黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

伝説のトラウマ作品とその舞台裏 その2

 さて、前回は「メタルK」を紹介するなどと言っておきながら、前段階が長過ぎて結局紹介できないという詐欺じみた事をやってしまったが、今回こそはきちんと紹介したい

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 まずは「連載終了!」を引用しつつ前回の続きから 

「機械戦士ギルファー」の連載終了後、作者は再びジャンプで連載する事を目指して85年スプリングスペシャルに「バースター3」を、更に続けて「ブラック☆スター」と読切を掲載するが、どちらもアンケートは中の上どまりと頭打ちの状況になっていた

 そんな時、2代目担当の松井栄元からの提言が作者に飛躍のきっかけを与える事になる

 「少年誌の常識ってやつをブチ壊す作品だ‼

  それぐらいやらないと今の少年ジャンプじゃ他の作品に埋もれてしまうだけなんだよ‼」

 今となっては意外な事だが、この時点までの作者の描く作品はキング時代の2作品がアクションコメディ、ジャンプに移籍してきてからの作品はいずれもロボットアクションと、後の作者から連想されるバイオレンス、エロ、グロといった作風とはかけ離れたものばかりであった

 勿論、これらの作品も嫌々ながら描いていた訳ではないだろう(望まぬ原作を押し付けられた「機械戦士ギルファー」はわからないが)。しかし、テーマの選定などにおいては少年誌という事を少なからず意識していたに違いない。そもそも好き勝手に描こうとしてもネームが通らないし

 だが、編集の一言で吹っ切れた作者は少年誌の常道とは真逆を行こうと決心する。少年誌の主人公は普通は男性だからこそ、敢えて女性主人公に、読者の胸を熱くさせるのではなく背筋を凍らせる夢も希望も無い話を描こうと。そうして描き上げたネームは編集会議にかけられ、意外な事に即連載が決定してしまう

 それが86年24号から連載が開始された「メタルK」である

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カバー下の表紙は結構エロい(乳首修正済み)

 そんな本作品は、世界規模の陰謀組織である薔薇十字団に両親を殺され、自身もその体を炎に焼かれた冥神慶子がサイボーグとして蘇り、復讐の為に組織の人間を次々と始末していくバイオレンスアクションである

 薔薇十字団と戦う慶子の最大の武器は、機械の骨格を覆う皮膚だ。何度実験を繰り返しても慶子の興奮状態が続くと機械が高温になって溶けてしまう事から、逆にこれを利用しようと成分を変え、溶けるとゼリー状の硫酸と化す皮膚は、周囲に硫酸ガスを発生させるし、手の皮膚を溶かして伸ばし鞭として使用する事も出来る

 そんな設定なので、慶子の見た目は普段は奇麗だが、クライマックスになると皮膚が溶け出し機械の骨格が露わになるというグロテスクな姿になり、衝撃を受けた読者も少なからずいた事だろう

 かく言う私も本作品の第1話を目にした時の衝撃は今も忘れられない。慶子の顔が溶けて機械の骸骨が露わになるシーンは、その少し前まではコロコロコミックを愛読していたような子供にはあまりにも刺激が強すぎた。更に第2話になると、狐のマスクをつけられた慶子が全裸で野に放たれて狩猟のターゲットにされるという、コロコロではまずお目にかからないシーンに軽いトラウマを覚え、基本的に買ったジャンプは全作品を何度も読み返していた私だったが、本作品に関しては再読をためらう程であった

 そして、作者もまた第2話が掲載されているジャンプを読んで別の意味で軽くトラウマを覚えた事だろう。というのも、本作品の掲載順が第2話目にして早くも巻末に追いやられていたからである

 アンケート結果が悪かったにしろ、反映するのが早すぎると担当を問いただした作者は以下のような答えを受ける

 「…どうやらこの漫画を…いやもしかしたらオレの担当の漫画を嫌って嫌っている人が編集部内にいるのかもしれない」

 加えて連載終了も既定路線であると告げられる作者。ただ、これはあくまで担当であった松井栄元の推測に過ぎず、事実かどうかは不明である。しかし、読者が出したアンケートを集計し、その結果を踏まえて掲載順を決定、更に誌面の編集、印刷という一連の作業が一週間で可能とは思えない。これまで当ブログで紹介してきた作品たちを見ても第2話目にして巻末に追いやられた作品など他に例を見ず、掲載順の動きから推測するとアンケートの結果が反映されるには一ヵ月はかかると思われるから、本作品に対して何か特別な力が作用したのは間違いない。以前紹介した「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』」を読むと、編集部内にも派閥があり、権力争いが行われているような記述が見られるので、編集部内の力関係が影響を与えたのだろうか

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 それにしても、自分で選べるわけでもないのに付けられた担当編集者によって作品の扱いが変わるなんてひどい話である。こういう事が横行していたとは思いたくないが、長いジャンプの歴史の中で他に全くなかったとも思えない。まさに黄金期ジャンプの影と言えるだろう

 編集部内の思惑はさておき、本作品に強い思い入れを抱いていた作者は、連載終了が半ば決定していてもめげずに全力で描き続けた。おかげで作者には熱いファンレターが届くようになり、アンケート結果も徐々に良くなってきて編集部でも無視できず、改めて連載終了か否か会議に掛けられる事になる。が、決定を覆すには至らず、本作品は全10話中、巻頭を飾った初回と「はなったれBoogie」が最終回の為にブービーとなった31号を除いた8話が巻末掲載という記録と、私を含む少なからぬ読者にトラウマを残し、連載終了となってしまったのである

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