黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

「コブラ」の作者による大人のおとぎ話

 前回ここで私はジャンプにおけるヒット作の作者による次回作は本当にコケるのかについての調査報告をしたのだが、その際にあえて触れなかったデータがある

 それは何かというと、まずは改めてこちらの表を見て頂きたい

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 もう一度説明すると、連載作品が単行本にして全何巻になったかを表にしたもので、右が黄金期に連載が始まった全作品、左がヒット作の次回作の物である。そして前回注目したのは作品が短期終了したか否かであったが、今回注目して欲しいのは表の青い部分、単行本が1巻しか出なかった作品の割合だ。一目瞭然だがヒット作の次回作の方が黄金期全体に比べて著しく低くなっているではないか

 まあ、考えてみれば当然の事ではある。ヒットを放った作家に対しては編集部としてもぞんざいな扱いは出来ないし、その次回作には期待もしているだろうから、連載初期においてアンケート結果が芳しくなかったとしても速攻で終了させるという決断は取り辛いものだ。そして逆に言えばヒット作の次回作なのに1巻で終了してしまう作品は相当なモノだと言えよう

 そう、今回紹介するのは、その相当なモノだ

 

BLACK KNIGHTバット(85年31号~40号)

寺沢武一

 

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 作者は76年に手塚治虫のアシスタントとなり77年には「大地よ蒼くなれ」で第13回手塚賞佳作を受賞、同年にジャンプ増刊に読み切り作品「コブラ」が掲載されてデビューを飾る。同作品は翌78年45号から本誌で連載が開始され、幾度か連載中断をはさみながらも84年まで続き、単行本は全18巻を数え、TVアニメ化も果たした上、本誌での連載終了後もスーパージャンプコミックフラッパーと掲載紙を変えて続く人気作となった

 ところで、手塚治虫のアシスタントが手塚賞佳作受賞って大丈夫なんだろうか?別に手心を加えただのと下衆な勘繰りをする訳では無いが、今だと妙な正義感をこじらせた連中が騒ぎ立てて炎上案件になりそうだ

 さておき、「コブラ」の連載が終了した翌85年31号から連載が開始されたのがこの「BLACK KNIGHTバット」である

 

 先に断っておくが、本作品は全1巻と言っても通常のジャンプコミックスではなく、サイズが一回り大きいジャンプコミックスデラックスブランドで出版されており、ページ数も通常のジャンプコミックスより多かったりする。しかしながらページが多い原因はジャンプ未掲載のエピソードが5つも収録されている為であり、連載自体は以前紹介した全1巻作品の「ファイアスノーの風」の11回より少ない10回で終了しているので、仮に連載分のみを収録して出版されていたら通常のジャンプコミックスでも1巻で収まっていただろう。と言うか、未収録のエピソードを5つも描き下ろすくらい気合が入っていたのに10話で終了してしまったのだから、やはり相当なモノだろう

 

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通常のジャンプコミックスとの比較画像

 

 そんな本作品は、異世界レインボーリアでもっとも小さな星にしてもっとも大きな船である星船(スターシップ)を封印していた剣であるサンダースォードを手にし、黒騎士女王(ブラックナイトクイーン)を継いだバット・デュランが、女王を守護する四銃士と共にレインボーリアを駆け回る英雄譚である

 

 さて、私は本作品は相当なモノだと言ったが、それは別に作品の質が悪いという意味ではない。何度も言うが、ジャンプで連載を始める事が出来る時点で作品の質はある程度保証されているのだ。ましてや作者は「コブラ」という傑作を作り上げているのだから、その質については折紙付きだと言えよう

 ただ、問題は作品の内容がジャンプのメイン読者層である少年層と全く嚙み合わない事である

 考えてみれば作者の代表作である「コブラからしてアメコミ風な絵柄のスペースオペラというジャンプ連載陣の中ではかなり異色の存在であった。当時の私なんかはまだ幼くジャンプを購読する前でたまに読む程度であったが、「なんか後ろの方に載っている変な漫画」という印象を持っていたものである。それでも賞金を懸けられている宇宙海賊といういかにもな設定や、左腕に仕込んだサイコガンというわかりやすいギミックが込められていたのでまだ少年層に受け容れられる素地はあった。まあ、ファンの年齢層は読者の中でも高めだったとは思うが

 だが、本作品となるとそういった少年向けを意識したところは全くと言っていいほど見受けられない。まずベースとなる世界設定は所謂西洋ファンタジーの要素が濃いが、ジャンプにおいてはファンタジーベースの作品は成功例が少なく、僅かな成功例も「ダイの大冒険」や「BASTARD!」といったRPGの影響が色濃いものしかないのだが、本作品にRPGを思い起こさせるようなところは皆無である。というか、本作品の連載当時は日本においてRPG知名度を飛躍的に高めた「ドラゴンクエスト」が発売されるより前なのだからそもそもRPG自体の知名度が皆無だったのだが

 しかもファンタジーと言っても、ドラゴンとかゴーレムとかサイクロプスとかの空想生物を相手に魔法でドーンみたいないかにもなファンタジーではない。ツボに手足が生えたような怪物とか、名前からして真鍮人間なブラスマン船長とか、元ネタがあるのかよくわからない連中が出てきて、生きているカバンの中に飲み込まれたり、映画の「ジュマンジ」よろしくボードゲームのコマにされたりというおとぎ話じみたファンタジーである。そこに作者のアメコミ的、言い換えればバタ臭い絵柄が加わり、雰囲気はまるで「不思議の国のアリス」のようだ。…まともに読んだ事はないから本当にそうなのかはわからないが

 そんな感じなので、今になって見返してみるとボーっと眺めるだけでも幻想的な雰囲気が楽しめる作品となっているのだが、如何せんジャンプの連載作品としては異端もいいとこなので編集部としても早めに見切りをつけたのも無理のない話である

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ジャンプに関するあの定説は本当なのか検証する

 ジャンプの連載作品について巷間で囁かれるこのような話があるのはご存じであろうか

 

 曰く「ジャンプでヒットを飛ばした作家の次の作品はコケる」

 

 わりと有名な話だろうからご存じの方も多いだろうし、そうじゃない方も言われてみればそうかもしれないと思えるのではないだろうか

 理屈で考えてみると、ヒット作は自ずと長期連載となるので連載が終了する頃には作者は心身ともに疲弊している上にアイデアも枯渇しているだろうが、ヒット作を飛ばした後だけに早いところ次の連載を開始するよう求められるので、準備不足になりがちであまり出来の良い作品にならない可能性が高いと考えられる。加えて当ブログでも紹介した「キャプテン翼」の後の「翔の伝説」や「北斗の拳」の後の「CYBERブルー」など具体例も事欠かないので、この話は真実だと思う人も多い事だろうし、だからこそ定説となっているのだろう

 だが、本当にそうなのだろうか?

 イメージではそうなのだが調べてみると実態は違ったというケースも多いので、今回はこの件について調査した事を報告したい 

 尚、今回の調査におけるヒット作の定義は単行本にして全10巻以上出版された作品とし、調査範囲はヒット作とその次回作のどちらか片方でも黄金期に連載されたものを対象とした事を先に断っておく

 結果、該当例は全部で37、ただし鳥山明が「DRAGONBALL」の後に連載した「COWA!」と冨樫義博が「幽☆遊☆白書」の後に連載した「レベルE」は元から長期連載を予定していないのは明らかなので除外させてもらった。そして残った35例を調査したところ、ヒット作の次回作がヒットしたのは僅か4例に過ぎなかった

 

 さて、ここで問題です。その4例とは何でしょうか?

 

 答えは鳥山明の「Dr.スランプ」(全18巻)→「DRAGONBALL」(全42巻)

 北条司の「キャッツ♥アイ」(全18巻)→「CITY HUNTER」(全35巻)

 森田まさのりの「ろくでなしBLUES」(全42巻)→「ROOKIES」(全24巻)

 そしてこせきこうじの「県立海高校野球部員山下たろーくん」(全21巻)→「ペナントレースやまだたいちの奇蹟」(全14巻)である

 

 4つ全部分かった人はいるだろうか。3つまではわりと思いつくかもしれないが、こせきこうじは盲点だったのではなかろうか

 ちょっと待て、「県立海高校野球部員山下たろーくん」はヒット作なのか?と突っ込む人もいるかもしれない。だが、上を見ればわかるとおり同作品は人気が無ければ容赦なく連載を終了させられるジャンプにおいて「Dr.スランプ」や「キャッツ♥アイ」よりも長く続いているのだ。これをヒット作と言わなければヒット作のハードルが高すぎるだろう

 さておき、ヒット作の次回作がまたヒットするケースが35例中4例、確率にして1割強しかないのだから定説は事実だったと思うかもしれない、がそれは早計である。ここで忘れてはいけないのが、そもそもジャンプで長期連載を果たした作品は少ないという事だ

 こちらを御覧頂きたい 

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書式が微妙に違うのはご勘弁




 左側が今回の調査結果、そして右側が以前紹介した黄金期中に連載が開始した全作品の単行本巻数の割合を表にしたものである

 見ての通り、10巻以上続いた作品は黄金期全体の方が割合は高いものの、それでも2割にも届かず、5巻以上続いた作品も含めた短期終了しなかった作品の割合ではどちらも大差ないのだ

 それなのに何故「ジャンプでヒットを飛ばした作家の次の作品はコケる」という話が定説化しているのか?

 一言で言えば印象度の違いだろう。ヒットを飛ばした作家による、しかもそのヒット作直後の作品となると当然読者の期待は高くなる。それなのに短期で終了しまうとその落差に強い印象を受けるものだし、人気作家の失敗作として後々までちょこちょこネタにされるのでその度に記憶が掘り起こされるからいつまでも印象に残るものである。一方、無名な若手の作品は元より期待は高くないので短期で終了しても印象に残る事は少なく、また、作者がヒットを飛ばす事なく引退してしまうと後に語られる事もほぼなくなってしまうので記憶している人も少なくなる。結果、そもそもジャンプで長期連載できる作品は稀であるという前提を忘れがちになってしまうのである

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CYBERブルーを憶えてる人は多くてもはるかかなたを憶えている人は少ないだろう

  そんな訳なので、定説を信じて「ヒット作の次はコケるよね~」などとドヤ顔で語っていた人は反省するように。ヒット作の次回作に限らずジャンプで連載される作品は大部分が短期で終了してしまうものなのだから

ラブコメ-ラブ=

 71年にマガジンを抜いて少年漫画誌のトップの座に就いてから95年3・4号で653万部という空前絶後の発行部数を記録するまでの間、常に無敵の快進撃を続けたようなイメージのジャンプであるが、その実編集部では危機を感じた時が幾度もあったという

 その中でも最大級の危機の1つは、サンデーで81年から連載が開始されたあだち充の「タッチ」を嚆矢とするラブコメブームの到来であった。これは単に「タッチ」に加えて既に連載中だった高橋留美子の「うる星やつら」のヒットによりサンデーが急速に部数を伸ばしたという部数的な脅威のみならず、少年漫画誌でラブコメが流行るという事態は友情、努力、勝利といういかにも少年的な3つのワードを三本柱とするジャンプにとってはその根幹が脅かされる感じであったという。ジャンプの第4代編集長だった後藤広喜などは、その著書でこの時と95年に阪神淡路大震災地下鉄サリン事件が立て続けに起きた時がジャンプの読者像が揺らいだ時であったと記しているくらいだ

 そのようにジャンプ編集部はラブコメブームを苦々しい思いで見つめていたのだが、だからと言って人気のラブコメを誌面から排除する訳にはいかず、ジャンプにもラブコメ作品が連載される事となり、それ以降はどの時代でも1つはラブコメ枠、というかエロ枠が連載され、読者を引き付ける手段となっているのだから皮肉な話である

 

 そんな訳で今回紹介するのは、ジャンプにおけるラブコメの草分けと言える作者によるこの作品だ

 

 ショーリ‼(85年40号~52号)

 ちば拓

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自画像から察する通り作者は阪神ファンである



 作者は81年45号に読み切り作品の「キックオフ」が掲載され、翌82年5号から連載がスタート。同作品はタイトルから推察される通りサッカーをテーマにしたラブコメで、同じくサッカーをテーマにした「キャプテン翼」が既に連載中という厳しい状況であったにも関わらず二年近く連載が続いたまずまずの人気作となった。…まあ、作中ではボールを蹴っているより見つめあっている機会の方が多いと揶揄される程サッカーシーンは少なかったのだが。そして85年40号から連載が始まったのが本作品だ

 そんな本作品は、太陽学園の1年生部員である江夏勝利が同じく1年生部員の早見優一とエースの座を争いつつ、甲子園を目指す野球漫画である

 サッカー漫画でヒットを飛ばしたのにアッサリ野球に鞍替えかよ、などと言うなかれ。両者をかけ合わせたようなキックベースという遊びがあるくらいサッカーと野球は親和性が高いのだ。というのは冗談として、当時はスポーツと言えば見るにしろプレイするにしろ野球というのが世の情勢であり、あの高橋陽一も高校では軟式ではあるが野球部に在籍していて、「キャプテン翼」の後に以前紹介した「翔の伝説」をはさんで野球漫画の「エース!」の連載を始めたくらいなのだから

 そして作者もまた実は野球の方が好きで、「キックオフ」の主人公の名前も甲子園で印象的な活躍をした高校球児からとったというのだから、本作品は念願の連載だったと言えるだろう

 だが、その割には本作品は野球の描写が全体的にアッサリしている印象である

 まず冒頭からして主人公の勝利はライバルである優一とエースの座を競って張り合うのだが、その内容はボールを投げてどちらが風圧で女生徒のスカートをめくり上げる事が出来るかというふざけたものであったし、この勝利と優一のエース争いが物語の主軸となると思いきや、早くも第2話で直接的な対決が無いまま監督の裁定で勝利がエース、優一はキャッチャーにコンバートする事となり、優一も渋々ながらもアッサリ引き下がってしまっている

 そして公式戦を迎えるのだが、これまた適当&アッサリで、13話しかないのに関わらず3試合も描写されている程の薄さだ。スポーツ漫画はほんの一瞬の事を何コマにもわたって描く事が少なくないから試合の描写が長くなりがちであり、「SLAM DUNK」なんかは物語内での時間経過の遅さがよくネタにされているが、逆にここまで短いのもなかなか珍しい

 しかしながら、作者は代表作である「キックオフ」からしてラブコメに全力投球で碌にサッカー描写をしていないのだから、ある意味では平常運転だとも言える

 それより問題なのは、ラブコメのラブの要素が「キックオフ」に比べると著しく少なくなっている事だ

 一応本作品にも森ちえみというヒロインが存在しているのだが、勝利と優一が取り合うどころかそのどちらかと良い雰囲気になる訳でもない。「キックオフ」ではサッカーそっちのけで読んでいて恥ずかしいくらいに見つめ合っていたというのに、本作品では優一がクラスメイトと少しいい感じになるくらいしかラブの要素が見つからないのである

 さて、野球を主題にしたラブコメと思いきや野球の要素もラブの要素も薄いとなれば、何が残るであろうか?そう、コメ(ディ)である。そして、本作品は野球漫画やラブコメを期待して読むと肩透かしを食らうが、コメディとして読んでみると、これが意外と悪くないのだ。80年代の作品であるからテイストが古いのは否めないがテンポが良く、大笑いはしないが顔がニヤけてしまうような魅力がある

 ただ、本作品をコメディと認識していた読者は皆無であったし、例えそう認識されていたとしても、不幸な事に当時のジャンプはギャグ漫画の連載陣が非常に強力であった。安定の「こち亀」に加え、TVアニメが絶賛放映中だった「ハイスクール!奇面組」、そして後にTVアニメ化する「ついでにとんちんかん」というラインナップで、「シェイプアップ乱」すら連載終了に追い込まれる状況とあっては生半可な作品では太刀打ち出来ない。結局本作品は僅か13話で終了してしまったのであった

 

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結構ヒットした「キックオフ」の次の作品の割にはあまり扱いが良くない気が

 

JSCレーベル最後の漫画単行本

 さて、今回紹介するのはタイトルの通りJSC、つまりジャンプスーパーコミックスの最後の漫画単行本である…のだが、最初に1つ、いや2つ断らなければいけない事がある

 まず1つは、JSCレーベル最後の漫画単行本ではあるがJSCレーベル最後の単行本ではないという事だ。と言うのも、本作品の後に「ソイヤ!こち亀お江戸だいすきBOOK」、NEXT!こち亀お江戸だいすきBOOK」という「こち亀」のキャラが江戸について色々紹介する漫画ではない書籍は出版されたからである

 そしてもう1つは、当ブログは主に黄金期ジャンプの短期終了作品について語るブログなのだが、今回紹介する作品は短期終了作品ではあるのだが黄金期の作品ではないという事だ。まあ、黄金期に限定するとネタが尽きるのも早くなるので、今回を機に黄金期以外や短期終了作品以外、果てはジャンプ以外の作品も少しづつ扱っていきたいと思う

 

 それを踏まえて今回紹介する作品はコレだ

 

 とっても少年探検隊(84年20号~27号)

 あろひろし

 

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あろひろしと言えばワニの自画像

 作者は80年に「スペーストラブルスペコマE-1」で第13回赤塚賞準入選受賞、81年2・3号に同作品が掲載されてデビュー。82年26号からは「おみそれ!トラぶりっ娘」で本誌初連載を飾るも35号であえなく終了。そして84年20号から連載が始まったのが本作品である

 

 さて、本作品の説明をする前にまずこれを見て頂きたい

 

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 御覧の通り、本作品は連載初回からして掲載順は16作品中13番目という非常に低くなっている。あの「キン肉マン」も連載初回は8番目だったり、初回が巻頭カラーではないという作品は稀にあるが、ここまで順番が後ろの方なのは稀な中でも稀である

 勿論これには理由がある。実は当時「ウイングマン」を連載していた桂正和が急病で倒れ、休載を余儀なくされた為に所謂代原として急遽連載が決まったのが本作品なのだ

 因みにどれくらい急遽だったかというと、初回の締め切りまでに三日しか猶予が無かったという事だ。まぁ、おそらく全く白紙の状態から三日というわけではなく、連載か読切で掲載される事は既に決まっていて準備段階だったのが急遽前倒しされたのだと思うが、どちらにしろ突然の依頼に作者はえらい慌てたであろう事は容易に想像出来る

 

 そんな本作品は、私立原野否(ぱらのいや)学園の未公認サークルである探検部の面々が、未確認生物や超自然現象の噂や情報を基に学園内を探検して騒動を巻き起こす学園コメディである

 以前「うわさのBOY」を紹介した際も触れたが、学校未公認の組織が騒動を巻き起こすコメディは80年代には割とよく見られた話である。そして本作品は他にも80年代テイストが盛り沢山だ

 まず、探検隊というテーマ。そう、この時代で探検隊と言えば川口浩探検隊である。知らない人の為に説明すると、当時テレビ朝日には水曜スペシャルという特番枠があり、その中で人気シリーズだったのが俳優の故川口浩が隊長を務め、未確認生物等を発見する為世界の秘境を探検する、という体のやらせ満載企画の川口浩探検隊だ。どれだけやらせ満載だったか知りたいのなら、当企画をネタにした嘉門達夫の「ゆけゆけ川口浩」という歌を調べてみるといいだろう

 物語の舞台である原野否学園が小学校から大学まであり、誰も全貌を知らない程のマンモス学園だというのもいかにもだ。この時代、第二次ベビーブームの影響で実際に学校のマンモス化が進んでいた事と、つくば市みたいな研究学園都市を合わせました、みたいな発想であろうが、生徒も一杯いるし土地も広大なのだから何があっても何が起きてもおかしくないという、コメディとして便利な設定だ

 他にもキャラ造形からオカルトにSFネタ、パロディネタと、どこを切っても80年代テイストが出て来る程隅から隅まで80年代テイストが満載である。…まあ、80年代の作品だから当然と言えば当然ではあるが

 

 そんな本作品だが、先に触れたとおり僅か8話で終了となってしまった。元々代原として急遽連載が決まったものでもあり、作者は連載終了後程なくして同年12月号から月刊ジャンプで「優&魅衣」の連載が始まっている事からも短期終了は既定路線だったのであろう

 とはいえ、仮に普通に連載が始まっていたとしても長く続いたかというとおそらくは否である。と言うのも、作品全体の雰囲気やネタのチョイスがマニアックすぎて一般層、特にジャンプのメイン読者層である低年齢層置いてけぼり感が半端ないのだ。正直なところ私も読んでいてキツいと思う事も少なからずあるので、是非読んで頂きたいなどと強くお勧めは出来ないのだが、むせかえるような80年代感は一読の価値はあると言える。一読して面白くないと思ったら無理に二読する必要はないかもしれないが

 本作品は翌85年にジャンプに連載された全話が収録された単行本が出版された…のだが、これがジャンプスーパーコミックス最後の漫画単行本という訳では無い。実は連載終了後、月刊ジャンプ増刊で不定期に掲載され、それがまとめられて続巻が発行されたのがなんと八年も後の93年で、こちらがジャンプスーパーコミックス最後の漫画単行本だ。あまりにも時間が空きすぎたから、というか2巻は出す予定が無かったからか、1巻には巻数表記が無いし、タイトルロゴも微妙に違うのが微笑ましい

 

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本作品は連載の経緯といい、なかなかに数奇な運命を辿った稀有な存在である

JCであってJCでない

 ジャンプスーパーコミックスをご存じだろうか?

 かつて刊行していた姉妹誌であるスーパージャンプのコミックレーベルではない。通常のジャンプコミックスと同じくジャンプや月刊ジャンプに連載された作品等を発行するコミックレーベルである。にもかかわらず知らない人が多いと思われるのには理由があるのだが、それについては後で述べさせて貰う

 実のところ当ブログでも何度かジャンプスーパーコミックスレーベルの作品を紹介した事が何度かあったりする。前回紹介した「うわさのBOY」もそうだし、あの成合雄彦の「カメレオンジェイル」もだ

 

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今までここで紹介した中ではこの4作品がジャンプスーパーコミックスである

 そもそも判型から違うヤングジャンプコミックスやビジネスジャンプはすぐに見分けがつくが、ジャンプスーパーコミックスは判型が同じ上、表紙の上の方に4本ラインが入っている等デザインも共通しているのでパッと見ただけでは判別出来ないかもしれない。しかしよく見ると色々違いもある

 まず通常のジャンプコミックスは4本ラインの上にJUMP COMICSという文字とお馴染みの海賊マークが描かれているが、ジャンプスーパーコミックスはJUMP SUPER COMICSという文字と共に見慣れぬマークが描かれている。このマーライオンみたいなマークは一体何なのか調べてみたのだが結局分からずじまいであった。力不足で申し訳ない

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4本ラインもいつの間にか無くなってしまったよね



 裏表紙になると違いはより目立つだろう。ジャンプコミックスは中央にJCという青いロゴマークが入っているのに対してジャンプスーパーコミックスはJとCの間に赤いSが絡みついているようなマークとなっている

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細かく言うと右の色付き部分の幅も異なる

 

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勿論背表紙のマークも違うので、本屋で見掛けて気になった人もいるのでは

 そして一番注目すべきはここである

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 そう、ジャンプコミックスは当然ながら集英社が発行しているのに対し、ジャンプスーパーコミックスは集英社ではなく創美社という別の会社が発行しているのだ

 と言っても発売は集英社だし、創美社は後に集英社クリエイティブと社名を変更した事からもわかるように集英社のグループ企業の1つであるから実質的には変わらないのだが

 実質的にジャンプコミックスと変わらないのにわざわざ別レーベルが存在するのには理由がある。ジャンプ創刊当時の集英社は連載作品の全てを単行本化出来るほどの予算が無く、採算の取れなさそうな作品は単行本化しない方針でいたのだが、ジャンプが天下を取った事により余裕が生まれ、今後は連載作品は全て単行本化するという方針に変わり、76年に採算がとれなそうな作品やこれまで単行本化されなかった作品、そして短編集等を単行本化するべく誕生したのがジャンプスーパーコミックスだという。ジャンプの連載作品を出版するレーベルにも関わらず知名度が低いのはその為である

 漫画家は原稿料だけでは経費を引くとそれ程儲けにならず、単行本の印税収入が大きいという話を聞く。そういう点においては全ての連載作品が単行本化されるという事は漫画家にとって実に結構な話である。ただ、レーベル第1号の単行本が当時ジャンプで絶大な影響力を持っていた本宮ひろ志の「ゼロの白鷹」で、程なくして本宮の連載作品で単行本化されていなかった「武蔵」も単行本化されたあたりに大人の都合を感じたりもするのだが

 

 それにしても、自分の作品がジャンプスーパーコミックスで出版されると知った作者の胸のうちはどうだったのだろう。言わば「お前の作品は売れない」と宣告されているようなものなのであり、落ち込んでしまうものなのか、それでも単行本を出して貰えるだけ幸せと思うものなのであろうか

 ともあれ、わざわざ新しく起ち上げたにもかかわらずジャンプスーパーコミックスレーベルで出版される作品は少なかった。元々単行本化しない程の作品は稀であり、過去の単行本化してない作品の発行が済むと、現行の作品は別にレーベル分けせずにジャンプコミックスで発行しても変わらないわけで、90年代半ばにはジャンプコミックスに吸収されたように出版が止まり、以降は漫画ではない書籍が数冊出ただけの休眠状態となってしまう

 レーベルの実質的な存続期間は約十七年、その間に200超の単行本を発行してジャンプスーパーコミックスは闇に消えて行ったのであった

 

月ジャンの主、来たる

 前回私は、もしMr.ジャンプという称号があるとしたら、それに一番相応しいのは鳥山明であると語った。そしてこの意見に異論がある人は少ないであろう

 では、ジャンプはジャンプでも月刊ジャンプのMr.ジャンプという称号に相応しいのは誰になるだろうか?

 これはかなり難しい問題だろう。なにせ月刊ジャンプには鳥山明ほど突出した実績を持つ人物がいないのだから、正直なところMr.(月刊)ジャンプに相応しい人物なんていないんじゃないかと思えてしまう

 それでもあえて1人挙げるとしたら、私はこの人物を推したい

 

 みやすのんき

 

 である

 

 この意見に異論がある人は多かろう事は自覚している。実績面で考えると「キャプテン」ちばあきおの方が相応しいとも思うのだが、ちばあきおは週刊の方でも「プレイボール」をヒットさせているし、何よりも週刊にはない月刊特有のアングラ感、いかがわしさを一番体現しているのがみやすのんきだと思うからである。…まあ、いかがわしいイメージ自体がみやすのんきの「やるっきゃ騎士」のせいでついたのかもしれないが

 

 という訳で今回紹介する作品はこれだ

 

 うわさのBOY(86年3・4号~22号)

 みやすのんき

 

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「BOY」と書いて「あいつ」と読む

 

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作者自画像

 作者はひろもりしのぶ等の名義で成人誌に幾つも作品を掲載した後、84年にみやすのんき名義で月刊ジャンプに「やるっきゃ騎士」の連載を開始、そして「やるっきゃ騎士」の連載を続けつつ86年3・4号から連載を開始したのが本作品である

 みやすのんきがジャンプで連載を始めると知った時の私の衝撃たるや尋常ではなかった。なにしろ毎回のようにヒロインの美崎静香など女性キャラが全裸になるあのドエロい「やるっきゃ騎士」の作者である。はたしてジャンプで連載して大丈夫なのかと子供心にいらぬ心配をしたものだ

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美崎静香より星チカコが好きでした

 そんな本作品は、番空学園に入学した天野俊が強引に入部させられたスーパークラブの一員としてボクシング部と対抗戦を行ったりと騒動を巻き起こす物語である

 学校未公認の組織が騒動を巻き起こすというコメディタッチの作品は80年代には割とよく見られたものであり、考えてみれば「やるっきゃ騎士」もその手の作品だった。本作品はある意味では「やるっきゃ騎士」の兄弟分と言える

 とは言え「やるっきゃ騎士」は依然月刊ジャンプで連載中であるからあまり似せる訳にもいかない。大体そのまんまではドエロ過ぎてジャンプではとても掲載出来ないだろうし

 中でも大きな相違は主人公だ

 まず、ビジュアルからして違う。「やるっきゃ騎士」の主人公である誠豪介は典型的な悪ガキタイプの顔でお世辞にも格好いいとは言えないが、本作品の主人公である天野俊は、上のカバー画像を見てもわかるように中性的な美少年である

 そして一番重要な違いは、豪介が物凄いスケベなのに対して俊はそういう事に顔を赤らめてしまう純情な性格だという事だ

 なので主人公が能動的にエロい展開に持ち込む事がなくなり、週刊ジャンプでも大丈夫なレベルのエロさに抑えられている。せいぜいパンティを見せるつもりが穿いてなくて下半身をモロ出しする程度だ。そんなのはあの「DRAGONBALL」でも初期にブルマがやっているのだから、本作品は「DRAGONBALL」と同程度に健全だと言えるだろう。…まあ、そんな訳ないが

 また、主人公がそんな感じなので女性に人気があるというのも注目すべき違いだ。作中で主人公が人気というのもあるが、それだけでなく作品が女性に人気なのである

 みやすのんきの漫画が女性に人気がある訳ないだろと思うかもしれない。何を隠そう私自身もそう思っているのだが、単行本1巻カバー折り返しの作者あいさつでそう書いてあるから事実なのだろう

 

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証拠画像

 しかし、女性に人気があると言ってもそもそもジャンプの読者に占める女性の割合は少なく、読者の大半を占める男性はというと物足りなく感じた事だろう。エロを控えたみやすのんきなど画竜点睛を欠くの如しであり、月刊ジャンプで「やるっきゃ騎士」が長期にわたって連載が続く一方で、こちらは僅か19話であえなく終了となってしまう

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二週目で11番目まで落ちるあたりに本作品に対する期待度の薄さが見える

 さて、本作品に関しては正直なところ短期で終了したのは順当だったと思われる

 なにせ作者の代表作といえば前述の「やるっきゃ騎士」の他に「冒険してもいい頃」や「AVない奴ら」などエロを売りにしたものばかり、というか、別名義で成人漫画を描いているくらいだ。いわばアングラ畑の人間が健全で超メジャー誌であるジャンプに執筆するとなると、制約も厳しくなるし重圧もかなりのものだっただろう。作者の実力が充分に発揮出来たとは思えないし、例え発揮出来たとしてもジャンプで人気を得る事が出来たとは編集部はおろか本人すら思っていなかったのではないだろうか

 短期終了する事が分かっていながらも尚、本作品の連載に踏み切った理由は、それだけ「やるっきゃ騎士」の月刊ジャンプにおける功績が大きかったという事に他ならない。言い換えると本作品は、みやすのんきの、そして「やるっきゃ騎士」の功績を讃える為にジャンプに建てられた記念碑なのである

ジャンプを襲う世代交代の波

 もしMr.ジャンプという称号があったとしたら、それを授かるのに相応しい人物は誰だろうか?現在で考えるなら「ONE PIECE」の作者である尾田栄一郎という意見もあるだろうが、やはりジャンプ黄金期の象徴たる「DRAGONBALL」だけでなく「Dr.スランプ」の作者でもあり、ジャンプが発端となって誕生して日本のゲームシーンに革命を起こした「ドラゴンクエスト」シリーズのキャラデザインも手掛ける鳥山明が一番相応しいだろう

 しかしこれが黄金期以前だったならば、相応しい人物は違ってくる

 

 本宮ひろ志

 

 である

 

 実際本宮ひろ志がジャンプに与えた影響は凄まじいものがある。ジャンプが創刊間もなくまだ週刊では無かった時代に連載が始まった「男一匹ガキ大将」は、後発な上に予算も無くて苦しんでいた時代を永井豪の「ハレンチ学園」と共に支えてジャンプを人気雑誌に押し上げ、ジャンプ初のTVアニメ化された作品でもある(公式には初のアニメ化作品は紅三四郎とされているが)

 影響は作品だけに止まらない。本宮ひろ志の作品を読んで漫画家を志して彼の下に集まった者は多く、その門下からは高橋よしひろ金井たつお江川達也らが、更に高橋よしひろ門下から宮下あきら原哲夫原哲夫門下から森田まさのり今泉伸二…と後のジャンプを支える漫画家を次々と排出し、一時はジャンプが本宮とその門下、そして本宮漫画に影響を受けて漫画家になった者の作品がいくつも連載された事から故ジョージ秋山などは「本宮マガジン」などと揶揄した程だ

 また、ある意味では一番影響があったとも言えるのが、あの有名な専属契約制である。何を隠そう専属契約第1号が本宮ひろ志、と言うより、彼を他誌で描かせないよう考え出されたのが専属契約制だったのだ

 

 そのように色々な面でジャンプに影響を与えた本宮ひろ志であるが、肝心のジャンプ誌上での活躍はどうかというと、本誌連載デビュー作である「男一匹ガキ大将」以降は「硬派銀次郎」や「さわやか万太郎」など佳作と言える作品はあるものの、そこまでインパクトのある作品を作る事が出来ず、むしろ他誌で連載した「俺の空」の方がヒットしたくらいである

 本宮ひろ志のジャンプでの存在感が薄まっていく一方で、本宮漫画を読んで育ったような若い新世代の漫画家たちが次々と頭角を現してきた。ゆでたまご高橋陽一、中でも鳥山明は「Dr.スランプ」で単行本の発行部数で当時の日本記録を打ち立て、TVアニメは平均視聴率が20%を超えるなどジャンプを代表する漫画家となっていった

 そして迎えた84年。「Dr.スランプ」の連載を終了させてから数カ月の後、鳥山明があの「DRAGONBALL」を引っ提げてジャンプに帰ってきたその翌週、本宮ひろ志もまた新連載作品でジャンプに帰ってきた

 それが今回紹介するこの作品である

 

 ばくだん(84年52号~85年30号)

 本宮ひろ志

 

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 当然ではあるが以前紹介した「BAKUDAN」とは無関係だ

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どちらも短期終了に終わるとは、呪われた言葉なのだろうか

 そんな本作品は、関東朝市一家を名乗るヤクザの娘と日本を牛耳る北西グループの総帥である堂島竜造の一人息子との間に生まれた子であるが嫡出子じゃない為に素性を隠して寺に預けられた朝市軍兵がハチャメチャする物語である

 

 …いや、随分手抜きな説明しやがるとか思うかもしれないが、実際そうとしか言いようがないから仕方がない。なにしろ主人公の軍兵は中学校の上級生グループ相手に猟銃を持ちだすわ、素行を叩き直そうと校長が派遣した戸塚塾(ご想像の通り戸塚ヨットスクールをモデルとしている)の連中と大立ち回りを演じた上に校舎を灰にするわ、預けられていた所とは別の荒行でなる寺に預けられ、そこで高僧が入定して遺体が自然に帰るさまを見届けて、それを契機に人間が、そして物語が変わると思いきや、朝市一家に襲撃をかけた組織が葬儀を行っているところに機関銃を担いで霊柩車で乗り込むわ、日本銀行(作中では大日本銀行)に銀行強盗に入るわ、最後には刑務所に入れられるが全囚人と共に脱走してそのまま日本を出航するわと終始ハチャメチャし通しなのだ

  改めて主人公である軍兵の行動を列挙してみると、あまりにも破天荒すぎて物語として破綻しているのではないか、と考える人もいるかもしれない。確かに軍兵の行動は考えてみると、いや考えてみなくても破天荒だ。しかしその行動理念は極めて単純であり、そこに本宮節が加えられているのでそこまでとっ散らかった感じはない。あくまでそこまで、ではあるが。それよりも痛快さが勝って今読むと楽しい物語となっている

 

 そう、今読んでもではなく今読むと楽しいのだ

 かく言う私も本作品の連載時はまだジャンプを定期購読する前で、全て読んだ訳では無いのだが、当時読んだ印象はその内容に加えて軍兵のほっかむりとつぎあてズボンという姿から「なんか古い漫画が混じってるな」というものであった

 そしてそれはジャンプ連載作品としての本宮漫画のネックでもある

 元々本宮ひろ志の作品は本誌初連載作であり最大のヒット作である「男一匹ガキ大将からして、そのファン層はジャンプの読者の中では年齢が高めであった。そしてその後本宮漫画は作者が年を重なるにつれその作風も更に対象年齢が上がっていき、最早ジャンプを読む年齢層ではなく「俺の空」を連載したプレイボーイや後に「サラリーマン金太郎」を連載するヤングジャンプを読む年齢層となっていった。ジャンプにおいて作者の存在感が薄まっていったのも道理である

 

 一方、本作品の僅か一週間前に連載が開始された鳥山明の「DRAGONBALL」は、連載開始当初こそ思うように人気が出ず当時の看板であった「北斗の拳」や「キン肉マン」の壁を破れずにいたが、丁度本作品が終了を迎える頃に冒険活劇路線からバトル路線に舵を切ってジャンプの大看板となったのはご存じの通りだ

 かくてジャンプを代表する漫画家の交代劇は相成った訳である

 

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最後の二週以外はDRAGONBALLと同じ扱いだったのだが…

 

 そんなジャンプにおける作者の退潮を象徴する本作品だが、先に触れたとおり今読むと面白いので、私のように当時敬遠した人にも読んでいただきたいと思う次第である