黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

月ジャンの主、来たる

 前回私は、もしMr.ジャンプという称号があるとしたら、それに一番相応しいのは鳥山明であると語った。そしてこの意見に異論がある人は少ないであろう

 では、ジャンプはジャンプでも月刊ジャンプのMr.ジャンプという称号に相応しいのは誰になるだろうか?

 これはかなり難しい問題だろう。なにせ月刊ジャンプには鳥山明ほど突出した実績を持つ人物がいないのだから、正直なところMr.(月刊)ジャンプに相応しい人物なんていないんじゃないかと思えてしまう

 それでもあえて1人挙げるとしたら、私はこの人物を推したい

 

 みやすのんき

 

 である

 

 この意見に異論がある人は多かろう事は自覚している。実績面で考えると「キャプテン」ちばあきおの方が相応しいとも思うのだが、ちばあきおは週刊の方でも「プレイボール」をヒットさせているし、何よりも週刊にはない月刊特有のアングラ感、いかがわしさを一番体現しているのがみやすのんきだと思うからである。…まあ、いかがわしいイメージ自体がみやすのんきの「やるっきゃ騎士」のせいでついたのかもしれないが

 

 という訳で今回紹介する作品はこれだ

 

 うわさのBOY(86年3・4号~22号)

 みやすのんき

 

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「BOY」と書いて「あいつ」と読む

 

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作者自画像

 作者はひろもりしのぶ等の名義で成人誌に幾つも作品を掲載した後、84年にみやすのんき名義で月刊ジャンプに「やるっきゃ騎士」の連載を開始、そして「やるっきゃ騎士」の連載を続けつつ86年3・4号から連載を開始したのが本作品である

 みやすのんきがジャンプで連載を始めると知った時の私の衝撃たるや尋常ではなかった。なにしろ毎回のようにヒロインの美崎静香など女性キャラが全裸になるあのドエロい「やるっきゃ騎士」の作者である。はたしてジャンプで連載して大丈夫なのかと子供心にいらぬ心配をしたものだ

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美崎静香より星チカコが好きでした

 そんな本作品は、番空学園に入学した天野俊が強引に入部させられたスーパークラブの一員としてボクシング部と対抗戦を行ったりと騒動を巻き起こす物語である

 学校未公認の組織が騒動を巻き起こすというコメディタッチの作品は80年代には割とよく見られたものであり、考えてみれば「やるっきゃ騎士」もその手の作品だった。本作品はある意味では「やるっきゃ騎士」の兄弟分と言える

 とは言え「やるっきゃ騎士」は依然月刊ジャンプで連載中であるからあまり似せる訳にもいかない。大体そのまんまではドエロ過ぎてジャンプではとても掲載出来ないだろうし

 中でも大きな相違は主人公だ

 まず、ビジュアルからして違う。「やるっきゃ騎士」の主人公である誠豪介は典型的な悪ガキタイプの顔でお世辞にも格好いいとは言えないが、本作品の主人公である天野俊は、上のカバー画像を見てもわかるように中性的な美少年である

 そして一番重要な違いは、豪介が物凄いスケベなのに対して俊はそういう事に顔を赤らめてしまう純情な性格だという事だ

 なので主人公が能動的にエロい展開に持ち込む事がなくなり、週刊ジャンプでも大丈夫なレベルのエロさに抑えられている。せいぜいパンティを見せるつもりが穿いてなくて下半身をモロ出しする程度だ。そんなのはあの「DRAGONBALL」でも初期にブルマがやっているのだから、本作品は「DRAGONBALL」と同程度に健全だと言えるだろう。…まあ、そんな訳ないが

 また、主人公がそんな感じなので女性に人気があるというのも注目すべき違いだ。作中で主人公が人気というのもあるが、それだけでなく作品が女性に人気なのである

 みやすのんきの漫画が女性に人気がある訳ないだろと思うかもしれない。何を隠そう私自身もそう思っているのだが、単行本1巻カバー折り返しの作者あいさつでそう書いてあるから事実なのだろう

 

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証拠画像

 しかし、女性に人気があると言ってもそもそもジャンプの読者に占める女性の割合は少なく、読者の大半を占める男性はというと物足りなく感じた事だろう。エロを控えたみやすのんきなど画竜点睛を欠くの如しであり、月刊ジャンプで「やるっきゃ騎士」が長期にわたって連載が続く一方で、こちらは僅か19話であえなく終了となってしまう

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二週目で11番目まで落ちるあたりに本作品に対する期待度の薄さが見える

 さて、本作品に関しては正直なところ短期で終了したのは順当だったと思われる

 なにせ作者の代表作といえば前述の「やるっきゃ騎士」の他に「冒険してもいい頃」や「AVない奴ら」などエロを売りにしたものばかり、というか、別名義で成人漫画を描いているくらいだ。いわばアングラ畑の人間が健全で超メジャー誌であるジャンプに執筆するとなると、制約も厳しくなるし重圧もかなりのものだっただろう。作者の実力が充分に発揮出来たとは思えないし、例え発揮出来たとしてもジャンプで人気を得る事が出来たとは編集部はおろか本人すら思っていなかったのではないだろうか

 短期終了する事が分かっていながらも尚、本作品の連載に踏み切った理由は、それだけ「やるっきゃ騎士」の月刊ジャンプにおける功績が大きかったという事に他ならない。言い換えると本作品は、みやすのんきの、そして「やるっきゃ騎士」の功績を讃える為にジャンプに建てられた記念碑なのである