黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

あの超有名ゲームの生みの親の生みの親

 86年5月27日、つまり三十六年前の今日は、とある有名TVゲームシリーズの第1作が発売された記念すべき日である

 

 そう、国民的RPGとまで言われ、シリーズの累計出荷及びDL数は8000万超、現在は12作目となる「ドラゴンクエストⅫ 選ばれし運命の炎」の発売が予定されている(いつになるのかわからないが…)「ドラゴンクエスト」、通称ドラクエである

 周知の事実であるが、ドラクエとジャンプは非常に結びつきが強い。それは、ドラクエのクリエイターである堀井雄二がジャンプに掲載されていたTVゲーム紹介コーナーである「ファミコン神拳」でライターを務めていたからだ。その為前回紹介したファミコンジャンプミニにも数々のジャンプ原作ゲームに混じってドラクエが収録されている

 当時のTVゲーム、特にファミコンにおいてはアクションゲームやシューティングゲームが主流であり、ドラクエのゲームジャンルであるロールプレイングゲームRPG)なんて言葉すら知らなかった者も少なくなかった。それが現代においてはすっかりお馴染みのジャンルとなっているのも、「ファミコン神拳」においてドラクエを積極的にアピールしたおかげであり、それがなくばドラクエが、そしてRPGが世間に広く受け容れられる事は無かった。…というのは言い過ぎだが、少なくとも受け容れられる速度はもっと緩やかだったであろう

 

 そんな「ファミコン神拳」の歴史が1冊にまとめられた書籍が16年に発売されていた事をご存じだろうか

 

 ファミコン神拳!!!

 「ファミコン神拳」伝承委員会

 

 メインライターの1人である堀井雄二は大学時代からフリーライターとしての活動を始め、知り合いであるさくまあきらからマシリトこと鳥嶋和彦を紹介されてゲーム仲間になった事でジャンプとの縁が出来、82年40号の「マイコンは今ゲームランド‼」で初のゲーム記事を手掛ける事となる。同年、鳥嶋の依頼でエニックスのゲーム・ホビープログラムコンテストの取材をするついでに自身でも「ラブマッチテニス」というゲームを制作して応募したところ、入選プログラム賞を受賞して翌83年に発売、ゲームクリエイターとしてデビューを飾ってしまう。同年には「ポートピア連続殺人事件」が発売されゲームクリエイターとしてすっかり有名になってしまうがライターの仕事も継続、85年36号から開始した「ファミコン神拳」では、ゆう帝としてライター陣に名を連ねる事となる

 こう振り返ってみるとドラクエの生みの親である堀井雄二ゲームクリエイターになるきっかけを作ったのはジャンプでなので、ジャンプこそが生みの親の生みの親と言えるのではないだろうか。もしジャンプとの縁がなくとも結局はゲームクリエイターになったのかもしれないが、その場合はキャラデザインを務める鳥山明との縁もなくなってしまうので少なくとも今の形のドラクエは生まれなかったし

鳥山明のキャラデザインもドラクエが普及した要因の1つである

 さておき、本著は全6章構成となっており、そのうち1章の奥義袋とじ全掲載拳‼と6章の復刻!あたた独断採点拳‼は、その名の通り当時掲載された全「ファミコン神拳」のうち、袋とじの部分とゲームレビューを復刻掲載したものとなっている

 今まではこれらを読むには当時のジャンプを保存しておくしかなく、そんな人はごくごく僅かしかいなかったので嬉しい復刻である。…まあ、袋とじはサイズを縮小して掲載されているので読むのが辛いし、そもそも今読んでも有益な情報も無いのだが、眺めるだけでも当時の雰囲気が味わえて楽しい。その2つと「ファミコン神拳」のイラストを担当した土居バグユキこと、ジャンプ放送局でもお馴染み土居孝幸のイラストを掲載した4章の土居孝幸イラスト大公開斬‼は資料的意味合いが強いと言えよう

 そして残りの2章初代編集マシリト大放言‼、3章ファミコン神拳創世者爆録座談会‼、5章伝承者インタビュー突撃破‼は、ライターを務めた面々と担当編集だった鳥嶋が当時を振り返って色々エピソードを語っている

ゆう帝だけでなく勿論ミヤ王もキム皇も語っているぞ

 当ブログでしょっちゅう引用している西村繁男の「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』」もそうだが、私はこういった当時の事を語るという企画が好きだ。特に携わった当人が語ると臨場感が段違いで読んでいてワクワクする

 

shadowofjump.hatenablog.com

 これらの章ではキム皇が昔、市民活動家のところに出入りしていたとか、ミヤ王のところにサンデーからもファミコン記事を書いて欲しいという依頼が来て、それを「ファミコン神拳」加入前のてつ麿に紹介したとか、今では信じられない80年代的エピソードが語られている

 その中でも注目すべきは鳥嶋の話だろう。当人をモデルとしたDr.マシリトなどを見て察しられるように元々舌鋒が鋭いのに加え、集英社を離れて白泉社に移籍した為か、「ファミコン神拳」内部だけでなく編集部内の反応やメーカーとの関係など編集サイドしか知りえない話をかなり辛辣な言葉交じりで披露してくれている。…白泉社集英社と同じく一ツ橋グループの企業なのだが、いいんだろうか

 その中でも一番印象的な言葉を紹介して今回は終わりとさせて頂こう

 

 あのね「キャラゲーはつまんない!」というのを植え付けちゃったのは、ひとえに責任はバン……。

 

 その言葉をもっと早く言って頂けたなら「ファミコンジャンプ 英雄列伝」の被害者はもっと少なく済んだであろうに