黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

戦場バトル漫画が挑んだ過酷な戦場

 前にも述べたかもしれないが、ジャンプにおける花形ジャンルと言えば、やはりバトル漫画であろう。その誌面を彩ってきたバトル漫画はジャンプの黄金期どころかジャンプを、いや、少年漫画を代表すると言っても過言ではない「DRAGONBALL」を筆頭に、「北斗の拳」、「幽☆遊☆白書」、「魁!男塾」など枚挙にいとまがない。が、反面、花形だけにバトル漫画は作品数が多く、しかも上に挙げたような錚々たる面々と同じ誌面で争わなくてはならない為に短期終了作品が多いジャンルでもある。故に各々が他作品より目立とうと趣向を凝らすのだが…

 そう、今回紹介するのはそんなバトル漫画たちによる連載の存続を賭けた血で血を洗う争い、まさにバトルロワイヤルに趣向を凝らした作品で参戦するも、敗れ去ってしまった者たちの1つである

 

 モートゥル・コマンドーGUY(95年32号~44号)

 坂本眞一

 

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 作者は90年に「キース‼」でホップ☆ステップ賞入選、同作品が翌91年に増刊スプリングスペシャルに掲載されてデビュー。更にもう1本増刊に読切作品が掲載された後、93年29号に原作者付きの読切作品「ブラッディ・ソルジャー」が掲載されて本誌デビュー。94年33号では第1回ジャンプ新人海賊杯に「モートゥルコマンドーGUY」でエントリーして見事2位に輝いて連載権をゲットし、95年1号の「心の求道者 史上最強の空手家アンディ・フグ物語」の掲載を経て同年32号から連載を開始したのであった。尚、ジャンプ新人海賊杯についてはこちらの記事で触れてるので参考にされたし

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 さて、単行本のカバー絵を見て、映画の「ランボー」のようだと思う方もいるかもしれない。それも無理なからぬことで、本作品の主人公である本城ガイは「ランボー」のランボーと同じく米軍特殊部隊所属の軍人である。そしてあらゆる格闘技の長所を取り込んで1つにした「モートゥル・コマンドー」と呼ばれる必殺の戦闘術を駆使して戦うバトル漫画が本作品だ

 主人公のガイは元ジャーナリストであり、麻薬犯罪の取材で南米のギズエラを訪れたところ、麻薬組織に拉致されてしまう。そして組織の麻薬工場で強制労働させられていたところを仲間と共に命辛々脱走する事に成功したのだが、その際に恋人のルシアが取り残されてしまった。ルシアの救出をギズエラ政府や現地の日本大使館に嘆願するも相手にされなかったガイは、自力でルシアを救出する為、そして二度とこのような悲劇が起こらぬよう世界中の麻薬組織を壊滅させる為に特殊部隊に志願し、自らを戦闘マシーンと化したのであった

 

 もうお分かりかと思うが、作者が他のバトル漫画との差別化の為に本作品に凝らした趣向がタイトルにも使用されている必殺の戦闘術、モートゥルコマンドーである。特殊部隊仕込みの総合戦闘術という設定はおそらく旧ソ連軍隊格闘術であるコマンドサンボをヒントにした事は、作者の短編集である「ブラッディ・ソルジャー」の中のおまけ漫画に当時コマンドサンボの使い手であるヴォルク・ハンが参戦していた総合格闘技団体であるリングスのイベントを観戦したエピソードが描かれている事からも推察できる。また「ブラッディ・ソルジャー」にはデビュー作でもある「キース‼」と「心の求道者 史上最強の空手家アンディ・フグ物語」も収録されているのだが、前者は近未来の宇宙プロレス漫画、後者はタイトル通りに空手家アンディ・フグのエピソードを漫画化したものであり、作者がかなりの格闘技好きだという事は間違いない。そして、軍隊戦闘術をリングの上ではなく実際の戦場で駆使させてみようという発想が作品の出発点だったのではなかろうか。当時UFCの発足等によって、ポルトガル語で『何でもあり』という意味を持つバーリトゥードの格闘イベントが話題になりつつあったが、それ以上に何でもありな戦場でやらせてみようと

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本作品の読切版はこちらに収録されている

 だが、実際にそれをやらせてみると問題点があった。と言うのも戦場はバーリトゥードなんか目じゃない真の何でもありな場所だからである

 何しろ自分も相手も武器を持っているのでわざわざ近づかずに銃を撃った方が効果的であるし、近づいたら近づいたでナイフを使わない理由もない、と言うかそもそも1対1で戦わなきゃいけないわけでもないのだ。なので、せっかく考案したモートゥルコマンドーであるが、人質を取られて武装解除させられた時など限定的な状況でなければ存分に駆使する場面がないのだ。結果、大部分はバトルと言っても武器を持ってのまさにランボーのようなものになり、それはそれで面白いのだがテーマと内容が乖離してしまったのが残念である。一応武器を持ったバトルの時でも太陽を背に戦うとか、環境を利用した戦闘術の片鱗は見せたが、蘊蓄の域を出ず見せ場にはならなかったし

 

 結局本作品は12話であえなく終了となってしまう。が、当時のジャンプの連載陣を見ればそれも止む無しだろう。「DRAGONBALL」は終了していたものの、同時期に連載されていたバトル漫画はアニメ化された作品だけでも「NINKU」「るろうに剣心」「とっても!ラッキーマン」「ジョジョの奇妙な冒険」「DRAGON QUEST ダイの大冒険」という錚々たる顔ぶれであり、更に不幸な事に本来作者がやりたかったであろう総合格闘技路線には「陣内流柔術武闘伝 真島クンすっとばす‼」が既に居座っていたとあってはこれが連載デビュー作になる新人が戦うには相手が強大過ぎた

 ジャンプにおけるバトル漫画同士の連載続行をかけた戦いは、ある意味では本当の戦場以上に過酷なのかもしれない

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以前紹介した「ファイアスノーの風」の次の号に連載が始まり、終了も同作品の次の号であった

 

 

 

冨樫がちゃんと仕事していた頃

 当ブログでは「モンスターハンターRISE」の発売以来、平松伸二の「モンスターハンター」を始めとしてハンターと名の付く作品を紹介してきたが、残念ながら今回はハンターと名の付く作品ではない。本来なら前回紹介した「不思議ハンター」の本誌連載版を紹介するべきなのだが、あいにく私は単行本を未所持なので。なんで他の黒岩よしひろ作品は電子書籍化されているのに、コレだけされていないのだろうか

 他にも黄金期以外だったらハンターと名の付く作品はいくつかあるが、どれも単行本未所持で電子書籍化もされていないのでネタ切れである。なので、いっその事「HUNTER×HUNTER」でも紹介しようとも思ったが、さすがにメジャー過ぎて改めて紹介してもしょうがないので今回は「HUNTER×HUNTER」と作者が同じこちらを紹介したい

 

 てんで性悪キューピッド(89年32号~90年13号)

 冨樫義博

 

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作者自画像4冊ぶんまとめて


 作者は87年に「ジュラのミヅキ」でホップ☆ステップ賞佳作受賞、更に「ぶっとびストレート」で第34回手塚賞準入選するも雑誌掲載はされず、同年増刊ウインタースペシャルに「とんだバースデイプレゼント」が掲載されてデビューを飾る。翌88年オータムスペシャルから3号連続で増刊に読切作品が掲載されたのち「狼なんて怖くない‼」が89年20号に掲載されて本誌デビュー。そして同年32号から本作品で初の連載を開始する事になったのであった。因みに次号では成合雄彦が「カメレオンジェイル」でやはり初連載を開始していて、後のジャンプの看板作家が立て続けにデビューを飾っているのは興味深い事実だ

 

 そんな本作品は、暴力団の跡取り息子で女性嫌いの鯉昇竜次と、それを直す為魔界から送られてきた悪魔のまりあが織りなすラブコメディである

 鯉昇家は代々スケベな家系で、父の竜蔵も竜次の他にそれぞれ別の女性に産ませた4人の娘を持つほどスケベであったのだが、そんな環境で育った為に竜次は現実の女性に興味を持てず、いつか天使か妖精が現れて、美しい森の中で2人で仲良く暮らすだなどと現実逃避していた。竜蔵はこのままでは鯉昇家が衰退してしまうと心配し、竜次と一緒に暮らして女性に興味を持つように仕向けるスケベの家庭教師を雇う事を決めたのであった

 更に他にも竜次の心配をする者がいた。それは悪魔たちである

 悪魔たちにとって鯉昇家の男子の魂は超高級品であり、このまま竜次が現実の女性に興味を持てずに血が途絶えてしまったら大きな損失となる。のみならず、未来予想によるともし竜次に子供が生まれたなら、その子供の魂は途轍もない価値になるという。なので、竜蔵に家庭教師として雇われるべく魔界から下級悪魔のまりあを送り込んだのだが、人間界に現れて早々悪魔の姿を竜次に見られてしまい…という感じで始まるドタバタ劇は、積極的に迫る女性キャラと逃れようとする男性キャラという構図も相まって高橋留美子の「うる星やつら」の影響を感じさせる。いや、家族が暴力団で姉妹が一杯という設定だから江口寿史の「ストップ‼ひばりくん!」の方か

 ところで、本作品は短期終了作品の中では比較的知名度が高い方だろう。それも当然で、作者は後に「幽☆遊☆白書」に「HUNTER×HUNTER」と大ヒットを飛ばしたのだから…という理由ではない。確かにそれによって知名度が更に上がったのは事実だが、本作品は連載当初から読者に強い印象を与えていたのである

 その理由は、第1話の冒頭からして女性(悪魔だが)の全裸が堂々と描かれていたからだ

 勿論そういうシーンは冒頭だけでなく、テーマがテーマだけに作品の随所に見られる。おかげで私もそうだが、当時の読者の中には作者の事をエロ売りの作家と思っていた者も少なくなかっただろう。だが、作者の後の作品が女性の裸どころか女性が登場する事自体少なく、登場したとしても幻海とかビスケとか性的魅力に欠けるキャラだという事を考えると、本作品は作者にとって非常にイレギュラーな存在だったと言える

 

 何故、本作品はエロいシーン満載となってしまったのか?それはおそらく担当編集者の存在が大きかったのではないかと思われる

 漫画の担当編集者は、特にジャンプにおいてはデビュー前の頃からマンツーマンで漫画家と密に接している事から、漫画家に対する影響力はかなり強く、まだ実績のない若手からすれば頭の上がらない存在である。その力は作者も「幽☆遊☆白書」の単行本19巻のカバー折り返しに 担当→原作者の同義語の場合あり などと書くくらいに作品にも影響を及ぼす程だ。そして、当時の担当編集者である高橋俊昌は、他に担当した漫画家が「きまぐれオレンジロード」のまつもと泉、「BASTARD!」の萩原一至、そして前回紹介した黒岩よしひろと、どういう事かその作品は総じて肌色成分が多い傾向にあるのだ。また、先程「ストップ‼ひばりくん!」の影響を感じさせると書いたが、高橋俊昌は江口寿史の担当だった事もあるし、加えて後に「ヘタッピ漫画研究所R」に作者が登場した際、本作品を黒歴史扱いしているシーンが描かれている事からも、作品の方向性を決める段階において担当が主導的な役割を果たし、作者の方はあまり乗り気では無かったという推測も決して穿ち過ぎとは言えないと思う

 結局本作品は、作者の乗り気の無さが反映されたのか、エロい以上のインパクトは残せず、その分野の本家とも言える桂正和の「電影少女」の連載が開始されると、お役御免とばかりに連載終了となってしまった

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 と、短期で終了してしまった上、作者から無かった事にされている本作品であるが、下世話な話、他人の黒歴史を覗き見るのは楽しいし、なによりもあの冨樫義博の描いたエロいシーンを見る事が出来るというだけでも一読の価値はあるのではなかろうか

まだいるジャンプの狩人たち

 今回紹介するのも「モンスターハンター」に因んでハンターと名の付く作品である

 因みにゲームの方の「モンスターハンター」のプレイ状況は、加齢の為かすぐに目が疲れてしまったり、咄嗟に翔虫受け身を取ろうとするとよくZLとLを間違えてショートカットを呼び出してしまった挙句砥石を使用して無防備な姿をさらしてしまったり、いまだに砂原のマップが把握していなかったりとダメダメだが、それでも回復薬をガブ飲みして時間を掛ければ何とかなるもので、マガイマガドを倒して一段落したところだ。今後も何とかなるかはわからんが…

 それはさておき、紹介する作品はハンターと名の付くといっても「HUNTER×HUNTER」ではない、とこれは前回も言ったか。更に言えば「CITY HUNTER」でもない。アレは黄金期の作品ではあるが短期終了作品ではないので。と言いつつ、今回紹介するのはジャンプ本誌に連載された作品ではないのだが

 それはこちらだ

 

 不思議ハンターSpecial

 黒岩よしひろ

 

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画像は電子書籍

 

 本作品の作画を担当する黒岩よしひろのデビューまでの経歴は、少し前に紹介した「サスケ忍伝」で触れたのでそちらの方を参考にして頂きたい

 

shadowofjump.hatenablog.com

 「サスケ忍伝」が僅か10話で終了した後は、翌87年22号からは「魔神竜バリオン」の連載が開始される、が、こちらも僅か11話で終了。更に88年23号からは「変幻戦忍アスカ」の連載が開始される、が、やはり僅か18話で終了と相成ってしまう。3作品を合わせても39話、単行本にして4冊(サスケ忍伝1、魔神竜バリオン1、変幻戦忍アスカ2)という結果では、普通はとっくに見切りをつけられてもおかしくないのだが、それでもまだチャンスを与えられるのだから、編集部は作者にどれだけ期待していたのだろうか。とは言え、さすがにこれまで通りにさせておく訳にもいかず、まずは本誌ではなく増刊で掲載して反応を確かめる事にしたようだ

 そんな本作品は、不思議な出来事を依頼を請けて解決する不思議ハンターを自称する雷門竜太、空子の兄妹が、怪奇現象の解明に挑む伝奇漫画である

 さて、黒岩よしひろ作品の特徴と言えば魅力的な女性キャラと露出多めなシーンであるが、当然本作品でも健在だ。主人公兄妹の片割れである空子は勿論、エピソード毎に女性のゲストキャラが登場するシステムは、もしやハンター繋がりという事で「CITY HUNTER」を意識したのだろうか…そんな訳ないか

 一方、ストーリーについては 、作者がこれまで連載した3作品は、話としては多少の差異があるとはいえ、基本的には強力な力を手にした主人公が悪の軍団と戦いを繰り広げるという戦闘ヒーローもの一辺倒で、話作りの引き出しに欠けるのか、それとも好みまで師譲りなのかわからないが、どちらにしろジャンプではあまり受けない作風だった。それが本作品では、さすがに自身も3回連続の短期終了という結果を見てここが正念場だと思ったのか、あとがきによるとネームにだけで一ヵ月から二ヵ月もかけ、これまで温めていたアイデアを詰め込んで通常なら100ページを超えていたものをブラッシュアップして雑誌掲載サイズに切り詰めたという気合の入れっぷりである

 基本的な話としては前回紹介した諸星大二郎の「妖怪ハンター」と同じく、ハンターと言っても物理的に狩るのではなく原因の解明、解決を主題としているのだが、作者は絵を描く事に比べると話を作る方はあまり得意ではないのか、それだけ時間をかけたわりに正直話としては安直な勧善懲悪ものが多く、登場する妖怪も天狗だの河童だのメジャー中のメジャーなものばかりと、「妖怪ハンター」と比べるとオリジナリティにおいて見劣りがするのは否めない。が、諸星作品がこの時点の作者と同じく3回連続短期終了した事を考えると少年漫画としてはそのくらい単純明快の方がいいのかもしれない。一応作者なりにひねりを効かせてちゃんとオチをつけているし、そこに女性のゲストキャラを絡めているあたり、自分の特性をしっかり生かしていると言える。人間、追いつめられるといつにない力を発揮できるというのはまさにこの事か

 その懸命さが功を奏し、本作品は88年ウインタースペシャルから89年オータムスペシャルまで増刊で4号連続という長めの使用期間を経て、ついに連載を勝ち取る事となる。そして作者のジャンプ4度目にして最後の闘いが始まるのであった

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ハンター3人揃い踏みの図



モンスターハンターだけではない ジャンプの狩人たち

 さて、当ブログでは前回「モンスターハンター」を紹介したが、今回紹介するのもハンターと名のつく作品である。あ、先に断っておくと「HUNTER×HUNTER」ではない。アレは黄金期の作品でもないし短期終了作品でもないので…と言いつつ、実は紹介する作品も黄金期の作品ではないのだが

 それはこの作品だ

 

 妖怪ハンター(74年37号~41号)

 諸星大二郎

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文庫版「孔子暗黒伝」より

 作者は70年に虫プロ商事が発行する雑誌COMの読者投稿コーナーであるぐら・こんで「ジュン子・恐喝」が入選、掲載されてデビュー。当時は諸星義影名義であった。諸星大二郎名義としては73年に漫画アクション増刊に「不安の立像」で初掲載される事となる。74年には「生物都市」で第7回手塚賞入選、同年31号に掲載されてジャンプデビュー。因みに同作品は入選作が滅多に出ない事で知られる手塚賞の審査員の殆どが推しただけでなく、あまりの完成度の高さに既存の作品を下敷きにしたのではないかと疑われたというエピソードがある。そして同年36号に読切作品「浸食都市」を掲載、なんと次号の37号には早くも本作品の連載が開始されてしまう

 それにしても、ジャンプ(姉妹誌含む)初掲載から連載を開始するまで僅か一月半というスピードは異常である。比較対象として当ブログで紹介した作品の作者で手塚賞入選者は88年の第35回で同時入選を果たした成合雄彦、浅美裕子の2人がいるが、成合雄彦は入選作である「楓パープル」が本誌に掲載されたのが同年の32号、「カメレオンジェイル」の連載が始まったのが翌89年の33号と連載を勝ち取るまで一年掛かっているし、浅美裕子に至っては「ジャンプラン」の掲載が31号、「天より高く!」の連載が開始されたのが91年40号と三年以上も掛かっているのだ

 まあ、これについてはそれだけ作者の評価が高かったというよりも、時代の影響があるだろう。何せ本作品の連載が開始された74年はジャンプにとってどんな状況だったかというと、前年に発行部数でマガジンを抜いてトップに立ったとはいえまだまだ混戦で、頭一つも抜け出せていない状況であった。なので他誌を引き離す為に有力な漫画家が必要なのだが、専属契約制のおかげで既に実績のある漫画家はジャンプで執筆して貰えない。だから早急に有望な新人を発掘しようという思いはそれ以後に比べてかなり切実なものがあった事だろう

 

 そんな本作品は、学会を追放された異端の考古学者である稗田礼二郎が日本全国を巡りつつ、各地に残された伝承と現在起きている怪奇現象を調査する怪奇漫画である

 そう、ハンターと銘打ってはいるものの、稗田は物理的にハントする訳では無い。基本的には調査して原因を解明するのが目的であるので自分から積極的に妖怪に立ち向かおうとはしないし、立ち向かわざるを得なかった時も派手なバトルがある訳でもない、と言うか、そもそも妖怪と呼べるような怪異が出てこない話もあるので、タイトルからそういう想像をした人にとっては肩透かしを食らうかもしれない

 だが、物語としての面白さは掛け値なしである。古事記を始めとした古史古伝を引用して独自解釈しつつ、それに架空の書物、言い伝えの一節で補強した話は異様にして説得力充分だ。あまりそちらの知識に欠ける私なんかはどこまでが本当の話でどこからが作り話か判別がつかない程で、もし漫画ではなく活字の本として出版したなら、下手なオカルト本よりも信じてしまう人が多そうである

 そしてその異様な話を更に異様な雰囲気に仕立て上げるのが作者の独特な画風だ。かの手塚治虫をして「諸星さんの絵だけは描けない」と言わしめたその絵柄は日本画のような趣があり、作品の和風ホラー感を際立たせている

 

 と、魅力満載の本作品なのだが、僅か5話で連載が終了と相成ってしまい、売れないと判断されたのか単行本の発売は見合わせられる事となってしまう。結局本作の単行本が発売されたのはなんと78年になってからで、当然ジャンプスーパーコミックスレーベルでの発売であった

 しかし、この結果は残念であると同時に当然だとも言えよう

 本作品は確かに面白いのだが、それは英語で言えばInteresting、即ち興味深いという意味の面白さであり、少年漫画誌に求められるタイプの面白さではないのだ

 その為、作者は高橋留美子庵野秀明宮崎駿などといった名だたる面々に多大な影響を与えた一方で、ジャンプで連載された作品はその後も「暗黒神話」が全6話、「孔子暗黒伝」が全10話と短命に終わり、異例のスピード連載デビューを果たしたにもかかわらずヒットといえる作品が出ぬままジャンプを離れる事となってしまう

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 その後、ジャンプはバトル漫画を中心にして前人未到の650万部超を記録するまでに至り、そして作者は青年誌を中心に活動するようになって本領を発揮、2000年には手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞、昨年にはNHKEテレ「浦沢直樹の漫勉neo」で採り上げられるなど広く知れ渡るようになるのだから、作者とジャンプとの別れはお互いにとってプラスだったのだろう

 

元祖?モンスターハンター

 世間には今日という日を指折り数えて待っていたという人も多いのではなかろうか。と言うのも、本日3月26日は大人気ゲーム「モンスターハンター」のシリーズ最新作「モンスターハンターRISE」の発売日だからである。かく言う私も年甲斐もなく買ってしまったのだが、加齢で反射神経が衰えているのに大丈夫なのかとプレイ前から心配だったりする

 いきなりこんな話題をされても「モンスターハンター」なんて第1作が発売された時期からしてジャンプの黄金期がとっくに終わった後だし、そもそも漫画じゃなくゲームなんだからVジャンプならともかくジャンプと関係ないだろうと言いたい人もいるかもしれない

 だが、今回紹介するコレを見てもそんな事を言えるだろうか

 

 モンスターハンター

 平松伸二・飯塚幸弘

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ちゃんとゲームの方も購入しているのでご安心?を

 御覧の通り、ジャンプにも「モンスターハンター」はあったのだ。しかも、ゲームの「モンスターハンター」(区別の為、以降ゲームの方は「モンハン」と表記する)の第1作が発売されるより十何年も前に

 だが、その割に本作品の事を知る人は少ないのではないだろうか、と言うより、知っている人は果たしているのだろうか。元々当ブログの性質上、紹介する作品はあまり知名度が無いものが多いのだが、本作品は今まで紹介した中でも一番知名度が無いと思われる。なにしろ本作品は増刊に2回、本誌に1回読切が掲載されただけで、短期終了どころか連載にすら至らなかった作品だからである

 

 本作品の作画を担当する平松伸二は71年50号に掲載された読切作品の「勝負」でデビュー。当時まだ高校1年生という早熟ぶりであった。高校在学中に何本か読切作品が掲載されると卒業と共に岡山から上京して中島徳博のアシスタントを経験した後、75年36号から武論尊が原作を担当する「ドーベルマン刑事」で連載デビューを飾るといきなり連載期間が四年を超える大ヒットとなる。「ドーベルマン刑事」終了後は原作者をつけるのをやめて80年1号から「リッキー台風」の連載を開始。翌年「リッキー台風」が終了してから僅か数カ月後には「ブラックエンジェルズ」の連載を開始するとこれまた大ヒットを記録し、ジャンプにおけるバイオレンス漫画の第一人者としての地位を確立する。当時、私の周りでは細長い棒を自転車のスポークに見立てて雪藤の真似をする友人がいたが、こういう光景は全国で見られたことだろう

 が、ジャンプが黄金期を迎えると徐々にバイオレンス漫画は居場所を失っていき、その後に連載した「ラブ&ファイヤー」、「キララ」と続けて短期終了の憂き目にあってしまう。そして捲土重来を期して久しぶりに原作者を迎えて本作品をまずは87年の増刊サマースペシャルに、同年ウインタースペシャルにも掲載、88年には連載化の可否を探る為に本誌30号に掲載されたのであった

 一方原作を担当する飯塚幸弘は、本作品の他にもう1本原作を担当した以外の詳細は不明である。未確認情報としてはツイッターアカウントは発見したが、ツイートは存在しないので本人かどうか判別は不能で、自己紹介の欄には少年ジャンプ原作者という肩書と共に総合武道会館志光流拳法会長という肩書が見られる。どうやら道着を着用した総合格闘技らしいのだがこちらも詳細は不明だ。いやはや調査不足で申し訳ない

 そんな本作品は、インドの短剣カタールの二刀流、つまり双剣使いで生まれながらにして体に108の傷を持つ男であるシバァがモンスターを狩って狩って狩りまくるという「モンハン」の元となった作品である…というのは勿論嘘だ。「モンハン」の元となったという以外の説明は一応嘘じゃないけど

 実際のところ本作品と「モンハン」の共通点など殆ど見られない。作品によって多少の差はあれど、あまり文化の進んでいないファンタジー世界を舞台とする「モンハン」に対し、本作品の舞台は現代日本だし、「モンハン」では狩るべき標的が人間よりも巨大で姿形も人からかけ離れているのに対し、本作品の標的のサイズは人間と大差なく、姿形も二足歩行でかなり人間に近い

 そんな相手に対して肉が裂け、血が飛び散るいつものバイオレンスな平松節が炸裂するのだから、最早「北斗の拳」すら終了に向かい、健全化が進んでいたジャンプには受け容れられないのも無理はない。一応増刊に掲載された時に比べると本誌で掲載された時はシバァが優男風になっていたりと読者受けは意識したのだろうが連載を勝ち取るには至らなかった。そして本作品を最後に平松伸二はジャンプから姿を消したのであった

 

 尚、本作品の単行本には「モモタロー87」という読切作品も収録されているが、こちらも昔話の桃太郎とはタイトル以外の共通点は殆どないぞ

ジャンプの壁に撥ね返され続けた男

 所謂3大週刊少年漫画誌の中では、ジャンプは他の2誌に比べると伝統的に他所で活躍した実績のある漫画家を起用するケースは少なく、連載陣の殆どは新人を自前で発掘、育成した漫画家が占める事からよく純血主義だなどと言われている。が、その割には新人に見切りをつけるのは早く、初連載作品が短期で終了してしまうとそれっきり二度と誌面に登場しなくなるケースも少なくない

 そう考えると、連載デビュー作品と次の連載作品が続けて短期終了してしまう漫画家はとかく馬鹿にされる事が多いが、次のチャンスが与えられるのだけの評価は受けていたのだと言えよう。小畑健なんかも「ヒカルの碁」でブレイクするまでは土方茂時代から4度も続けて連載作品が短期終了してしまった訳だが、それも評価されているからこそ出来た事だし、実際その評価は間違っていなかったと言える

 

 そんな訳で今回紹介するのは、小畑健と同じく連載デビュー作品から4度続けて連載作品が短期終了してしまった漫画家のこの作品だ。…5度目は無かったが

 

 サスケ忍伝(86年32号~41号)

 黒岩よしひろ

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作者自画像。別に女装癖がある訳では無い…多分

 作者は桂正和のアシスタントを務めながら83年に「ビューティービースト」で第26回手塚賞佳作を受賞、同年には「舞子ミステリアス」で第52回フレッシュジャンプ賞入選となり、フレッシュジャンプ12月号に掲載されてデビューする。その後フレッシュジャンプに幾つか読切作品掲載を経て86年32号から本作品で本誌デビューにして連載デビューを飾ったのであった

 

 そんな本作品は、伊賀忍者の円妖斎の下で修業する事になった甲賀忍者の流サスケが、襲撃を受けた伊賀の里から逃れてきたくノ一の紅百合から、それを抜き自在に操れるものは天下をも統べると言われる妖刀十六夜を託され、妖刀を狙う邪忍の獣王院とその手下の獣魔忍群との戦いに身を投じる事となる忍者漫画である

 さて、ジャンプで忍者漫画と言えば、黄金期終焉後の99年から連載が開始され、如何にもジャンプ的な派手なバトルで当時の看板作品となった「NARUTO」を思い浮かべる方も多かろう。しかし、本作品は「NARUTO」のように如何にもジャンプ的な派手なバトルを中心に話が展開する訳では無く、80年代前半に人気だった忍者漫画である「さすがの猿飛」や「伊賀野カバ丸」の影響か、それとも作者がアシスタントを務めていた時代の桂正和の代表作である「ウイングマン」の影響か、物語は主にサスケが転入してきた私立戦国学園を舞台に展開し、同級生で円妖斎の孫娘でもある美琴とのラブコメ要素が多めとなっている

 そんな本作品の一番の特徴は何かと言うなら、女性キャラの肌の露出の多さだろう

 ヒロインの美琴は毎度のようにパンツが見えるし、敵の攻撃で服が破れて胸が露わになる事もしばしばだし、獣魔忍群のくノ一などは何故かレオタードみたいな際どいコスチュームを着ていてサービス満点である。また、絵柄の方も三十年以上経った今見てみると古い感じは否めないが、それでもなかなか魅力的だ。このあたりは師である桂正和譲りと言えるだろう

 一方、そのおかげでただでさえアッサリ気味なバトルが、更にアイデアや作画リソースを削られて見どころがあまりなくなったという印象も受けてしまう

 そもそも本作品は大ゴマをあまり使わず、しかも全体的に引いた構図が多いのでバトル描写は迫力に欠けるきらいがあるのだが、それに加えてエロに力を入れたぶんアイデアを練り込む余裕が無かったのか、忍者を主題にしたにもかかわらず、作中で使用される忍法はバリエーションが少なく、かつ適当である

 中でも一番酷いのが美琴の「恋のロープをほどかないで」だ。これは新体操のリボンを使って敵を絡めとるという全くもって忍法じゃないし、技名は新田恵利の曲だし、何で新体操部でもないのにリボンを持っているかも不明だしとツッコミが追いつかない忍法である。美琴の忍法は他にも「不思議な手品のように」(これも新田恵利の曲)とか「ノーブルレッドの瞬間」(国生さゆりの曲)があり、他に獣魔忍群のくノ一に魔巳(高井麻巳子)や幽悠(岩井由紀子)がいたりと作者がおニャン子クラブにハマっていたのが窺がえる。こういうネタは私も嫌いではないが、入れる所を考えないと作品の雰囲気が壊れてしまう訳で、その悪い例が本作品と言える

 と、本作品はこれが初連載という作者の未熟さが出て、何がしたいのかとっ散らかって学園ラブコメとしても忍者バトルとしても中途半端になってしまい、短期終了もやむ無しであっただろう

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 が、それにも関わらず本作品が僅か10話で終了してから半年少々で作者は次の連載を始める事となる。あの小畑健ですら初連載作品が短期終了してしまってから次の連載を始めるまで二年も掛かっている事を考えるとこれは破格の待遇だと言えよう。それだけ編集部は作者を買っていたという事であろうし、作者もそれを感じて自分の目の前に栄光への道が開けていると思っていたのではないだろうか。…実際は茨の道であったのだが、それはまた別の機会に紹介させて貰う事としよう

十七年目の復活

 言うまでも無い事と言いつつ前にも言った記憶があるが、ジャンプの正式名称は(週刊)少年ジャンプであり、そのメイン読者層は少年、即ち男性である。その為連載作品の主人公は読者と同性の男性である場合が圧倒的に多く、女性が主人公の作品は極めて少ない。更にヒット作品となると希少も希少で、黄金期において女性が主人公の作品で単行本が10巻以上出た作品は「シェイプアップ乱」くらいしかない有様である。…あ、タイトルから一応「電影少女」も女性主人公としておく。あとミザリィは主人公という扱いでいいのかわからないが、「アウターゾーン」も加えておこう。と、甘めに判定してもそれくらいしか思いつかないのだから、女性主人公というのはジャンプにおいては概ね不遇だと言えるだろう。そう言えば、前回紹介した「BLACK KNIGHTバット」も女性主人公だが、同作品が「コブラ」というヒット作の直後の作品にも関わらず10回しか連載が続かなかったのは、この事も多少は影響があったのかもしれない。あくまで多少であるが

 

 そんな訳で今回紹介するのは女性が主人公のこの作品だ

 

 舞って!セーラー服騎士(88年36号~47号)

 有賀照人

 

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 作者は87年に「スクールウォーズ 風は南から」でホップ☆ステップ賞佳作まであと一歩を受賞(?)。同作品は雑誌掲載はされなかったが、後に単行本ホップ☆ステップ賞セレクション1巻に収録される事となる。更に同年、本誌49号に読み切り作品で「セーラ服騎士」が掲載されてデビューすると、その設定を引き継いだ「舞って!セーラー服騎士」が翌88年増刊スプリングスペシャルに掲載、そして同年36号に同タイトルで本誌連載デビューを果たしたのであった。因みに作者の名前は「あるがてると」と読む。作品及び作者を憶えている方の中にも「あるが」ではなく「ありが」と思っていた方も多いのではないだろうか。…まあ、私もつい最近までそう思っていたのだが

 

 そんな本作品は、三ヵ月学園の生徒である星野舞子が、その正体を隠してセーラー服騎士に姿を変え、学園に蔓延る悪を成敗する正義のヒーロー(ヒロイン)漫画である

 と、こんな説明だと本作品を知らない方は「美少女戦士セーラームーン」のようなものを想像するかもしれない。黄金期ジャンプ作品だと性別は違うが「とっても!ラッキーマン」 とか

 だが、本作品の主人公である舞子はそれらの作品の主人公のように超常的な能力がある訳ではない。両親が共にプロレスラーで、食事に使う箸が10㎏、茶碗が50㎏もあるなど、普通に生活しているだけで体が鍛えられる環境で育ったために力が強いがそれだけであるし、セーラー服騎士に姿を変えると言っても決めポーズや決め台詞と共に変身してパワーアップする事もなく、正体を隠す為にサングラスと帽子を被ったりして変装しているだけの生身の人間に過ぎない。なので、敵方も世界征服を狙う悪の組織なんていう大仰なものではなく、不良使徒とか、優等生を装って裏で悪事を働く委員長とか常識的な範囲に留まっており、バトルシーンも地味でアッサリとした印象だ

 また、学園生活においては、新聞部や悪者どもにセーラー服騎士の正体を探られたり、舞子の幼馴染にして唯一セーラー服騎士の正体を知る辰也と微妙な雰囲気になったりと割とクラシックというかこの時代の学園ものの王道的な展開となっている

 そんな本作品の中で唯一と言っていい特徴を挙げるなら、武器として使用するというよりは、セーラー服騎士登場のサイン的に使用される事の方が多いチャクラムだろうか

 後には使い手が「ONE PIECE」に登場したり、ゲームの「大乱闘スマッシュブラザーズ

SP」で外見や必殺技をカスタマイズできるキャラであるMiiファイターの必殺技の1つとして採用されるなど、今となってはそれなりに知られた存在となった輪っか状の投擲武器であるチャクラムだが、当時は全くと言っていいほど知られておらず、私にとって本作品は初めてその存在を知った作品として今でも強く印象に残っていたりする

 のだが、本作品の連載が始まった時期はほんの数カ月前に黄金期の学園漫画(というよりヤンキー漫画だが)の代表格と言える「ろくでなしBLUES」の連載が開始されたというタイミングの悪さであり、また、バトル漫画としても「DRAGONBALL」を筆頭に伝説級のバトル漫画が犇めいているという更にタイミングの悪い状況であったから、小道具の1つが印象に残ったくらいでは生き残るのは厳しい。ポイントを押さえた堅実な話ではあるが派手さが無い上に女性が主人公の本作品の連載が短期で終了してしまうのは仕方のない事であろう

 

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 と、残念ながら12話で終了してしまった本作品であったが、作者はその後99年からビジネスジャンプで「警視総監アサミ」の連載を開始し、2006年まで連載が続くヒットとなったおかげか、05年にビジネスジャンプの増刊であるBJ魂にて「セーラー服騎士」のタイトルで復活を遂げる事となる。私は復活版の方は未読なので語る事は出来ないが、本作品の続編では無く設定を受け継いだリメイクで、時代が変わった事と掲載誌が青年誌になった事に合わせてシリアス寄りになったという。気になった方は本作品と復活版を合わせて読んで、その違いを楽しんでみるのも一興だろう