黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

名前にだまされてはいけない

 今回紹介する作品は短期終了作品ではないが実質的には短期終了作品である。一体どういう事かと言うと、当ブログでは単行本4巻以下で完結する作品を短期終了作品と定義しているが、今回紹介する作品は全5巻なので短期終了作品ではないと言える。のだが、そのうちジャンプに連載された分は3巻までに全て収められており、4巻と5巻に収められているのはジャンプ本誌及び関連誌に掲載された読切作品のみだから実質的には全3巻の短期終了作品だと言えるからである。…まあ、所詮は私が勝手に定義したものに過ぎないし、これまでも短期終了以外、それどころかジャンプ以外の作品も紹介しているのでどうでもいい話であるが

 そんな訳で今回終了するのはこちらの作品だ

 

 MIND ASSASSIN(94年52号~95年29号)

 かずはじめ

作者自画像

 作者は93年に「TWIN SPIRITS」がホップ☆ステップ賞最終候補作になり、翌94年増刊スプリングスペシャルに本作品のオリジナルでありタイトルも同じ「MIND ASSASSIN」が掲載されてデビューを飾る。更に同年32号にも同タイトルで掲載されて本誌デビューを果たすと52号から連載化されたのであった

 そんな本作品の主人公である奥森かずいは奥森医院を営む日独クォーターの若き開業医で、診療科目は内科・小児科・放射線科であるが、加えて看板には以下のような文言が書かれている

 

 ※精神 記憶に関する相談うけたまわります

 

 実は彼はナチスドイツによって創り出されたマインドアサシンと呼ばれる暗殺者を祖父に持ち、生き物の頭を外部から触れるだけでその精神と記憶を破壊することが出来るという能力を受け継いでいた。そしてかずいはその能力を嫌悪している反面、相談者の辛い記憶を壊して精神的苦痛を取り除くという治療めいた事を行っていた。しかし、それでも相談者が記憶を取り戻してしまうほどの更なる精神的苦痛を受けた場合、彼は精神的苦痛を与えた相手に対して本来の能力=暗殺者としての能力を揮う事になる。という説明から推察できると思うが、本作品は典型的な必殺仕事人タイプの作品だ

 ところで、作者はかずはじめという男性のようなペンネームをしているが実際は女性である。この事実は95年5・6号の表紙に当時の連載陣が一堂に揃った写真が使われていて、その中には当然作者の顔も確認出来るので、細かくチェックしている読者にとっては言うまでもない事なのだが、私はそうでなかったので知ったのはかなり後になってからであった

 だが、それを知った時の私は驚きはしたものの意外という感じはあまりなく、むしろ納得という感じが強かった。今考えれば、絵柄の線の細いタッチや、相談者の多くが女性で、しかも大半が男女関係の悩みだったという所などからなんとなくそんな感じがしていたからなのかもしれない。そして、その女性特有、などと言うと昨今では色々煩そうだが、とにかく作者特有の感性が本作品の読み味を一味違うものにしているのだ

 どう違うのかと言うと、一言で言えば話がビターである。それもかなり。本作品の個々のエピソードを見てみると、中にはハッピーエンドのエピソードもあるが、それより印象に残るのは相談者がかずいに辛い記憶を壊される事によって立ち直ると思いきや更に辛い目に遭って不幸のどん底に落ちてしまうという救いの無いエピソードの数々である。それでいながらもそこまで(あくまでもそこまでであるが)陰鬱な感じがしないのは、18歳ながら一度全ての記憶を壊された為に無垢な子供のような同居人である虎弥太の、相談者を救えなかった上に嫌悪するマインドアサシンの能力を使う事になって落ち込むかずいに対する飾り気はないが優しい心遣いと、作者のストーリーテリングの巧みさによるものだろう

 中でも私が一番印象に残っているのは「夏のひと」というエピソードで、好きなエピソードなのに展開がショッキングかつ悲しすぎてあまり読み返したくなかったりする。当ブログは出来るだけ話の内容に触れない方針なので詳細は伏せるが、かずいの過去の話で虎弥太との出会いのエピソードとだけ言っておこう

 一方で、作者特有の感性故の大きな欠点もある。上でも触れたが本作品の構成は典型的な必殺仕事人タイプだ。そしてこのタイプの作品は本家と言える必殺仕事人がそうであるように、前半部で非道の限りを尽くした悪人がクライマックスで無惨にやられるところが見せ場であると共にカタルシスになる訳だが、本作品の場合はかずいの能力が元々雑踏でも周りに気付かれずに人を殺す事が出来、その痕跡も残さないような能力、言い換えれば見た目には非常に地味だという事が問題となる。実際作中でかずいが能力を揮うシーンは、多少抵抗される事があるという程度の呆気ないものだし、相手が精神を壊されて廃人になってしまっても、その能力の為外傷も無く、元々目の焦点が合ってない画風とあいまって壊された感も無いのでスカッとしないのである

 この欠点には自身、あるいは編集が気付いていたのか、連載終盤には殺し屋とか、果てにはナチスドイツの残党によって創り出された能力を持つ言わば同門の暗殺者といういかにもジャンプ的な敵役を出したのだが、それで派手なアクションが繰り広げられるようになるかと思いきや本心ではあまり乗り気では無かったのかそういう事も無く、読んで面白い作品ではあるが見て面白い作品ではないままだった。それ故に見て面白い作品が好まれる傾向の強いジャンプではあまり好まれず27話で連載終了と相成ってしまう

 にも関わらず、本作品は関連商品としてノベライズ版やドラマCDまで発売されているのだから、それだけ読む作品としての質は高いとも言えよう。そして当時は見て面白くないからと避けていた方も、大人になった今となっては好みも変わっているだろうから是非読んで欲しい作品である