黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

日本で一番読まれた短期終了作品その2

 今から二十七年前、94年の本日12月20日はジャンプが653万部という最大発行部数を記録した95年3・4号が発売された日である

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 そして、その号に掲載されていた短期終了作品こそ、日本で一番読まれた短期終了作品であるという理屈で以前宮下あきらの「BAKUDAN」を紹介させて頂いた

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 だが、実は当該号にはもう1つ、短期終了作品が掲載されていたのである。そう、今回紹介するこちらの作品が

 

 RASH‼(94年43号~95年9号)

 北条司

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画像の人物は槇村香ではなく、本作品の主人公の朝霞勇希です



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作者自画像

 

 日本で一番読まれた短期終了作品とか言っておいて2作品挙げるなんて、一体どっちが本当の日本一なんだと疑問をお持ちの方も少なくないと思う。両作品は1号違いで連載が開始され、連載回数も全く同じなので、「BAKUDAN」のみが掲載されている94年42号の発行部数と、本作品のみが掲載されている95年9号の発行部数を比べれば判明するのだが、あいにくそこまで詳細な発行部数のデータは調べても判明しなかった

 

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 さておき、作者の「こもれ陽の下で…」までの経歴は以前紹介したこちらの記事を参考にされたし

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 そして、94年6号で「こもれ陽の下で…」が終了した後、一年も置かずに同年43号から連載が開始されたのが本作品である

 それまで作者がヒットを飛ばした「キャッツ♡アイ」、「CITY HUNTER」は、大人を中心にした都会の香り漂う作品だった。それに対し、作風をガラリと変え、子供を中心にした田舎の香り漂う作品の「こもれ陽の下で…」が自身初の短期終了作品となってしまった訳なのだが、この結果は半ば覚悟していたようである。というのも、作者の公式サイトには「こもれ陽の下で…」の前身にあたる読切の「桜の花咲くころ」の作品紹介に以下のようなコメントを寄せているからだ

 

 少年誌に向かない話だとわかりつつ、『桜の花~』を土台とした『こもれ陽の下(もと)で』という話を強行。案の定一年もたなかったなぁ。

 

 そこまでして描きたいテーマだったのか、それとも、「CITY HUNTER」の連載末期に編集部のゴタゴタに巻き込まれ、連載終了の通告がその僅か四週前だったという事があった為、この時期の作者は編集部に対して不信感を抱いており、半ばあてつけの気持ちがあったのか。どちらにしても、失敗する可能性が高いとわかっているのに連載を強行するという行為は、既に2つも作品をヒットさせている余裕があっての事だろう。だが、それで実際に失敗すると、続けて失敗する訳にもいかず、本作品は編集部の意向もあり、以前の作風に戻している

 そんな本作品は、刑務医、要するに刑務所勤めの医者である朝霞勇希が様々なトラブルに巻き込まれ、あるいは自ら首を突っ込んでは解決していく医療アクションである

 タイトルに使用されているRASHという言葉は無鉄砲という意味がある。主人公の勇希はその言葉通りのトラブルメーカーであるのだが、診察は確かで処置も素早く医者としては優れた腕を持っている

 そんな勇希が目指す医療は、病気を治すのではなく、病気の原因を取り除く事によってそもそも病気にならぬようにする医療である。それは具体的にどんな事をするかというと、娘のストーカーに悩まされて発作を起こした患者を治す為にストーカーを退治したり、麻薬中毒の患者を治す為に麻薬の売人を捕まえようと大立ち回りを演じるといった感じだ。先の医療アクションという説明に、なんだそれはと思った人もいるだろうが、こんな内容だからである

 でも、そう思うのは当然の事で、実際医療とアクションは明らかに食い合わせが悪いと言わざるを得ず、実際に話が進み、アクション要素が増えていくにつれて医療要素がどんどん希薄になっていってしまった

 特に勇希の恩師である新田唯法が登場してからはそれが顕著である。新田は勇希の憧れの人物で、彼女が目指す病気の原因を取り除く医療の先駆者なのだが、理想が暴走してしまい、麻薬中毒患者を無くすには麻薬を供給する者たちを完全に除去、つまり殺すべきと考えるようになり、実際殺人を犯して勇希の勤務先である刑務所に収監されていた。そして最終的に新田は再び殺人を犯す為に脱獄し、それを止めようとする勇希と対峙するのである

 …いや、もはや医療とか関係無くなってないか。こういった対立はフィクション内だけではなく現実でもままある事だが、犯罪者を殺すか否かという対立の構造は、どう考えても医者のそれではなく警察のそれだろう。医療に関する話も正直最初からそこまで濃くないし、こんな話にするのだったら勇希は警察官という設定にするか、刑務医ではなくもう少し捜査に近い立場の監察医にでもした方が良かったのではないだろうか。そうしておいたら作中で勇希と新田に「でも…それってやっぱ警察の仕事ですよねェ」、「警察にまかせていたからこういう状況になったんだ」という無理めの会話をさせてフォローをする必要も無かったのに

 このあたりのチグハグさは、作者の医療関係の知識の無さから方向転換を余儀なくされたのか、はたまた編集部に対する不信がまだ尾を引いていた為か。いずれにせよそんな状態では読者の心を掴む事は出来ず、本作品は17話で終了となってしまう。そして作者は好き勝手に描いた「こもれ陽の下で…」と編集の要請に応えて描いた本作品と続けて短期終了になってしまった事と、編集部との関係悪化があいまって漫画を描く事がつまらなくなり、漫画家を辞める事まで考えたという

 そして、作者は結局漫画家を辞める事は無かったが、本作品がジャンプ最後の連載作品となり、以後読切を幾つか掲載した後にMANGAオールマン、コミックバンチと活躍の場を青年誌に移したのであった

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