黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

失われたジャンプの系譜

 ジャンプを代表する漫画のジャンルと言えばバトル漫画という事は今更説明不要だろう。黄金期においては「DRAGONBALL」を筆頭に数々のバトル漫画が誌面を飾っただけでなく、黄金期終了後も「ONE PIECE」「NARUTO」「BLEACH」「鬼滅の刃」etc…そして「呪術廻戦」と今に至るまで連綿と続くバトル漫画の系譜はそのままジャンプの系譜でもある

 一方で、バトル漫画と比べるべくもないがかつてはジャンプの看板作品も生み出したジャンルでありながらも今となっては誌面から消えて久しいジャンルも存在する

 それはカーレース漫画である

 などと聞いてもピンと来ない方も多いだろうし、かくいう私も少し盛り過ぎたかなと思うが、実際黄金期以前の75年に連載が開始された池沢さとし(現池沢早人師)の「サーキットの狼」は漫画だけにとどまらず実社会でもスーパーカーブームの火付け役となったほどの大ヒットとなったし、黄金期初期においても次原隆二の「よろしくメカドック」がTVアニメ化されている。そして忘れちゃいけないのが90年にF1チームのマクラーレンホンダと結んだスポンサー契約である。時はまさにF1ブームの真っ只中とはいえ、レースカーに小さなロゴを載せる為に大金をはたいたという事実はジャンプ自身がジャンプの看板はカーレース漫画であると認めたのだと言っても過言ではあるまい…いや、過言か

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 さておき、今回紹介するのはそんなカーレース漫画の系譜に連なるこの作品だ

 

 スーパーマシンRUN(89年13号~23号)

 渡辺諒

作者自画像

 作者の経歴についてはこちらを参考にされたし

 

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 「はるかかなた」の終了後は88年47号に本作品のオリジナルでありタイトルも同じ「スーパーマシンRUN」を掲載、そして翌89年13号から連載が開始されたのであった

連載前の読切版は「はるかかなた」の3巻に収録されている

 主人公の秋月勇輝の父である大二郎は勇輝が幼い頃に世界で最も過酷なレースといわれるW・L・M(ワールドランドマスター)に自作のマシンで出走するが、ゴールを目前にして事故死してしまう。それから時が経ち、成長した勇輝は父の夢を継いでW・L・Mに出走すべく配送屋を営んで金を稼ぎながら腕を磨いていた。そんなある日、西ドイツに留学していた妹の蘭が自ら設計を手掛けたオリジナルマシンのRUNと共に帰国し、勇輝はそれに乗ってW・L・Mの日本予選に挑む事になる。というのが本作品のあらすじだ。因みに読切版では妹が勧誘を断られたライバルチームによって速攻で謀殺されたが、流石にあんまりな展開だと思ったのか死ななくなっている。代わりに読切版では影も形も無かった親父が死ぬ事になったが(あと地味に母親も)

 さておき、本作品は上に挙げた「サーキットの狼」や「よろしくメカドック」と共通するところが散見される。例えば勇輝のライバルたちが乗る車の多くがフォーミュラカーやチューンドカーではなくポルシェ959やフェラーリF40などスーパーカー揃いなのは「サーキットの狼」、というかスーパーカーブーム直撃世代であるからだろう。また、W・L・Mの日本予選が用賀インターをスタート地点として東名高速を西に走り小牧ジャンクションで中央道に乗り換えて戻ってくるという実在のルートを設定しているのは「よろしくメカドック」の東日本サーキットグランプリ。そしてフォーメーションを組んで他の参加者の邪魔をするカウンタック軍団は同じく「よろしくメカドック」のキャノンボールトライアルのGTR軍団を彷彿させる。実際これらが両作品を意識してのものかはわからないが、結果としては両作品の遺伝子を受け継いでいると言っていいだろう

ライバルキャラもコイツと被っているし(イサムの方ではない)

 勿論、両作品とは一線を画しているところもある。その最たるものは勇輝の乗るマシンであるRUNだ。それはタイトルにもなっている事からもわかるように本作品最大の特徴であり売りでもあるのだが、同時にRUNの存在によって本作品がいびつな物になってしまっているのだから皮肉な話である

 なにせ他がスーパーカー揃いだとは言え既存のマシンなのに対してRUNだけがオリジナルのマシンである(厳密にはもう1台ライバルが途中で乗り換えるオリジナルマシンがあるが)。それも車体やエンジンだけでなく、コンピュータ制御によって高速走行時にはタイヤがフェンダーから張り出してグリップ力を高める機構を搭載していたり、エンジンが限界を超えるとタコメーターの下に新しいタコメーターが現れてそこから更に加速したりとフィクション感満載の。おかげでトンネルの壁面を走ったりバックなのに時速200kmを超える速度で走ったりといかにも漫画的でアクロバティックな走りが出来るが、それは最早カーレースの範疇を超えているし、周りから浮いている事この上ない。まるで勇輝だけが本物の車ではなくラジコンを操縦しているかのようだ

 それでも、なけなしの金をはたいて不足分は工夫で何とかカバーした結果、総合力ではライバルたちに及ばないぶんアクロバティックな走りで対抗できる、みたいな性能ならまだ良かったが、RUNの場合は蘭の学友で金の埋蔵量が豊富なアフリカの某国の王子であるジェシーから資金提供を受け、恵まれた環境で制作されたスペックごり押しマシンなのだから主人公の乗るマシンとしてどうなんだという感じがある。それならライバルも超スペックのマシンに乗せなきゃ釣り合いは取れないし、アクロバティックなシーンを見せたいだけならいっそレースなどしないで悪人相手にカーチェイスでもさせれば良かったのではないかと思う。…それがジャンプで人気を獲得出来るかはわからないが

 結局本作品は何を見せたいのか方針が定まらぬまま11話にして終了してしまう。そして本作品の終了後ジャンプにおけるカーレース漫画は「GP BOY」、「Fの閃光」と続く事になるが、どちらも契約の関係もあってか企画ものの域を出ずに短期終了、以降はF1ブームの終焉、更にはジャンプのメインターゲットである少年層の車に対する関心度自体の低下もあってその系譜は途絶えてしまったのであった