黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

小畑健の夜明け前

 小畑健と言えばジャンプの黄金期終焉後のジャンプを引っ張った立役者の1人であるが、黄金期においては原作に恵まれなかった事もあって短期終了続きの苦闘の時期であった。当ブログではそんな小畑健の作品をこれまで何度か取り上げてきて、その黄金期における短期終了作品は既に全部紹介済みである

 …のだが、実は1つ未紹介の短期終了作品があった。などと言うと矛盾しているように思えるが矛盾している訳ではない。何故ならば、確かにジャンプの黄金期における小畑健の短期終了作品は全部紹介したのだが、「魔神冒険譚ランプ・ランプ」の紹介記事で触れたように小畑健名義ではなくそれ以前に別名義で連載した短期終了作品があるからだ

shadowofjump.hatenablog.com

 

 という訳で今回紹介するのはこちらの作品だ

 

 CYBORGじいちゃんG(89年22号~52号)

 土方茂

作者自画像

 作者は土方茂名義で85年に「500光年の神話」で手塚賞準入選、翌86年増刊スプリングスペシャルに掲載されてデビュー。同年オータムスペシャルの「オートバイメモリー」、87年オータムスペシャルの「ロングシュート」を経て88年サマースペシャルに本作品のオリジナルでありタイトルも同じ「CYBORGじいちゃんG」を掲載すると、同タイトルが46号に掲載されて本誌初登場、そして翌89年22号から連載デビューを果たしたのであった

 そんな本作品は、天才科学者にして農夫でもある壊造時次郎(70才)が、己の体を改造して農作業用サイボーグのサイボーグじいちゃんGとして生まれ変わり、息子夫婦や孫を巻き込んでトラブルを巻き起こしたり悪の科学者の社礼頭と闘いを繰り広げたりするギャグ漫画である

 さて、作者と言えば画力の高さに定評があり、だからこそ後に数々の原作付き漫画の作画を任されたりする訳だが、その技術は本作品の時点で既にほぼ完成しており、特にメカの書き込みは非常に細かくこれが初連載となる漫画家の描く絵かと感嘆させられる。ただ、これが作者の生まれ持った才能かというとそういう訳でもなく、デビュー作である「500光年の神話」を見てみると、勿論下手な訳はないが、いかにも80年代臭いというかかなり野暮ったい印象を受けるので、その後次原隆二にわのまことのアシスタントを務めながら腕を磨いたものだろう。因みにその縁で単行本1巻の巻末には両者がコメントを寄せていたりする

 その一方、内容の方はというと、これと言って語るべきものは特にないというのが正直な感想である。農夫という設定は奇抜さを狙った以上のものではなく作中で農業を営んでいる場面は殆ど無いし、主人公が非常識な行動で周りを振り回すといった構成はギャグ漫画ではテンプレ中のテンプレで新鮮味はない。また、個々のネタには師匠のにわのまことに似たテイストは感じられるがいまいち弱く、ストーリーの合間に差し込む程度ならいいが、それ一本でやるには絵に負けてしまっている印象で、言っちゃなんだが作者はあまりギャグ漫画には向いていないんじゃないかと思ってしまう

自己紹介もスベり気味である

 それどころか、そもそも論であるが作者は別にギャグ漫画を描きたいとも思ってなかったのではないだろうか

 というのも、作者は赤塚賞ではなく手塚賞出身という事からしても元々ストーリー漫画志向であろうし、実際本作品以前の作者の作品を見てみると「オートバイメモリー」は未読なのでわからないが「500万光年の神話」はシリアスなSFもの、「ロングシュート」はバスケット+恋愛で両者とも殆どギャグが入っていないからだ

「ロングシュート」は本作品の単行本4巻、「500光年の神話」は力人伝説3巻に収録されている

 それがどうして急にギャグ漫画を描き出したのか? 

 本作品の単行本だけじゃなく「魔神冒険譚ランプ・ランプ」の単行本の作者あいさつや余白に描かれたものを見るに作者自身も別にギャグが嫌いではないのだろう。また、担当編集者で後に第8代編集長となる茨木政彦が当時GAGキングを設立するなどギャグ漫画を求めていて、作者も描いてみないかと薦められたのかもしれない。だが、大きな理由は、端的に言えば作者のストーリー漫画はアンケートで芳しくなかったから、要するにストーリー漫画家として頭打ちになってしまったからだろう。それよりはまだギャグ漫画の方が可能性があると

 その結果、本誌進出だけでなく連載デビューまで果たしたのだから、目論見は成功したとも言える。サイボーグでありながら老人という珍妙な取り合わせは作者の画力と相まって見た目にはインパクトが大きく、それが連載化に貢献した事だろう

 だが、ギャグ漫画は初見ではインパクトを与えやすいがそれを続けるのは困難なものである。本作品の内容は前述の通りで最初のインパクトを超えるものを出せずに失速、31話にして連載終了となってしまった

 そして作者は本作品の終了後、未練があったのか90年39号にストーリー漫画に戻って「出てきておく霊守太郎くん」を掲載するが、これが連載化を逃すと未練と共に土方茂の名前も捨て、以後は小畑健として主に原作付き漫画の作画を担当するようになったのはご存じの通りである

「出てきておく霊守太郎くん」は「魔神冒険譚ランプ・ランプ」3巻収録