前回ここで私はジャンプにおけるヒット作の作者による次回作は本当にコケるのかについての調査報告をしたのだが、その際にあえて触れなかったデータがある
それは何かというと、まずは改めてこちらの表を見て頂きたい
もう一度説明すると、連載作品が単行本にして全何巻になったかを表にしたもので、右が黄金期に連載が始まった全作品、左がヒット作の次回作の物である。そして前回注目したのは作品が短期終了したか否かであったが、今回注目して欲しいのは表の青い部分、単行本が1巻しか出なかった作品の割合だ。一目瞭然だがヒット作の次回作の方が黄金期全体に比べて著しく低くなっているではないか
まあ、考えてみれば当然の事ではある。ヒットを放った作家に対しては編集部としてもぞんざいな扱いは出来ないし、その次回作には期待もしているだろうから、連載初期においてアンケート結果が芳しくなかったとしても速攻で終了させるという決断は取り辛いものだ。そして逆に言えばヒット作の次回作なのに1巻で終了してしまう作品は相当なモノだと言えよう
そう、今回紹介するのは、その相当なモノだ
BLACK KNIGHTバット(85年31号~40号)
作者は76年に手塚治虫のアシスタントとなり77年には「大地よ蒼くなれ」で第13回手塚賞佳作を受賞、同年にジャンプ増刊に読み切り作品「コブラ」が掲載されてデビューを飾る。同作品は翌78年45号から本誌で連載が開始され、幾度か連載中断をはさみながらも84年まで続き、単行本は全18巻を数え、TVアニメ化も果たした上、本誌での連載終了後もスーパージャンプ、コミックフラッパーと掲載紙を変えて続く人気作となった
ところで、手塚治虫のアシスタントが手塚賞佳作受賞って大丈夫なんだろうか?別に手心を加えただのと下衆な勘繰りをする訳では無いが、今だと妙な正義感をこじらせた連中が騒ぎ立てて炎上案件になりそうだ
さておき、「コブラ」の連載が終了した翌85年31号から連載が開始されたのがこの「BLACK KNIGHTバット」である
先に断っておくが、本作品は全1巻と言っても通常のジャンプコミックスではなく、サイズが一回り大きいジャンプコミックスデラックスブランドで出版されており、ページ数も通常のジャンプコミックスより多かったりする。しかしながらページが多い原因はジャンプ未掲載のエピソードが5つも収録されている為であり、連載自体は以前紹介した全1巻作品の「ファイアスノーの風」の11回より少ない10回で終了しているので、仮に連載分のみを収録して出版されていたら通常のジャンプコミックスでも1巻で収まっていただろう。と言うか、未収録のエピソードを5つも描き下ろすくらい気合が入っていたのに10話で終了してしまったのだから、やはり相当なモノだろう
そんな本作品は、異世界レインボーリアでもっとも小さな星にしてもっとも大きな船である星船(スターシップ)を封印していた剣であるサンダースォードを手にし、黒騎士女王(ブラックナイトクイーン)を継いだバット・デュランが、女王を守護する四銃士と共にレインボーリアを駆け回る英雄譚である
さて、私は本作品は相当なモノだと言ったが、それは別に作品の質が悪いという意味ではない。何度も言うが、ジャンプで連載を始める事が出来る時点で作品の質はある程度保証されているのだ。ましてや作者は「コブラ」という傑作を作り上げているのだから、その質については折紙付きだと言えよう
ただ、問題は作品の内容がジャンプのメイン読者層である少年層と全く嚙み合わない事である
考えてみれば作者の代表作である「コブラ」からしてアメコミ風な絵柄のスペースオペラというジャンプ連載陣の中ではかなり異色の存在であった。当時の私なんかはまだ幼くジャンプを購読する前でたまに読む程度であったが、「なんか後ろの方に載っている変な漫画」という印象を持っていたものである。それでも賞金を懸けられている宇宙海賊といういかにもな設定や、左腕に仕込んだサイコガンというわかりやすいギミックが込められていたのでまだ少年層に受け容れられる素地はあった。まあ、ファンの年齢層は読者の中でも高めだったとは思うが
だが、本作品となるとそういった少年向けを意識したところは全くと言っていいほど見受けられない。まずベースとなる世界設定は所謂西洋ファンタジーの要素が濃いが、ジャンプにおいてはファンタジーベースの作品は成功例が少なく、僅かな成功例も「ダイの大冒険」や「BASTARD!」といったRPGの影響が色濃いものしかないのだが、本作品にRPGを思い起こさせるようなところは皆無である。というか、本作品の連載当時は日本においてRPGの知名度を飛躍的に高めた「ドラゴンクエスト」が発売されるより前なのだからそもそもRPG自体の知名度が皆無だったのだが
しかもファンタジーと言っても、ドラゴンとかゴーレムとかサイクロプスとかの空想生物を相手に魔法でドーンみたいないかにもなファンタジーではない。ツボに手足が生えたような怪物とか、名前からして真鍮人間なブラスマン船長とか、元ネタがあるのかよくわからない連中が出てきて、生きているカバンの中に飲み込まれたり、映画の「ジュマンジ」よろしくボードゲームのコマにされたりというおとぎ話じみたファンタジーである。そこに作者のアメコミ的、言い換えればバタ臭い絵柄が加わり、雰囲気はまるで「不思議の国のアリス」のようだ。…まともに読んだ事はないから本当にそうなのかはわからないが
そんな感じなので、今になって見返してみるとボーっと眺めるだけでも幻想的な雰囲気が楽しめる作品となっているのだが、如何せんジャンプの連載作品としては異端もいいとこなので編集部としても早めに見切りをつけたのも無理のない話である