黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

桂正和の悪癖

 桂正和といえば連載デビュー作である「ウイングマン」でいきなりTVアニメ化を果たすほどのヒットを飛ばしたが、その後は伸び悩んで「超機動員ヴァンダー」、「プレゼント・フロムLEMON」と続けて短期終了を記録し、「電影少女」で再びヒットを飛ばすまで四年近くもかかったという事は以前の記事でも触れた

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

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 今回紹介するのはそんな桂正和が「電影少女」で再ヒットを飛ばした後の短期終了作品だ

 

 SHADOW LADY(95年31号~96年2号)

 桂正和

作者自画像

 作者の経歴については上の記事を参考にされたし

 「プレゼント・フロムLEMON」の終了後は本誌の他スーパージャンプや増刊で読切を掲載、そのうちの1本である「ビデオガール」(89年増刊ウインタースペシャル)が89年51号から「電影少女」として連載化されてヒットを記録。同作品の終了後、増刊V JUMP(後にVジャンプとして独立)92年11月22日号から本作品のオリジナルでありタイトルも同じ「SHADOW LADY」を翌年Vジャンプ7月号まで連載。その後93年36・37号から94年29号まで「D・N・A² 何処かで失くしたあいつのアイツ」を連載。そして94年オータムスペシャルに「ZETMAN」を掲載した後、翌95年3・4号にVジャンプで連載したものとは設定が違う「SHADOW LADY」を掲載、同年31号から更に設定を変えて連載化を果たしたのであった

 ところで「超機動員ヴァンダー」の紹介記事でも触れたが、作者は元々ヒーローものが好みで作品も変身ヒーローを扱うものが多かった。それが「超機動員ヴァンダー」が短期終了になって以降はこの路線に見切りをつけて試行錯誤の結果、再び担当になったマシリトこと鳥嶋和彦のアドバイスもあって恋愛メインの「電影少女」で念願のヒットを飛ばす事になった訳である

 そうなると精神的に余裕が出来たのか悪い癖が顔を出してしまい、本作品でまたも変身ヒーローものに取り組む事になったのだ。いや、主人公は女性だから変身ヒロインものか

 グレイシティに住む17歳の少女小森アイミは魔法のアイシャドウを使用する事で変身し、怪盗シャドウレディとして相棒のデモと共に夜な夜な盗みを働いては警察と派手な追いかけっこを繰り広げて街を騒がせていたが、普段は同世代の男性と碌に口もきけないような内気な少女だった。そんなある日、アイミは暴漢に襲われたところを助けてくれた本田ブライトに一目惚れするが、ブライトはシャドウレディを捕まえる為にグレイシティにやってきた刑事であり、かつ、なんとシャドウレディに惚れていた。というのが本作品のあらすじである

 言わば変身ヒーロー(ヒロイン)ものと恋愛ものの2本軸であり、好きな変身ヒーローものを描きたいけど、それだと人気が取れないから好評だった「電影少女」のように女性キャラを前面に押し出して恋愛要素も強めれば趣味と実益が両立できるだろうという思想が透けて見えるようである。その思想自体は成功例が幾つもあるので間違っているとは言わないが、本作品の場合は2つの要素がどちらも中途半端に感じられてしまうのが問題だ

 まず変身ヒーロー(ヒロイン)として見てみると、黒を基調にしたコスチュームに蝙蝠のような羽根という姿は誰でも思うだろうがバットマンのそれだ。舞台となるグレイシティも夜中は治安が悪いというあたりゴッサムシティを意識しているだろうし。Wikipediaを見てみると作者はバットマンが好きだというので作者の趣味丸出しである

勿論まんまではなく、作者らしく肌色成分多めであるが

 それはいいのだが、肝心の中身の方は相手を倒す必然性の無い怪盗という設定のせいでバトルの見応えがなくなってしまっているという欠点がある。作者もそれに気付いたのか途中で魔石の魔人なる存在を投入したのだが、今度は魔人が強すぎてまともなバトルにならないという有様だ

 一方、恋愛ものとしては、アイミとブライト、そしてシャドウレディというトリッキーな三角関係に、ブライトの幼馴染である細川ライムまで加わった複雑な恋愛模様が展開される。女性キャラに定評がある作者とあってアイミ(シャドウレディ)やライムは魅力的なうえ、事あるごとにコスチュームが破れて露出が多くなるのは自分の強みが良く分かっていると言えるのだが、いかんせん関係の中心にいるブライトがあまり掘り下げられてないという事もあって存在感も魅力も無いので恋愛の行く末がどうでもよく感じてしまう

 結果、本作品は女性キャラを堪能するだけの作品になってしまい、それはそれで楽しいのだが黄金期ジャンプのサバイバルレースを生き抜くのには厳しく23話にして終了してしまい、次作の「I”s」は「電影少女」路線に戻す事になる

 だが、これで作者が懲りたかというとさにあらず、「I”s」の終了後にジャンプを離れてからは、過度のプレッシャーから解放された気楽さもあってかヤングマガジンで「ZETMAN」を連載したり、漫画以外でもアニメ「TIGER&BUNNY」のキャラクター原案やゲーム「ASTRAL CHAIN」のキャラクターデザインを手掛けたりと相変わらずのようである