黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

黄金期ジャンプ短期終了作家列伝 その3

 ジャンプの短期終了作品ではなく、その作家の方にスポットを当てる短期終了作家列伝、その第3弾はエロとグロ、そしてバイオレンスに溢れた作風で当時の読者に多大なインパクト与えた巻来功士である

 

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 尚、当記事は以前に掲載した作者の作品紹介記事と被る部分が少なくない事を予め断っておく

 

 巻来功士は子供の頃から漫画を描いており、高校生の頃にはジャンプの新人漫画賞の最終候補に入るまでになっていた。しかしその後も学業そっちのけで様々な漫画賞に投稿を続けるも最終候補止まりな事が多く、ようやく小学館のマンガくん月間まん研新人杯佳作を受賞するも程なくマンガくんが休刊してしまうなどなかなかデビューのきっかけが掴めずにいた。そうしているうちに留年してしまった巻来は大学を中退して上京、小学館に持ち込む筈の原稿を偶然に社屋を見かけた少年画報社に飛び込みで見せたところ、これまでの苦労がウソのようにアッサリと認められ、81年に少年キング17号から「ジローハリケーン」の連載を開始する事になる

 同作品の終了後、続けて「ローリング17」の連載を開始するも少年キングが休刊してしまって再び投稿と持ち込みの日々に逆戻り。その最中にジャンプ編集部に原稿を持ち込んだ際、後に第5代編集長となる堀江信彦の目に留まりフレッシュジャンプ83年9月号に「サムライR」が掲載されると、これが高評価を得て連載を持つ事が検討される

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 …が、原哲夫の臨時アシスタントを経て持ち上がった案は「サムライR」の連載化ではなく、当時ジャンプで主催していた原作賞である梶原賞受賞作の漫画化で、しかもその原作は誰も引き受け手がいなかったといういわくつきの作品であった。それでもなんとか形にして83年51号から自身のジャンプ初連載作品となる「機械戦士ギルファー」が開始されたが、ただでさえ望まぬ原作付きの上、途中で担当編集者が交代になるなど環境にも恵まれず僅か10話で連載終了となってしまう

 その後再び連載を目指して奮闘するもフレッシュジャンプに掲載された読切の評価は中の上止まりだったり、そもそもネームが通らなかったりと伸び悩んでいたが、編集者からの助言もあって少年誌のセオリーの逆を行く作品を考え出し、ついに連載を獲得する。その作品こそが「メタルK」だった。同作品は編集部内の権力争いに巻き込まれて最初から短期終了ありき、更に第2話目にして巻末掲載という酷い扱いで、結局全10話、しかもそのうち8話が巻末掲載という有様だったにもかかわらず読者に多大なインパクト与え、今も語り草になっているのであった

 「メタルK」はアッサリ終了したものの、アンケート結果は回を重ねるたびに良くなっていった事からすぐに次の連載が決まり、「ゴッドサイダー」が開始される。同作品は作者のジャンプ作品史上最長連載を記録し、また、連載時期が良かった事もあって主人公の鬼哭零気が「ファミコンジャンプ英雄列伝」にプレイアブルキャラクターとして登場するなど巻来功士の代表作となった

 これで前途が大きく開けた、と思いきや、実は逆に暗転する契機であった。というのも、その連載中に何度も担当が変更された末にKという全くソリが合わない担当がついた事でモチベーションを失い、それに伴い「ゴッドサイダー」も失速して連載終了の憂き目に遭ってしまうのだから。それでも結構なヒットだった事からすぐに次の作品である「ザ・グリーンアイズ」の連載が開始されるがモチベーションが上がらず低空飛行のまま連載終了、その後も連載化を目指して奮闘するもKとの溝が埋まらず、ついにタブーとされている担当の交代を申し出て了承されるも代わりの担当は碌に打ち合わせも出来ない全くの新人で、半ば干されてしまったのであった

 これだと一方的に編集部が悪いように思われるだろうから少しフォローさせて頂くとKという担当編集者は別にそこまで酷い人物ではない。というのも、Kというイニシャルや少女誌出身というプロフィール、そして「連載終了!」で描かれている似顔絵からしておそらく鳥山明の2代目担当にして「ダイの大冒険」のアバン先生のモデルとされている近藤裕だと推測されるからだ。この人物は少し物言いが冷たく厳しい所があり、それが鳥山などに対しては発奮材料になったが巻来に対してはやる気を削ぐ結果になった訳で、要するに相性が悪かっただけである。また、後任についても突然に交代を要請されても他の編集者もそれぞれ担当を持っているので全くの新人くらいしか空いていないのも仕方がない事だと言える

 理由はなんにしろ、元々他誌出身でジャンプの風土になじめず息苦しさを感じていたところにこの仕打ちを受けては我慢にも限界があり、また、エロとグロとバイオレンスを好むその作風もジャンプでは生かしきれない。熟慮の末、巻来は青年誌に活躍の場を求め、皆がうらやむジャンプの専属契約の解消を自ら申し出たのであった

 そんな巻来功士の短期終了作品である「メタルK」と「ザ・グリーンアイズ」の両作品、及び、その頃の作者の奮闘を描いた実録漫画である「連載終了!」は現在電子書籍化されて入手が容易なので興味のある方は是非購入して読んでいただきたい。特に「連載終了!」は黄金期ジャンプの内幕をうかがい知る事が出来るのでお勧めである。また、代表作である「ゴッドサイダー」や少年誌を離れてからの作品の多くも電子書籍化されているのでこちらも併せて読んでみたら如何だろうか