黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ルーツを読む

 改めていう事でもないが私は黄金期ジャンプの短期終了作品が好きで単行本を集めている。そして、実は他にもう1つ好きで単行本を集めている漫画がある

 

 それは、やはり黄金期ジャンプに掲載歴のある漫画家の短編集である

 

黄金期以前の漫画家も一部混じっているがそれはご愛敬

 

 まあ、これまでも当ブログでは岩泉舞の「七つの海」などを紹介しているから今更な話でもあるのだが

 

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 さておき、中でも特に好きなのがデビュー当初の作品を収録した初期短編集で、作者のその後の作品と読み比べる事で絵柄など技術的な進化だけでなく作風の変化も感じられて楽しい。加えて、初期作品はアンケート上位を狙ってとか下心がなく純粋に好きなテーマを描いているものも多いので作者のルーツに触れているような気分になるのも魅力である

 そんな訳で今回は短編集、中でも初期作品集から2つばかり紹介したい

 まず1つめはこちら

 

 ウイニング・ラップ

 渡辺諒

 

 そう、前回紹介した「スーパーマシンRUN」の作者である渡辺諒の短編集である

 いや、その作者は初期とか分けるのが必要なほど長い間続けていないだろうという突っ込みが入るかも知れないが、それは一旦置いといて収録作品と初出は以下の通りである(並びは掲載順)

 

 裕作        87年ウインタースペシャ

 はるかかなた♡♡♡  86年オータムスペシャ

 リトルベア雄    86年サマースペシャ

 ダスティーヒーロー 86年スプリングスペシャ

 ウイニング・ラップ 85年オータムスペシャ

 

 まず触れるべきは「はるかかなた♡♡♡」だろう。同作品はそのタイトルから以前当ブログで紹介した「はるかかなた」のオリジナルだと思う人もいるかもしれないが、実際はラグビー漫画で全くの別物である。まあ、主人公とヒロインの名前が同じ(苗字は違うが)という共通点はあるのでオリジナルと言えばオリジナルと言えなくもないが

 

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 その他の作品に目を向けると「リトルベア雄」はプロレス漫画、そして「裕作」「ダスティーヒーロー」「ウイニング・ラップ」はテイストこそ違えど全てバイク、それもオフロードバイク漫画という偏りっぷりである。加えて表紙カバー折り返しの作者あいさつでもバイクの事を語っているし、どれだけバイク好きなんだ

 それを踏まえて前回紹介した「スーパーマシンRUN」を読み直してみると、車がトンネルの壁面を走るなどの超アクション作品になったのも本当はオフロードバイク漫画を描きたかったのに人気が見込めないからカーレース漫画にしたのだが、本心では納得できていなかったからせめてオフロードバイクのような走りを描きたかったからなのかもしれないと思えてくる。高速道路を利用したコースなのに途中に砂を撒いたダートコースもわざわざ登場させているし

 そう考えると作者の葛藤も見えて少し気の毒な感じもするが、モータースポーツという大きな括りでは外れていないし、「はるかかなた」もラグビー漫画やプロレス漫画と描いてきてからの野球漫画だからこちらもスポーツで括れると考えれば妥協の余地もあるから、これらの作品の経験は生かされただろうと思う。…まあ、それでも成功を収める可能性が低く、作者のように読切で経験を積んで連載を勝ち取った者が次々と消えていくのが黄金期ジャンプの厳しさなのだが 

 

 もう1つはこちらの作品だ

 狼なんて怖くない‼

 冨樫義博

 

 収録作品と初出は以下の通り

 

 狼なんて怖くない‼       89年20号

 オカルト探偵団 PART1    88年オータムスペシャ

 オカルト探偵団 PART2       89年スプリングスペシャ

 HORROR ANGEL         89年ウインタースペシャ

 ぶっとびストレート     雑誌未掲載 手塚賞準入選作

 とんだバースデイプレゼント 88年ウインタースペシャ

 

 対照的にこちらは黄金期ジャンプでも屈指の成功者であり、今も尚現役で漫画を描き続けている…と言っていいのかは微妙な感じはするが、とにかく長い間活躍を続けた冨樫義博の初期作品集とあって絵柄の変化は著しい。今では作者といえば(ちゃんと描いた場合は)描きこみが細かく絵が上手い漫画家だというイメージがあるが、この頃は描きこみは細かいものの全体的に線が不安定な上タッチもコロコロ変わっていて別人のよう、とまではいかないがかなり印象が違う

 一方でテーマの方はほぼ一貫していて、表題作の「狼なんて怖くない‼」を筆頭に狼男だの幽霊だの妖精だのとオカルト・ファンタジー揃いである。これは後の連載作品も皆そう(「HUNTER×HUNTER」はカテゴライズが難しいが要素は散りばめてある)だから、作者を構成する上で外せない要素と言えよう

 中でも象徴的なのはデビュー作である「とんだバースデイプレゼント」で、主人公の八文字哲の見た目は「幽☆遊☆白書」の浦飯幽助そっくりだし、ゲームを絡めた展開は「HUNTER×HUNTER」のグリードアイランド編や「幽☆遊☆白書」の天沼(ゲームマスター)戦など作者が好む展開だしで、後の作品との繋がりがハッキリと感じられる

 対称的に異彩を放っているのは「ぶっとびストレート」だ。唯一この作品だけがオカルト要素もファンタジー要素も全く無い野球漫画で、後の作品とのリンクが感じられない

 …いや、よくよく考えればない事もない。「レベルE」の雪隆が野球部員であり、暴力的な性行も似ていると言えば似ている。同作品はオカルト色が思いっきり強いし、カラーレンジャー編は作者お得意のゲームを絡めた展開もあるし、作者の好みの集大成といえる作品なのではなかろうか、などと想像を拡げてみるのもまた一興である