黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

最も期待された短期終了作品

 今回紹介するのは、データで見る黄金期ジャンプの記事で少し触れたコレだ

 

 CYBERブルー(88年52号~89年32号)

 原哲夫 BOB&三井隆一

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コンビニコミックみたいなカバーデザインだ

 

 本作品を紹介する前にまずこれを見て貰おう

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 連載初週から2話連続で巻頭を務め、3話目にはジャンプのトップポジションたる3番目に配置、その後もしばらくの間は前の方に掲載されるという、まるで新連載作品ではなく人気作のような優遇ぶりである

 これだけ優遇されるのにはもちろん理由がある。説明するまでもだろうが、本作品の作者が原哲夫だからだ

 そう、原哲夫といえば「DRAGONBALL」以前のジャンプの看板であり、知らぬ者はいないと言っても過言ではない程の超人気作である「北斗の拳」の作者だ。そして、その「北斗の拳」の終了から半年も経たずして連載が開始されたのが本作品なのである

 よく知られている事であるが、ジャンプはアンケート至上主義で、読者アンケートの結果の良い作品は誌面の前の方を飾れるし、悪い作品は巻末の方に追いやられ、じきに連載が終了させられてしまう。それは新人だろうが大御所だろうが関係なく、アンケートの前では皆平等だと言える

 しかし、アンケート結果が出る前、つまり連載開始当初の段階では平等ではなかったりする。編集部が期待をかけている若手や実績のある作者、特に前作でヒットを飛ばした作者の次回作となるとその扱いは段違いなのだ

 例えば「DRAGONBALL」を見てみよう。作者である鳥山明は「DRAGONBALL」の連載を開始する僅か三カ月前までやはりジャンプの看板であり、知らぬ者はいないと言っても過言ではない程の超人気作である「Dr.スランプ」の連載をしていたという、本作品と同じような境遇であった

 「DRAGONBALL」の連載開始から第5話目までの掲載順変遷を見てみると、第1話が巻頭なのは皆同じとしても、2話目以降も掲載順が2、巻頭、巻頭、2となる。それに比べて以前紹介した「くおん…」の第5話目までの掲載順を見てみると巻頭、6、6、5、8で、かの「SLAM DUNK」ですら巻頭、8、7、8、2という扱いである。如何に「DRAGONBALL」の扱いが特別だったかがわかるであろう

 別にそれを不公平だなどと言うつもりはない。人気作品を描いた作者の次回作となれば編集部側は勿論、読者側も期待が大きい訳で、それを目立つ所に配置するのはいわば当然の事だとも言える

 そんな訳で「北斗の拳」の作者の次回作である本作品も優遇を受けた訳だが、ご存じの方も多いと思うが「北斗の拳」と本作品とでは作者が全く同じ訳では無い

 そう、原作者だ

 「北斗の拳」の原作者が武論尊なのに対して本作品の原作者はBOB&三井隆一に代わっている

 BOBって誰だ?と思った方もいるだろう。私もまったく同じ思いだ。なので何者なのか調べてみたのだが、本作品の原作者という以外の情報は出てこなかった。2巻カバー折り返しの作者あいさつと写真によると日本人で役者もやっているとの事で、この人じゃないか?という人物はいたのだが、生年月日を見ると明らかに別人であった。因みに三井隆一についても調べてみたが、やはり本作品の原作者である以外の情報は無かった

 

 それはさておき、原作者が違う事で本作品は「北斗の拳」と絵柄は似ているが全く別の物語となっている

 あらすじはこんな感じだ

 2305年。地球から最も遠い植民惑星ティノスは常に生命維持装置を身に着けてなければ生きていていけない程過酷で、人心までも荒廃していた。そんな中でブルーは300年前のポンコツロボット、ファッツと出会い、その後悪徳保安官に騙され、利用された挙句ハチの巣にされてしまう。しかし死の間際、同じくハチの巣にされて壊れる寸前のファッツによってその電子頭脳を移植され、コンピュータと同化したサイバービーイングとして蘇ると共に、諸悪の根源であるティノス星府の四元老に戦いを挑むのであった

 

 そのような話であるから本作品は専ら素手で戦う「北斗の拳」とは違って兵器を駆使した戦いとなっていている。特に主人公のブルーはコンピュータと同化した事もあって目から狙いをつける為のレーザーポインターを出せたり、相手の頭に手をかざしただけでその思考を読めたりとタイトルどおりにCYBER、サイバーパンク

 しかし、サイバーパンクというジャンルはジャンプ読者、それどころか日本人全体に受けが悪いジャンルだったりする

 アンケート結果も良くなかったのだろうか、本作品の戦闘はいつの間にか「北斗の拳」に寄せた接近戦ばかりになり、それでも駄目だったのか、最後は他の生物と同化したバイオビーイングなる敵がシャドーフォースという謎パワーを使うというヤケクソぶりで、物語の方も四元老のうち2人は別の元老に暗殺されていた上、そうやってラスボス化した元老も最後は自滅という投げっぱなしな最後となってしまっている

 

 …こんなふうに説明すると「そりゃあ短期終了になるわ」と思うかもしれないが、そうなってしまったのもやはり前作「北斗の拳」の影が大き過ぎたのだろう。読者の期待が大きかったのも「北斗の拳」の作者の次回作だという事であり、内容の方も「北斗の拳」のようなものを期待している部分がある。が、作者にとっては「北斗の拳」のようなものは「北斗の拳」でやりつくしており、違ったものがやりたい訳である

 その違いが大きければ読者からも別物だと認識されるが、半端に違ってしまった場合はコレジャナイ感満載な「期待したもののようななにか」になってしまう。本作品が正にそれで、出来たものは「SF北斗の拳的ななにか」であった。実はこういった事は珍しくなく、巷間では「ヒットを飛ばした作者の次回作はコケる」となどと囁かれるほどなのである

 

 巷間で囁かれている通り本作品は残念ながらその期待に応える事が出来ずに短期で終了してしまったが、なんだかんだ言っても原哲夫の描く男の闘いは熱いものがあるし、三十年以上前に描かれた未来の風景は、記憶媒体フロッピーディスクの形をしていたりと今となってみると趣深い。過度な期待が無くなった今では軽い気持ちで読んで楽しむのには充分な作品となっている筈だ。「北斗の拳」と違って短期で終了したから長さもさほどでもないし