黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

昭和のGTO

 黄金期ジャンプの短期終了作品を紹介しようと始めた当ブログも気付けば明日で開設してから丸二年になる。こんなブログを続けているのだから改めて言う事でも無いが、私は短期終了作品が好きだ。それは即ち読者アンケートが芳しくない作品を好きだという事であるから、私の趣味は一般とズレていると認めざるを得ない。とは言え、最初から趣味がズレていた訳ではない。…いや、厳密に言うなら最初からズレていたのかもしれないが、少なくともそれを自覚してはいなかった

 という訳で、今回紹介するのは私の趣味がズレていると自覚するきっかけとなったこちらの作品だ

 

 アカテン教師梨本小鉄(86年52号~87年31号)

 春日井恵一

作者自画像?

 作者は流星之介のペンネームで「GODーSMOKE」がフレッシュジャンプ83年12月号に掲載されてデビュー。巻来巧士のアシスタントを経て翌84年12月号には「MOMOTARO」を掲載する

巻来巧士の「連載終了!」にも登場している

 その後春日井恵一ペンネームを変更して85年増刊スプリングスペシャルに本作品のオリジナルである「アカテン教師梨本小鉄」を掲載、更に同年サマースペシャル、オータムスペシャルと連続掲載された後、本作品で本誌初登場にして連載デビューを果たしたのであった

 

 前述のように本作品は私の趣味がズレているという事を自覚するきっかけになった作品である。というのも、私は本作品をかなり気に入っていたのだが、周りには誰も賛同する者がおらず、そして周りが正しいかのように短期終了してしまった為に大きなショックを受けたからだ。因みに私が初めて単行本を購入した短期終了作品はちば拓の「ショーリ‼」なのだが、こちらは私以外にも好きな者がいたので自覚には至らなかった

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 さておき、本作品は小春日和中学に代用教師として赴任した不良教師の梨本小鉄が、破天荒ながらも情熱溢れる指導で生徒を導く教師漫画である

 などというあらすじを聞くと、マガジンで連載されていた藤沢とおるの「GTO」を思い浮かべる方も少なくないだろう。実際両作品には似通っている部分も多いのだが、連載開始時期が十年も離れている為小鉄と鬼塚では不良の性質がだいぶ違う

 それを象徴するのが第1話冒頭で小春日和中学の先輩教師であり、小鉄の恩師でもある酒井が彼を端的に表して放ったこの言葉である

 

 飲む・打つ・買う

 

 コチコチの昭和である。そして小鉄はその3つの中でも「打つ」、つまり博打を最も得意としており、運を教えると称して丁半博打で丁と半それぞれの出る確率や麻雀でテンパった九蓮宝燈自摸上がり出来る確率を計算させる問題を出し、それを解けるかで生徒と金を賭けるといった破天荒なエピソードが満載である

 中でも一番破天荒なのが、教え子の試験の成績を対象にして各クラスの担任が小鉄と金を賭けて勝負するという「強行突破!実力考査編」だ。これは小鉄が勝負に勝つ為に生徒にカンニングをさせるという二重にとんでもない話で、現代なら不謹慎だなどとクレームが飛んでくる事間違いなしであろう。昭和という時代がいかにおおらかであったかをつくづく実感させられるエピソードである。いや、現代が息苦し過ぎるだけだろうか

 他にも便器に札束を放り込んでどちらが詰まらせる事が出来るかで勝負するなどインパクト満点のエピソード揃いのおかげで短期終了作品にもかかわらずネット上では本作品について言及しているものが幾つも見られる。あの「セクシーコマンドー外伝すごいよ‼マサルさん」でお馴染みのうすた京介も同作品中に小鉄そっくりの無し元小銀なるキャラを出しているくらいだから、余程印象に残ったのだろう

上のカバー絵と見比べれば一目瞭然である

 しかし、そんな本作品もまたジャンプナイズを余儀なくされてしまう。作品のテーマ上、さすがにバトル漫画に路線変更する事は無かったが、第17話にして突如全国から集められた個性的で有能な教師たちと小鉄指導力を競う全日本有能教師コンテストなる大会が開催される事となったのだ

 本作品が路線変更した経緯は、大元には勿論アンケートが奮わなかったという事があるが、単行本に寄せられた作者コメントから鑑みると途中から担当に就任した堀江信彦の指示であり、本人はエピソードのラストについては失敗だったと断じ、本作品は失敗作だったかもしれないなどと言っているくらいだから乗り気でなかった事が窺がえる。そのせいか内容の方も迷走気味で何故か生徒への指導で競うのではなく、相手教師と直接対峙してやり込めるという話になってしまっているし、そもそも全日本有能教師コンテストってなんなんだという根本的な問題も相まって、ネットの声も他のエピソードは賛否両論であったが、当エピソードに関しては否定的な声の方が圧倒的に多くなっている

 そんな有様ではジャンプのサバイバルレースを勝ち抜ける訳もなく、本作品は30話にして連載終了となってしまったのであった

 本作品の連載終了後、作者は88年28号に「天下に冠たる 純愛戦」、同年44・45号に「羅刹 修羅たちの鎮魂歌」を掲載したり、21世紀になってビジネスジャンプ増刊BJ魂に崔仁和監修でプロボクサー徳山昌守の物語である「昌守」を短期集中連載するなどしていたが、精神を病んで漫画家を廃業してしまう。その後、病は未だ癒えぬも画家に転身して岡山県展に入選するなど波乱万丈な人生を送っているようだが、ともあれ今も健在のようでなによりである

 さておき、そんな本作品ではあるが、今改めて読み返してみると古臭く説教臭いしご都合主義的な展開も多々見られるものの、各エピソードのインパクトは抜群であるし、問題の全日本有能教師コンテスト編も端折っている部分はあるが一応参加者全員と決着をつけているので意外と打ち切り感も薄い。なので、是非とも呼んで欲しい作品である。当然絶版かつ電子書籍版もないので入手し辛いのが難点だが