黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

青春の迷走

 早いもので今週末からGWである。この春から新たな生活を始める事になった新入生や新社会人はそろそろ環境に慣れ、期待に胸躍らせた気持ちも不安に苛まれた気持ちも一段落した頃だろうか。…まあ、かく言う私がそんな環境にあったのは20世紀の話になる訳だが。ああ、青春の日々は遠くになりにけり

 さておき、今回紹介するのは、私などが記憶の彼方に置いてきた若き青春の日々を描いたこの作品だ

 

 VICE(93年25号~34号)

 柳川よしひろ

 

 作者は北条司のアシスタントを経て89年に「ジグザグ・シンコペーション」で手塚賞佳作受賞、同年増刊サマースペシャルに掲載されてデビューを飾る。その後91年オータムスペシャルに「TEMPA!」を、92年スプリングスペシャルに「PA-PA!」を掲載。そして93年25号から本作品で本誌初登場にして連載デビューを果たしたのであった

 そんな本作品は、堀川拓郎とその悪友の土居文彦、陣内公一の3人の高校生を軸とした青春群像劇である

 主人公の拓郎は、101回目のナンパでようやく誘うのに成功した女性は既に彼氏持ちだったというモテたくてしょうがないのにモテない男。対照的に文彦は付き合っている女性の金で高校生にして1人暮らしをしているモテ男。そして陣内はリーゼントにヒゲという高校生には思えない貫禄の持ち主。3人は特に何かに打ち込むという事も無く毎日を気ままに生きていた

 そんなある日、いつものように文彦、陣内と共に街に繰り出した拓郎は、偶然知り合ったさゆりという少女に心を奪われるが、さゆりはチーマー集団ブラック・サンズのリーダーである健一という男につきまとわれていた

 話の中心は拓郎の恋の行方に不良の喧嘩が花を添えるという感じなのだが、恋愛話は上に挙げた「TEMPA!」で既にやっていたりする。しかも主人公は名前こそ違うものの拓郎とそっくりで、陣内などは名前もそのまんまで登場して

 まあ、それはいい。問題は本作品の連載開始時には安定した人気で連載五年目を迎えた「ろくでなしBLUES」、連載半年にしてブレイクしつつあった「BØY」というジャンプ2大不良漫画が揃い踏みしており、後発で不良の喧嘩を扱うには厳しい状況にあった事である

 無論、そんな状況であっても本作品が迫力のある喧嘩を見せられるならその2作品を押しのける事も出来るのだが、本作品の喧嘩シーンは全体的に軽いというか迫力に欠けて見劣りするというのが正直な意見だ

 一体なんでこんな悪すぎるタイミングで本作品の連載が開始されたのだろうか。しかも、「BØY」の梅澤春人は作者と同じ北条司のアシスタント出身で、言わば同門で潰しあいをさせるような形である。そういえば成合雄彦の「カメレオンジェイル」も、内容が被る「CITY HUNTER」が既に連載中のところに連載を開始されられたり、どうもジャンプ編集部は意味不明な判断をする時がちょくちょく見られる

 さておき、そんな事情から差異をつけようとしたのか、唐突に健一の父親が黒幕ムーブをかましたり、文彦にサッカー少年だったという設定が生えたりと色々工夫の跡が伺える。…のだが、連載開始直後で話の幹もしっかりしていないのに枝葉を盛り始めた上に投げっぱなしで描き切れておらず、全体的に迷走している感が否めない。まあ、描き切る前に連載が終了してしまったという側面もあるだろうが

 そしてもう1つ本作品を読んでいて気になるのは、ギャグなのだろうけど拓郎が突拍子もない行動をとる事が度々見られ、読者を置いてけぼりにしてしまっている事だ

 

作者挨拶も読者置いてけぼりである

 話の軸が定まらずキャラの行動は読者を置いてけぼりにするとあっては本作品が僅か10話で終了してしまうのは止む無しであり、結局最後まで拓郎がどんなキャラなのか、何がしたいのかわからないままであった

 本作品は正直不出来と言わざるを得ない。だが、それでも私は不思議とそんなに嫌いじゃなかったりする。考えてみれば、青春とは迷走と空回りの連続であり、ブレずに何か1つの事に打ち込んだ者などどれだけいよう。私もそうだったが、自分が何をしたいかもわからず毎日を気ままに過ごし、特別な事など成し遂げられなかった者が殆どではないだろうか。そういう意味では本作品は作者の空回りも含めてリアルな青春を体現していると言えよう