黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ジャンプに関するあの定説は本当なのか検証する

 ジャンプの連載作品について巷間で囁かれるこのような話があるのはご存じであろうか

 

 曰く「ジャンプでヒットを飛ばした作家の次の作品はコケる」

 

 わりと有名な話だろうからご存じの方も多いだろうし、そうじゃない方も言われてみればそうかもしれないと思えるのではないだろうか

 理屈で考えてみると、ヒット作は自ずと長期連載となるので連載が終了する頃には作者は心身ともに疲弊している上にアイデアも枯渇しているだろうが、ヒット作を飛ばした後だけに早いところ次の連載を開始するよう求められるので、準備不足になりがちであまり出来の良い作品にならない可能性が高いと考えられる。加えて当ブログでも紹介した「キャプテン翼」の後の「翔の伝説」や「北斗の拳」の後の「CYBERブルー」など具体例も事欠かないので、この話は真実だと思う人も多い事だろうし、だからこそ定説となっているのだろう

 だが、本当にそうなのだろうか?

 イメージではそうなのだが調べてみると実態は違ったというケースも多いので、今回はこの件について調査した事を報告したい 

 尚、今回の調査におけるヒット作の定義は単行本にして全10巻以上出版された作品とし、調査範囲はヒット作とその次回作のどちらか片方でも黄金期に連載されたものを対象とした事を先に断っておく

 結果、該当例は全部で37、ただし鳥山明が「DRAGONBALL」の後に連載した「COWA!」と冨樫義博が「幽☆遊☆白書」の後に連載した「レベルE」は元から長期連載を予定していないのは明らかなので除外させてもらった。そして残った35例を調査したところ、ヒット作の次回作がヒットしたのは僅か4例に過ぎなかった

 

 さて、ここで問題です。その4例とは何でしょうか?

 

 答えは鳥山明の「Dr.スランプ」(全18巻)→「DRAGONBALL」(全42巻)

 北条司の「キャッツ♥アイ」(全18巻)→「CITY HUNTER」(全35巻)

 森田まさのりの「ろくでなしBLUES」(全42巻)→「ROOKIES」(全24巻)

 そしてこせきこうじの「県立海高校野球部員山下たろーくん」(全21巻)→「ペナントレースやまだたいちの奇蹟」(全14巻)である

 

 4つ全部分かった人はいるだろうか。3つまではわりと思いつくかもしれないが、こせきこうじは盲点だったのではなかろうか

 ちょっと待て、「県立海高校野球部員山下たろーくん」はヒット作なのか?と突っ込む人もいるかもしれない。だが、上を見ればわかるとおり同作品は人気が無ければ容赦なく連載を終了させられるジャンプにおいて「Dr.スランプ」や「キャッツ♥アイ」よりも長く続いているのだ。これをヒット作と言わなければヒット作のハードルが高すぎるだろう

 さておき、ヒット作の次回作がまたヒットするケースが35例中4例、確率にして1割強しかないのだから定説は事実だったと思うかもしれない、がそれは早計である。ここで忘れてはいけないのが、そもそもジャンプで長期連載を果たした作品は少ないという事だ

 こちらを御覧頂きたい 

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書式が微妙に違うのはご勘弁




 左側が今回の調査結果、そして右側が以前紹介した黄金期中に連載が開始した全作品の単行本巻数の割合を表にしたものである

 見ての通り、10巻以上続いた作品は黄金期全体の方が割合は高いものの、それでも2割にも届かず、5巻以上続いた作品も含めた短期終了しなかった作品の割合ではどちらも大差ないのだ

 それなのに何故「ジャンプでヒットを飛ばした作家の次の作品はコケる」という話が定説化しているのか?

 一言で言えば印象度の違いだろう。ヒットを飛ばした作家による、しかもそのヒット作直後の作品となると当然読者の期待は高くなる。それなのに短期で終了しまうとその落差に強い印象を受けるものだし、人気作家の失敗作として後々までちょこちょこネタにされるのでその度に記憶が掘り起こされるからいつまでも印象に残るものである。一方、無名な若手の作品は元より期待は高くないので短期で終了しても印象に残る事は少なく、また、作者がヒットを飛ばす事なく引退してしまうと後に語られる事もほぼなくなってしまうので記憶している人も少なくなる。結果、そもそもジャンプで長期連載できる作品は稀であるという前提を忘れがちになってしまうのである

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CYBERブルーを憶えてる人は多くてもはるかかなたを憶えている人は少ないだろう

  そんな訳なので、定説を信じて「ヒット作の次はコケるよね~」などとドヤ顔で語っていた人は反省するように。ヒット作の次回作に限らずジャンプで連載される作品は大部分が短期で終了してしまうものなのだから