黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

桂正和の懊悩

 桂正和

 黄金期の初頭においてはウイングマン、半ばにおいては電影少女、後期においてはDNA²、黄金期終焉後もI''sと映像化された作品を連発した同氏はジャンプを語るうえで欠かす事の出来ない漫画家の1人と言えるだろう

 コンスタントにヒットを飛ばしているように思える桂正和だが、実はウイングマンの終了から電影少女が始まるまでには四年以上、直近の連載作品からも二年の時が空いており、電影少女が始まった当時の私は「へー、桂正和か。懐かしいなー」などと思ったものだ

 今回紹介するのはそんなウイングマン電影少女の間の空白の四年に連載されたこの作品である

 

 超機動員ヴァンダー(85年52号~86年21号

 

f:id:shadowofjump:20201026192456j:plain

ピンク髪のキャラは乳首が出ちゃってるので隠させていただきました



 

 さて、桂正和といえば、美少女を描かせたら日本一と称されるくらいに魅力的な女性キャラを描く事に定評があり、連載デビュー作であるウイングマンからしてヒロインの美紅やあおいの印象が強すぎて主人公である広野健太が霞んでしまう程であった。ちなみに私はあおい派だったがそれはどうでもいいか

 しかしながら本人は女性キャラを存分に生かす恋愛ものよりもヒーローものの方が好きなようで、まだ高校生だった80年に第19回手塚賞佳作を受賞したツバサからして変身ヒーローものであり、増刊に掲載された学園部隊3パロかんなんかはタイトルから想像する通り太陽戦隊サンバルカンのパロディであった

 その後81年に担当編集者であった鳥嶋の勧めでラブコメ作品の転校生はヘンソウセイ⁉を描いて第21回手塚賞準入選となり、本誌デビューを果たすと83年にはその2つの路線を合わせたウイングマンで連載デビューを果たすといきなりアニメ化する程のヒットとなり、一躍人気漫画家の仲間入りを果たす事となるのは御存じの方も多いだろう

 

 そしてウイングマンの連載が終了してから僅か数カ月後に連載が始まったのがこの超機動員ヴァンダーだ

 本作品のあらすじは藤枝弥紫と森村みなほが2人でパワーウェアに入り、地球外惑星人の犯罪に対抗する超機動員ヴァンダーとして戦うというもので、ウイングマンで好評だったヒーロー&ラブコメ路線を踏襲している

 ただ、ウイングマンは主人公が中学生という事もあってか学生生活が中心でラブコメ要素が強いのに対し、本作品の方は作者の好みが強く出たのかヒーローものとしての要素の方に力が入っているように思われる

 例えばウイングマンの場合、謎の少女と書かれた事を現実にするドリムノートを拾った事でウイングマンに変身出来るようになるという割とユルめな設定なのだが、本作品の場合は地球外惑星人に対抗する為に警察機関が地球外惑星人犯罪部超機動課を設立し、そこで開発した戦闘服を装着するという作者が好きな特撮ヒーローもののような設定となっていて、作品中のエピソードも超機動課の同僚の家族が事件に巻き込まれたりヴァンダーの偽物が現れて悪事を働いたりと如何にもなものが見られるし、単行本には作中に出す事の出来なかったメカの設定画まで載ってある。このあたりの設定、多分ノリノリで考えたんだろうなあ

f:id:shadowofjump:20201026192521j:plain

合体ロボとかどこで出す気だったんだろう…

 

 しかし作者がノリノリだからといって必ずしもいい結果に結びつく訳ではなく、結果として説明台詞が増えて読み辛くテンポも悪くなるという弊害が起きてしまった

 その一方で割を食ったのがラブコメ要素である。女嫌いの主人公弥紫とそんな弥紫に惚れたみなほ、そして関西支部からきた京本なつきによる三角関係は美紅とあおいを、美女だらけの超機動課の同僚はウイングガールズを彷彿させ、作品を彩る花には事欠かなかったのだが、残念ながらそれを生かす前に連載終了が終了してしまった為にいろいろおざなりになってしまった感は否めない。パワーウェアチェック担当の霧野陽子なんか憧れの女性みたいな感じで登場したのにその後碌に出番がなかったぞ

 

f:id:shadowofjump:20201026192614p:plain

14号以降は本作品とうわさのBOYでラス2を占めている

 ヒーローものを存分に描こうという気合が空回りして短期終了の憂き目にあってしまった本作品に対し、作者は単行本2巻カバー折り返しのあいさつで「”はずだった”の多い作品です。ストーリーをもっとこうする”はずだった”、こういうキャラが出る”はずだった”」と悔恨を述べている。そういう意味では本作品は失敗作だと言えるのかもしれない

 しかし、同時に1巻カバー折り返しでは「この作品は少しょうスケベです」と意識的に女性キャラの肌の露出を増やしてみたような事を述べており、これが後の電影少女やI''sに繋がると思えば重要なターニングポイントであったのではないだろうか。そして実際肌色成分が多めなのでそれだけでも見る価値はあると言えよう