黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

希少な赤塚賞入選者

 前回当ブログでは「地獄先生ぬ~べ~」の原作担当である真倉翔が自分で作画も手掛けた「天外君の華麗なる悩み」を紹介した。であるなら、今回は「地獄先生ぬ~べ~」の作画担当である岡野剛が自分で原作も手掛けた作品を紹介するのが筋であろう

 筋と言っても、都合よくそんな作品があるのかとお思いの方もいるかもしれない。それが都合よくあるのだ。しかも、奇しくも真倉翔が以前に真倉まいなという名義で活動していたように、岡野剛もまた別名義で活動していた頃の作品が(真倉翔が別名義で活動していたのは「天外君の華麗なる悩み」より前の事だったが)

 

 という訳で、今回紹介するのはこちらである

 

 AT Lady!(89年52号~90年11号)

 のむら剛

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作者自画像

 

 作者は87年増刊オータムスペシャルにのむら剛名義の「暴発!ゆりこ先生」が掲載されてデビューを飾る。88年には本作品の基となる「AT Lady!」で赤塚賞入選を果たし、同作品がオータムスペシャルに掲載、更に同タイトルで33号に掲載され本誌初登場。そして翌89年スプリングスペシャルに「AT LADY! 某国より愛をこめて♡」を掲載した後、52号から本作品で連載デビューを果たしたのであった

 ところで、ジャンプの新人漫画賞は数あれど、中でも二大巨頭と言えるのが手塚賞と赤塚賞であろう。そのうち手塚賞については、審査が厳しく入選者は滅多に出ないという事は当ブログでも何度か触れたが、実はそれ以上に厳しいのが赤塚賞で、作者が入選を果たしたのが第28回にして僅か4人目という少なさである(因みに手塚賞で4人目の入選者が出たのは第12回)。しかもジャンプ黄金期において入選を果たした者は、作者の他には90年に「UNDEADMAN」で受賞した八木教広の2人がいるだけで、その後に入選者が出たのは2019年と、30年近く入選者が出なかったのだから審査が厳しいどころの話ではない

 そんな希少な赤塚賞入選者による本作品は、警視庁が開発したロボット刑事、通称AT(Automatic-Tec)の中でも最新型でありながらポンコツな7号の奮闘と失敗を描いたロボット&警察コメディである

 年々科学的・組織的になってきた犯罪に悩まされた警視庁は、対策会議の末ロボット刑事の開発を決定した。それも警視総監の独断で、全員若い女性型の。そして春田警部によって開発された7体のATは、1号は100万ボルトの高圧電流を発する事が出来、2号は体内にスーパーコンピュータを搭載、3号はジェット噴射で飛行可能など、それぞれが強力な能力を有した優秀な刑事であり、次々と事件を解決していった。が、そんな中で一番最後に開発された7号は、7万馬力のパワーを誇るものの人工知能に欠陥を抱え、事件を解決するどころか更に悪化させてしまう

 作品は大小様々なネタがテンポよく次々と繰り出され、中には銃を的に当てる射撃テストで銃を撃つのではなく、銃を投げたというネタが伏線となり、後にその投げられた銃が犯罪に使用されるなど赤塚賞入選者らしい工夫も見られるが、基本的にはロボット故の常識の無さがトラブルを引き起こすというタイプで、以前紹介した「すもも」と同じく本作品もまた「Dr.スランプ」フォロワー作品と言えよう

 ただ、「Dr.スランプ」や「すもも」が絵のタッチからオシャレ感が漂っているのに対し、本作品は主人公の7号を始め全体的に可愛らしいタッチでそれが感じられない。加えて、7体のATたちにそれぞれ違った特徴を持たせたのは明らかにサイボーグ009を意識しているし、ATたちが皆専用のマシンを持っているのはサンダーバード、他にもアニメや特撮ネタがちりばめられている事も相まって率直に言うとかなりオタクくさく、それが当時ではかなりのネックとなってしまっている

 というのも、アニメや特撮を見るのに抵抗もなく気軽にオタクだと言える現代と違って、当時のオタク像は宅八郎のような見た目も言動も気持ち悪いイメージであったからだ。それ故に一部のファミリー向け作品以外のアニメを見るという行為は半ばタブー視され、人前でアニメや特撮の話題をしようものなら周りから白眼視されるような時代だったのである

 そんな世情の中で本作品が受け容れられる筈もなく、赤塚賞入選者という華々しい肩書きを引っ提げての初連載にも関わらず、短期終了作品の中でもかなり短い僅か10話で終了してしまう。しかも、単行本2巻折り返しの作者あいさつによると、連載終了直後にはバイク事故に遭って全治三ヵ月の怪我をしてしまったという不幸の追い打ち付きで。そして、次に作者が本誌に再登場するまでは実に三年以上の月日が流れてしまっていたのである

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 その再登場作品が、真倉翔という原作者を迎えて93年27号に掲載された読切の「地獄先生ぬ~ぼ~」で、同年38号からタイトルを変更して連載を開始する事となる。そう、ご存じの通り「地獄先生ぬ~べ~」である

 しかし、考えてみれば赤塚賞入選者が話を考えずに作画担当となり、エロ漫画家が絵を描かずに原作担当となって成功を収めるというのはなかなか奇妙な話ではないだろうか