮屈さが影響したのか、本作品は15話という短さであっけなく連載終了を迎えてしまう。デビュー作でいきなりのヒットから一転しての短期終了に心中はいかほどであったか。作者はその気持ちを単行本1巻のおまけページで以下のように語っている

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 あっという間の連載だったが作家にとってどの作品も愛着がわくもんで

 この作品が終った時は残念だった。もう少年マンガは書くのはよそうと思った。

 田舎へ帰って小さなスーパーマーケットでも開いて暮らそうかなと思った。

 地域に密着した。地元の人達から愛される店長さんになろうと思った。

 

 まあ、ギャグ漫画家の語る事であるから全てを鵜呑みにする事も出来ないが、こういう事を書いている時点で少なからずショックを受けたのは想像に難くない

 

 本作品の終了後、作者は同年に創刊されたスーパージャンプで「ふんどし刑事ケンちゃんとチャコちゃん」の連載を開始して一時ジャンプ本誌を離れる事になるが、その連載を続けながら88年には「ジャングルの王者ターちゃん♡」で本誌復帰を果たす事となり、それがどれだけヒットしたかについては冒頭で触れた通りである。が、その舞台設定が何でも出来るようかなり緩くなっていたのは、本作品の挫折を踏まえての事だと推測するのは穿ち過ぎだろうか

再び鬼門のジャンルに挑んだ男

 前回紹介した「ハードラック」の作者の樹崎聖であるが、同作品が僅か11話で連載終了という挫折を味わうものの、ホップ☆ステップ賞を満票で入選した実績故か次のチャンスは意外と早く到来し、連載終了後半年も経たぬうちに88年増刊サマースペシャルで「TEENAGE BOMB」を掲載すると、翌89年41号から再びジャンプ本誌で連載を持つ事となる

 それが今回紹介するこちらだ

 

 とびっきり(89年41号~90年23号)

 樹崎聖

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作者自画像もカラーになりました

 さて、その内容であるが、1巻2巻のカバーを見ると知らない方はラブコメのように思われるかもしれないし、実際そういう要素もないでもないが、4巻のカバーを見ればご察しの通りである。そう、またもボクシング漫画だ

 前回も述べたがボクシング漫画はジャンプの黄金期において単行本が10巻以上出版されるほど続いた作品は今泉伸二の「神様はサウスポー」のみしかない鬼門のジャンルである。というのは今振り返っての結果論に過ぎないので、だからボクシング漫画は駄目だとか言う気は無い。が、同じ作者で一度失敗したジャンルに続けてチャレンジしようという案を、作者はともかく編集サイドは何を考えてゴーサインを出したのだろうか。ましてや当時は「神様はサウスポー」が連載中だったのにである。全くもって謎だ

 さておき、勿論作者としては同じボクシング漫画だからと言って結果も同じにならぬよう、本作品は「ハードラック」と比べて色々と差別化が図られている

 まずわかり易いのは絵のタッチであろう

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 並べて比べてみると一目瞭然だが、同じような特徴の主人公なのに「ハードラック」と比べるとデザインが全体的に丸くなり、それがポップな印象を与えている

 そして絵に対応するかのように設定の方も前作のような重たさは軽減し、かなりポップに仕上がっている

 まず主人公の性格からして段違いだ。「ハードラック」の主人公である原田勇希は狂犬だの暴れ狼だの言われた札付きの不良なのに対し、本作品の主人公の鳶木空はヘタレだが口では大きな事を言ってしまい、挙句、その為に転校しなければならなくなってしまったというコメディじみた設定となっている

 そして、空が転校先でも、実際はボクシングジムに行って三時間で投げ出したという経験しかないのに、オリンピックで金メダルを取る事を目標にしてジムに通っていると大口を叩き、その上偶然にも近所の与太高校のボクシング部のエースである大場を叩きのめした為(どんな偶然だ)に周りが盛り上がってしまい、引くに引けなくなってボクシングをやる事になるというのが物語の導入である

 導入からして如何にも少年漫画的だが、その後の展開も多分に少年漫画的だ。大場との因縁、秘密の特訓、対戦相手の卑劣な行為による負傷と、数々の困難を乗り越えた末に空は口だけのからっきしな男でなく、とびっきりのヒーローへと成長する。まさにジャンプの三大要素である「努力」、「友情」、「勝利」の詰まった王道的な物語。伊達にボクシング漫画をわざわざ続けた訳じゃなく、「ハードラック」が描きたい話を優先させた為にあまり読者の事を考えていない節があるのに対し、本作品はちゃんとジャンプの読者層を考えてチューンしてある事がうかがえる

 …しかしながら、それでもやはりジャンプにボクシング漫画は2つも要らないようで、本作品は前作の「ハードラック」と比べると3倍近く連載が続いたが「神様はサウスポー」との争いに敗れる形となり32話であえなく終了となる。だけではなく、「神様はサウスポー」もまた本作品の終了から二ヵ月もせずに終了してしまうという皮肉な結果となってしまう

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終盤は「神様はサウスポー」と巻末、ブービーのワンツーを飾る事も何度かあった

 最後に作者のその後について触れておこう

 本作品の終了後の作者は、本誌で読切が掲載されたり、増刊で何度か掲載された「TACHYON FINK」が単行本化されたりしたものの、本誌では再度連載を持つ事は叶わず94年36・37合併号に掲載された「風と踊れ! 時代を疾走ぬけた男バロン西」を最後に本誌を離れる事となってしまった。が、96年からスーパージャンプ梶研吾が原作を担当する「交通事故鑑定人環倫一郎」の連載を開始すると好評を得て続編も含めると2003年まで続く長期連載となり、その余勢をかって05年にはなんと約10年ぶりにジャンプ本誌で読切「FALLEN」を掲載するという快挙を遂げたのであった

 また、06年からは東京デザイナー学院で数年ほど講師を務め、その経験から09年には「10年メシが食える漫画入門 悪魔の脚本 魔法のデッサン」という指南本を出版すると好評を得てその後何冊も続編が出版されたという

 このあたりの活躍は、作者の事を憶えている当時の読者でも知らない人は結構いるのではないだろうか、と言うか私がまさにそうだった。やはりホップ☆ステップ賞を満票で入選を果たしたのは伊達では無かったのである

 

 

鬼門のジャンルに挑んだ男

 当ブログでは前回まで3回にわたって、ジャンプ本誌に作品が掲載された事があるものの、連載を持つ事が出来なかった者たちを扱ってきた。そしてその2回目において十津川菜生・水流添了の「テイクオフ」を紹介した際、私は以下のような説明をした

 

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因みにこの年の47号から52号にかけては毎号新人の読切作品が掲載され、その顔触れは森田まさのり稲田浩司萩原一至という錚々たる面々に加え、以前紹介した有賀照人もおり、うち5人が後に連載デビューを果たしている。そう、作者以外の全員がである

 

 お気づきであろうか、作者以外の5人が連載デビューを果たしていると言いつつ、名を挙げられているのは4人しかいない事を。という訳で今回紹介するのは、名を挙げられなかった5人目の人物によるこの作品だ

 

 ハードラック(87年52号~88年12号)

 樹崎聖

 

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作者自画像(短編集ffより)

 作者は87年に「ff(フォルテシモ)」でホップ☆ステップ賞を満票で入選、31号に掲載されてデビュー。同年48号には上に挙げた6号連続読切作品の1つとして「カズ!」を掲載すると、4号後の52号で早くも本作品で連載デビューを果たす事となる

 「カズ!」の掲載から一ヵ月では、アンケートの集計から始まり連載化の可否の決定、連載用のネームの準備、そして執筆という手順を踏んでいたら到底間に合わないので、「ff」の時に連載デビューは既に決まっていて、「カズ!」は連載前の試運転といったところだったのだろう。実際私も「カズ!」については印象がないのだが、「ff」はピアニストの物語というあまりジャンプ向けとは言えない作品ながら妙に印象に残っており、だからこそ本作品の連載が開始した時には期待もしたのだが

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「ff」と「カズ!」はこちらに収録されている

 それはさておき、本作品は不良少年である主人公の原田勇希が、名門高校に入学させてもらう代わりに半ば無理矢理始めさせられる事になったボクシングで試練に見舞われながらもチャンピオンを目指すボクシング漫画である

 ところで、以前宮下あきらの「BAKUDAN」(本宮ひろ志の「ばくだん」ではない)を紹介した時、ボクシング漫画はジャンプとあまり相性が良くなく、その黄金期において単行本が全10巻以上の作品は今泉伸二の「神様はサウスポー」しかないと書かせて貰った。言わばボクシング漫画はジャンプにとって鬼門のジャンルなのである

 

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  その原因は、ボクシング漫画は大別するとバトル漫画に分類されるものの、狭いリングの上でパンチによる攻撃しか認められないという極めて限定的なバトルしか出来ない為、バトルとしては見栄えが良くないという事がまず挙げられる

 勘違いして欲しくないが、ボクシングが見栄えが良くないと言っているのではない。ボクシングはクリンチの多い試合を除けば試合が硬直するケースが少なく、KOで決まる試合も多いからむしろ格闘技の中では見栄えの良い方だと思う。ただルールの縛りが厳しい為に漫画的な見栄えのする行動をとらせ辛く、結果、漫画で見るより実際の試合を見た方が面白いとなってしまうのだ

 そしてもう1つは、ハングリースポーツと言われている為か、主人公の身の上が不幸な場合が多く、物語が暗くなりやすい傾向にあると私は考える

 「あしたのジョー」の矢吹丈は孤児、「リングにかけろ」の高嶺竜児は父を早くに亡くした上、母の再婚相手に虐待を受けており、そして本作品連載時はまだ連載前だが黄金期ジャンプで唯一単行本が10巻以上続いた「神様はサウスポー」の早坂弾もやはり父を早くに亡くして修道院に預けられるなど、成功したボクシング漫画を見てもこの傾向は強い。だからこそ暗い雰囲気を吹っ飛ばし、かつ、バトルの見栄えをよくする為にギャラクティカマグナムとかクロスカウンターとか神の拳といった派手でわかり易い必殺ブローが必要になるのだろう

  翻って本作品の主人公、勇希であるが、やはりご多分に漏れず父を早くに亡くした母子家庭育ちという生い立ちである。それも有望なボクサーだった父が網膜剥離で引退を余儀なくされた為に生きる希望を失ってしまったのが原因なので、ボクシングを憎んでいるというおまけつきの

 生い立ちだけでも充分暗いが、物語が進むと更に暗くなる。当初は真面目にボクシングに取り組んでいなかった勇希も、中学時代に偶然助け、高校生になって再開する事になる少女の菜穂や、チャンピオンになるという自分の夢を勇希に託す同僚の松島などから応援されボクシングに真面目に取り組もうとした矢先、対戦相手を死なせてしまい、世間からバッシングを浴びるという不幸に見舞われるのだ

 このあたりの展開は本作品に期待していた私も正直読むのが辛く、ジャンプを購読していた頃はほぼ全作品を、それこそ特に面白いとは思わない作品でも2度3度と読み返していたのに、本作品は読み返す気にならなかった記憶がある。「あしたのジョー」においても力石徹が丈との試合直後に死んでしまうという有名過ぎるエピソードがあるが、ああいった話は読者が作品に引き込まれてからならともかく、そうじゃない序盤にやるには、特にアンケート結果でアッサリ終了が決まってしまうジャンプではマイナスが大きいと思う

 そして、本作品はそのマイナスを挽回する機会を与えられぬまま、あえなく11話で連載終了となったのであった

 

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ジャンプで連載を持つという事の難しさ3

 さて、前回、いや、前々回では、ジャンプ本誌に作品を掲載された経験があるものの連載を持つまでには至らなかった者を、①連載は持てなかったが単行本は出版された者、②ジャンプでは連載を持てなかったが他誌で連載を持てた者、③どこでも連載が持てず単行本も出版されずに姿を消した者の3つに分け、①のケースに該当する者を紹介した。という訳で今回はその続きである

 

 まず②のケースであるが、ジャンプに作品が掲載される事自体、他誌よりもはるかに高い競争率をくぐり抜けて来なければ出来ない、即ちその時点である程度の才能が備わっているという事だ。なので、ジャンプで連載を持つのは無理でも他誌でなら、というのは充分に考えられる事で、このケースに該当する者は10人程度いる。中には該当するかどうか判断に悩むケースもあったのでキッチリ人数を出せないが

 そんな中からまず1人

 南寛樹

 作者は95年に「おやじのゲンコツ」で赤塚賞佳作受賞、翌96年16号に掲載される、と同時期に南ひろたつ名義でサンデーまんがカレッジ努力賞を受賞し増刊サンデーにも掲載されている。名義を変えているのはジャンプの専属契約に触れるからなのだろうか。その後ジャンプでは98年45号に「コンチク笑ゥ‼」、99年2・3合併号に「MADDOGS」が掲載されるが連載には至らなかった一方で、サンデーでは97年4号から「もぅスンゴイ‼」の連載を開始、同作品の終了後、99年16号からは「漢魂!!!」の連載を開始している

 私はジャンプに掲載された読切作品に関しては憶えていないが、サンデーに連載された両作品の事は当時結構サンデーを読んでいたので憶えている。なんと言うか、読者が100人いるならその内の数人はドハマりするけど、大半はつまらないと感じるようなニッチ向けの不条理ギャグ漫画だ。まあ、両作品に限らず不条理ギャグ漫画はそういうものではあるが。因みに私は大半の方に分類される読者で、ほぼほぼ読み飛ばしていた。そしてニッチ向けではアンケート至上主義のジャンプで連載を持てないのも当然の話と言える

 

 そしてもう1人

 戸田邦和

 

 作者は「ROUND」で91年手塚賞準入選、同年増刊サマースペシャルに「ONCE AGAIN」と2本同時に掲載されてデビューを果たす。更に「闘志が一番!」がウインタースペシャル、「てやんでいっ!」が翌92年サマースペシャルに掲載された後、高橋陽一のアシスタントを務めるようになり、「CHIBI」や「キャプテン翼ワールドユース編」の執筆を手伝っていたという。そして94年25号にスポーツライター木村公一原案でメジャーリーガーのマック鈴木の伝記的な話である「MAX マック鈴木の挑戦」で本誌初掲載を飾る事になる

 その後、本人がインタビューで語っていたところによると、アシスタントを続けながらジャンプで連載を持つべくネームを作っていたが、その中の自信作を担当編集者に見せたら作風がまったくジャンプ向けでは無かったせいか「なんでこんなの描いたの?」と小一時間ほど問い詰められたという。なので、知り合いのつてで他所に持ち込んだら評価され、それがチャンピオンで連載が始まった「RAIN DOG」になったそうだ。尚、余談であるが、作者は連載を持ってからも高橋陽一との縁は続いており、かの「キャプテン翼」のリメイク作品である「キャプテン翼 KIDS DREAM」の作画担当として最強ジャンプ18年5月号から連載を始める事になるのであった

 

 そしてもう1人は②のケースに該当すると共に①のケースにも該当するという特殊な例、つまりジャンプで連載を持つ事は出来なかったがジャンプブランドの単行本は出版され、その後他誌で連載を持つ事が出来たというケースだ

 死神に乾杯

 富沢佑

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画像は電子書籍版です

 作者は85年に「放助」で手塚賞佳作受賞、87年増刊オータムスペシャルに表題作である「死神に乾杯!」が掲載されてデビュー。翌88年37号にタイトルが同じ「死神に乾杯!」が掲載されて本誌初登場を飾る。また同年にはファンロードの第1回ファンロードコンテストにて「逃げ水」で入賞している。結局ジャンプ本誌では1本しか掲載されなかったが、富田安紀良と名義を変えて96年からビジネスジャンプで「ほっといてよ!まま」の連載を開始すると、これがTBSドラマの愛の劇場枠で「ママまっしぐら!」のタイトルを変え芳本美代子主演で3度にわたってドラマ化されるヒットとなる。そして現在は富田安紀子名義でも活動しているようだ

 単行本の内容は、表題作が主人公の前に現れる死神が実は美女だったというラブコメに人情噺を加えた感じで、「放助」も収録されているがこちらも人情噺風だ。また、私は未読だが代表作である「ほっといてよ!ママ」が所謂昼ドラ化されている事からも作風はジャンプ向けでは無いと言える。ジャンプ読者が昼ドラを見る事なんてほぼ無いだろうし

 ところで気になったのは、富沢佑というペンネームに加え、単行本の解説漫画に登場する本人の見た目が男か女かわかり辛い(しかも一人称はオレである)のは、ジャンプの読者層を意識して性別を隠す意図があったのだろうか。後にジャンプで連載を持つ事になるかずはじめや樋口大輔も女性なのにそんなペンネームだった事も考えると穿ち過ぎでもないと思うのだが

 

 最後に③のケースで、これに該当する人物が一番多いのだが、連載経験も無く単行本も出版されていない人物となると、これまでの2ケースにもまして情報が少ない。また、私もさすがに読切が掲載されただけの作者及び作品については記憶が無く、ジャンプのバックナンバーを保管していないので読み返す事も出来ないので語るべきものが無いというのが正直な話である

 そんな中で唯一私の記憶に残っているのが第2回GAGキングに輝き、91年6号に掲載された小島茂之の「拳闘王ゴッドフェニックス順平」だ。と言っても記憶は結構あやふやで、作者を同じ回の特別賞を受賞したうすた京介と混同して、「セクシーコマンドー外伝すごいよ‼マサルさん」の連載が開始された時に、『あの「拳闘王ゴッドフェニックス弾平」(タイトルも微妙に間違えて憶えていた)の作者がついに連載を持ったか』と勘違いしたという適当さだが。なので、内容の方も間違って憶えているかもしれないが、順平と後輩にして宿敵であるキングファンシー徳野との戦いを描いたボクシングギャグ漫画だったと思う

 作者は第2回GAGキングだけあって編集者の期待も高く、同年15号に「平凡太郎の奇跡」、更に18号に「ド真面目!サラリーマン教師」と立て続けに読切が掲載されたが、審査員や編集部ほど読者には評価されなかったのか連載を持つには至らず、準キングだったつの丸の方が連載を持ち成功するのだから、やはりギャグマンガの評価は難しい

 

 その他の作品となると、この記事の為に作ったジャンプ黄金期に掲載された読切作品のリストを見返しても全くピンとこなかった。例えば90年の23号と24号の2号にわたって白樺啓の「ピエロのしんちゃんがドバドバ」という作品が掲載されたのだが、こんなにインパクトのあるタイトルにもかかわらず何一つ思い出せるものがない有様である。同じく90年では7号にジョン・M・陸克の「RUSH BALL・REMIX」という作品が掲載されているがこんな特徴的なペンネームなのにやはりサッパリ記憶に残っていない。しかもこれは滅多に出ない事で知られる手塚賞の入選作品にも関わらず、よほどアンケートが芳しくなかったのか、作者は以後一度も作品が掲載されずじまいだ

 長くなるのでこれ以上は挙げないが、他にも各漫画賞の受賞者が当たり前のように一度きりで姿を消す事もまま有り、改めてジャンプで連載を持つという事が如何に難しいかを改めて思い知らされた次第である

約30年ぶりの新刊

 本日は前々回紹介した岩泉舞の約30年ぶりの新刊となる「MY LITTLE PLANET」の発売日である

 

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  宣言通り私も購入したのでその報告ついでに軽いレビューをしていきたいと思う

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帯のコメントは村田雄介

 

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 見ての通りカバーデザインはバック以外は「七つの海」と一緒だが、サイズは一回り大きく、ジャンプコミックスサイズではなくヤングジャンプコミックスサイズだ。いや、出版が小学館に変わったからビッグコミックスサイズと言うべきか。そしてカバーはリバーシブルになっており、裏返すとこの為に描き下ろしたこちらになる

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 約30年経ったのと、おそらくコンピュータで描いているのが相まって絵のタッチはだいぶ変わった印象だ。洗練したとも言えるし、没個性になったとも言えるから、この辺は賛否両論あるかも

 さて内容の方であるが、「七つの海」に収録されていた作品に関しては、掲載当時カラーページだった所はカラーで再録されているのが良い。あと、私の所持している「七つの海」はかなり灼けて黄ばんでいるので、比較するとページの白さが眩しく感じる

 次に初収録となる「COM COP 夢みる佳人」(原作村山由佳)、「KING]、「クリスマスプレゼント」(武論尊)であるが、こちらも掲載当時カラーページだった所はカラーで収録されている。が、原稿からではなくジャンプからの転載である為若干荒れが気になるのが残念。話の方は、正直再読するまでは記憶の彼方だったのだが、読んでいるうちに次から次へと思い出してきて、ノスタルジーと自分のポンコツさに泣けてきた。あと、原作付きの2作品については、勿論良い話ではあるし、作品自体にケチをつける気は無いんだけど、元々ストーリーテリングが巧みな作者にわざわざ原作者をつける必要があったのか今更ながらに疑問が

 そして最後に本単行本の目玉と言える描き下ろしの新作「MY LITTLE PLANET」。相変わらずストーリーテリングは巧みであるが、約30年という年輪がそうさせたのか、結構ダーク寄りで」皮肉の効いた作品となっている。これまでの作品でも「たとえ火の中…」とかはダーク寄りではあったが、メインキャラの1人がここまでダークなのは初めてだ

 まだ軽く一読しただけだが、面白く、作者の才能が感じられる作品ばかりである。と同時に改めて思うのは、やはりジャンプ向け、少なくともジャンプのメイン読者層に受けるタイプではないという事だ。今更詮無き事ではあるが、もし作者がジャンプではなく他の雑誌でデビューを目指していたらどうなっていたかと思いを馳せる自分がいる

 

 ところで余談ではあるが、私が本単行本を買いに行った時、1件目の書店では入荷してないばかりか、店内の端末で検索をかけたら「該当商品なし」と返されて、もしかして新刊が出るというのは現実ではなく夢の出来事だったのかと一瞬思ってしまった。まあ、そんな訳はなく2件目で見つけたのだが、それでも在庫はたった1冊だった。私は地方在住ではあるが、結構大きめの都市で書店も大きかったのにこのザマであるから、買いに行ったのに売って無かったとスゴスゴ帰ってきた方もいるのではないか。そういう方は電子書籍版もあるのでそちらも考慮に入れたらどうであろう

 

ジャンプで連載を持つという事の難しさ2

 さて、前回私はジャンプに作品が掲載された経験はあるものの、連載を持つには至らなかった漫画家として岩泉舞とその作品集である「七つの海」を紹介させて頂いた。だが、実はこのような例はそれほど珍しい事ではない。黄金期のジャンプに掲載された読切作品は全部で209にのぼるが、本誌で連載実績のない新人(姉妹誌など他誌で経験している人含む)が掲載されたケースは延べ67人、その内連載を持つ事の出来なかった作家は29人と結構な数になるのだ。しかもこれはあくまでジャンプ本誌に限った事で、本誌では掲載された経験はないがフレッシュジャンプや増刊といった姉妹誌で掲載された経験はあるという者も含めればその数はさらに増えるという事は言うまでもない

 そしてそういう者たちは大別すると、岩泉舞のように何度も作品を掲載され、読切だけで単行本が出版されたような者、ジャンプ本誌では連載を持つ事は叶わなかったが他誌で連載を持つ事が出来た者、そしてあまり機会を与えられず、どこからも単行本が出版されずに姿を消してしまった者の3つに分けられる。今回はその各々から何人かをピックアップして紹介していきたいと思う 

 尚、最初に言い訳をしておくが、元々この時代のサブカル情報はネットで調べても情報が少なく、ましてや連載を持つ事の無かった漫画家となるとマジで情報が皆無だ。なので、ここで紹介する情報は不確かで間違っている可能性も大いにある事を念頭に置いて頂きたい

 

 まず最初は読切だけで単行本が出版された者たちで、これは3つの中では圧倒的に数が少ない。まあ、何度も作品が掲載されるという事は編集者から目をかけられるだけの才能があるという事だし、チャンスも充分に与えられているのだから、よほどの事がない限りは連載を持つ事が出来るから当然と言えば当然であるが

 これに当てはまる者は岩泉舞を含めても片手で足りるほどで、そんな中の1人はこちらだ

 瀬戸際少年野球団

 小林義永

 

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 作者の名前が最初にジャンプ本誌に登場したのはかなり特殊なケースである。それはどんなケースかというと、79年46号の「こち亀」にて、登場キャラの星逃田がカルチェのライターを無くして、ラストのコマでライターを探してくれと読者に呼びかけるというネタがあったのだが、それに対して編集部に100円ライターに銀紙を張り付け「かるちぇ」と書いた物を送り付けてきたのが作者で、その顛末が80年2号に掲載されている。それって同姓同名の別人なんじゃないの?と疑う方もいるかもしれないが、本人と思われるTwitterに「ジャンプで使用させていただきましたので」という文言が入った秋本治のサイン色紙の画像があるので本人で間違いない

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ライターを落とした話が17巻に、届けられた話が18巻に収録されている

 そして時を経て正式に作者が本誌に登場したのが86年42号の「彼女が家にきた日」で、更に次号の43号でも「家庭教師エイリアン」と連続登場を果たしている。ただ、掲載順は42号が下から3番目、43号に至っては巻末と、期待されているのかされてないのか微妙な扱いである。翌87年25号には表題作である「瀬戸際少年野球団」を掲載。その後五年のブランクをはさんで92年15号に「夢みるウメオちゃん」が掲載されたのが最後となっている

 尚、これまた本人と思われるTwitterによると、91年21・22合併号のF1特集でモナコグランプリのコース図を描いたのも作者であり、当該の号が復刻版として再版される事になったので再掲載の許可を求める連絡が来たという。当時は気にしていなかったが、こういう風に若手が誌面に載せるイラストを描いた例は他にも一杯あったんだろうなあ

 さて、内容の方であるが、露骨に「瀬戸内少年野球団」をパクった表題作からも察せられる通りギャグ漫画だ。そして、このジャンルは才能の見極めが非常に難しいジャンルである。と言うのも、ギャグが笑えるか否かは完全に個人個人の好みによるもので、例え編集者が面白いと思ってもそれが読者に受けるとは限らないからだ。因みに読者の1人であった私はどう感じたかというと、正直全く覚えていないし、今読み返してみると80年代ノリが気になって正当な評価を下せそうにない。が、連載に至らなかったという事はそういう事なのだろう

 

 続いてもう一例

 テイクオフ

 十津川菜生・上水流了

 

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左右の目の大きさの違いが気になる…

 原作者付きの作品だが、武論尊大場つぐみのように本職の人間ではなく、元々コンビと言うかサークルで活動しているようで、本単行本には他にT.OHKAWAとY.KAINUMAという名前もクレジットされている。カバーの一番下に書かれているSTUDIO FALCONというのがサークル名なのだろう。本単行本の解説によると、これ以前はM書房の某アニパロ誌に掲載された経験があるという。おそらくみのり書房月刊OUTの関連誌だと思われるが、情報不足で残念ながら確定までには至らなかった

 ジャンプ関係では84年に手塚賞の最終選考まで残る(結果は選外)と、翌85年に「BLUE ARROW」がフレッシュジャンプに掲載されてメジャーデビュー。86年には増刊サマースペシャルに「ハート♡スキャナー」が、オータムスペシャルに「あざみはライバル☆」が掲載、そしてついに87年51号に「あ・ぶ・な・い☆エンジェル」が掲載されて本誌デビューを果たしたのであった。因みにこの年の47号から52号にかけては毎号新人の読切作品が掲載され、その顔触れは森田まさのり稲田浩司萩原一至という錚々たる面々に加え、以前紹介した有賀照人もおり、うち5人が後に連載デビューを果たしている。そう、作者以外の全員がである。だからという訳でもないだろうが、作者はこれが本誌初登場にして最後の登場となってしまい、以後の足取りは途絶えている

 

shadowofjump.hatenablog.com

  内容の方は現代のおとぎ話風あり、柔道ものあり、スパイアクションあり、と書くと多彩な作風に思われるかもしれないが、実際はどれもこれもラブコメの為に取ってつけた設定という感が否めない。この辺の掘り下げの浅さが同じくジャンプ向けのテーマでは無かった有賀照人と明暗を分けたのだろうか

 と、3つのタイプを全て紹介するつもりだったのが予想外に長くなってしまったので、続きは次回に