黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

真倉翔の華麗なる転身

 当ブログでは前回、原作・原案付き作品という括りで記事を書いた。その流れで今回は、とある有名な原作・原案付き作品の原作者が、自身で作画まで手掛けた作品を紹介したい

 …まあ、表題に名前が入っているので察した人も多いだろうが。そう、今回紹介するのは「地獄先生ぬ~べ~」の原作者として有名な真倉翔のこちらの作品である

 

 天外君の華麗なる悩み(91年41号~92年6号)

 真倉翔

画像は電子書籍版です

 Wikipediaによると作者はジャンプで活動する以前は真倉まいなという名前でエロ漫画を描いていて、単行本も結構な数が出ていたという。果たしてこれは事実なのか確認の為に、あくまで確認の為に真倉まいなの単行本を取り寄せてみた

 それがこちらである

 

 私は鑑定眼に自信がある訳ではないが、見比べてみるとまつ毛の描き方など共通している特徴が見られるので、まず同一人物ではないかと思う。因みに内容の方は、…私の性癖には刺さらなかったとだけ言っておこう

 さておき、その後真倉翔と名義を変えて90年増刊ウインタースペシャルに本作品とタイトルも同じ「天外君の華麗なる悩み」を、スプリングスペシャルに「マッチョキュービー」を掲載、また、同年19号には「ハッタリ4×4」で本誌初登場、しかも3号連続での掲載を果たしている

 いきなり3号連続掲載とは余程期待されていたのだろう。と思いきや、さにあらず。これはおそらく当時連載を持っていた新沢基栄が急病で連載中断となった為の代理原稿だと思われる。そして、翌91年41号から連載が開始されたのが本作品である

 そんな本作品は、女性にモテてモテてしょうがない鬼相天外が、モテないように硬派を気取るものの結局モテてしまうというギャグ漫画である

 単行本のカバー画像を見てもわかるように主人公の鬼相天外は角刈りにサングラス、変形学ランと、まるで「魁‼男塾」に出て来るモブのような男で、とても女にモテるようには思えない。…のだが、生まれつき強力なフェロモンが分泌される体質で、物心がついた頃からモテすぎて色々なトラブルに巻き込まれた為にすっかり女性嫌いになっていたという、リアルで存在すれば皆に殺意を抱かれるような男である。故に女性を寄せ付けないよう硬派を気取って応援団に入るものの、生まれつきの体質はいかんとも出来ず、何をやっても蛾を引き寄せる誘蛾灯の如く女性を惹きつけてしまう

 女性にモテたくて頑張るという主人公は「SLAM DUNK」の桜木花道や、以前当ブログでも紹介した、本作品と同じく応援団が舞台である「神光援団紳士録」の杉山ヒデキチなど少年漫画の定番の1つと言えるが、逆にモテたくなくて頑張るという主人公は珍しい。その斬新な設定故に本作品は私の中では数ある短期終了作品の中でも印象が強いほうであった

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 だが同時に、その設定は作品の幅を大いに狭める要因となってしまっている。何しろ天外がそこにいるだけで周りの女性は皆フェロモンの影響を受けて群がってしまうという強すぎる設定であるので、結局どのエピソードでもそこばかり印象に残ってしまうのだ。私などはギャグが肌に合うという事もあって、本作品に対して割と好意的な方であるのだが、それでも単行本で何話も続けて読んでいると正直またかと思ってしまう程であった

 それでも群がる女性たちが可愛いなら、言い方は悪いが美少女動物園としてある程度の人気は得られたのかもしれない。が、本作品最大の問題はまさにそこで、天外に群がるモブの女性どころか、メインキャラの1人で天外のいとこにあたる鬼相さつき、ヒロイン格の八茶目茶子に至るまで、悉く可愛くないのである(個人の感想です)

 女性キャラが可愛くないのによくエロ漫画家なんかやっていけたな、とお思いになる方もいるだろう。少しフォローをさせて貰うと、少なくとも上に挙げたエロ漫画に出て来る女性キャラは上手いとは言い難いものの、可愛くないと断言するような出来では無かったし、少なくとも可愛く描こうという気は感じられた。それが本作品になって可愛くないと断言する出来になってしまったのは、ギャグマンガという事を意識してタッチを変えたのか、はたまたエロ漫画家という過去を払拭する為だろうか。何れにせよ私の目には女性を可愛く描こうという気すらないように見えた

 ともあれ、女性キャラが多く登場する作品なのに女性が可愛くなくなるようなタッチの変化は悪手としか言いようがなく、本作品は16話で最終回を迎えてしまう事となる。…まあ、本作品の連載当時は女性キャラの可愛さに定評があり、しかもエロくもある桂正和の「電影少女」が既に連載中であったので、タッチを変えなくとも詰んでいたのかもしれないが

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 かくして、真倉まいな改め真倉翔のエロ漫画家からジャンプ連載漫画家への華麗なる転身は失敗してしまった訳だが、その後、更に原作者へと転身し、「地獄先生ぬ~べ~」というヒット作を生む事になるのは皆さまもご存じの通りである