黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ジャンプで一番激しいバトルは

 本日8月10日は、ジャンプの黄金期を彩った漫画家の1人である山根和俊の誕生日である。などと周知の事実のように言ってみたが、もしかすると中には「誰だよ、山根和俊って?」と思っている人も少なからずいるかもしれない。だが、そんな人も作品名と単行本のカバーを見れば思い出すのではないだろうか。…まあ、思い出せなくてもどうせ紹介するから問題ないし

 という訳で今回紹介するのはこの作品だ

 

 超弩級戦士ジャスティス(93年48号~94年11号)

 山根和俊

 

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カバーの下にはスタッフクレジットが

 作者は89年「BERSERK」でホップ☆ステップ賞佳作を受賞。翌90年に「KILL BLADE」が増刊スプリングスペシャルに掲載されてデビュー、同年サマースペシャルにも「SCORPIO」が掲載される

 また、この頃に萩原一至のアシスタントを務めるとともにアルバイトとしてウルフチームというゲームメーカーで働いており、同社の数々の作品のキャラクタデザインを担当したという。そしてその内の1つである「エル・ヴィエント」が91年にゲーム誌の「BEEPメガドライブ」でコミカライズされる事になり、これが連載デビュー作となる(名義は上野哲也)

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画像はBEEPメガドライブの前身であるBEEP(復刻版)

 ジャンプ関連に話を戻すと91年にジャンプノベルで第1回ジャンプ小説・ノンフィクション大賞入選作である定金伸治の「ジハード」の挿絵を担当、翌92年には増刊オータムスペシャルからコミカライズも手掛けるようになる。そして93年30号「魔剣戦記DEICIDE」で本誌デビューを飾ると、同年48号から本作品で連載を開始する事となったのであった

 そんな本作品は、生きている剣である斬魔刀の使い手であるジャスティスが、人類を滅ぼして地球移住を目論むネクロシスとの戦いに身を投じるバトル漫画である

 ところで、本作品の単行本カバーを見て、作者がアシスタントを務めた萩原一至の「BASTARD‼ 暗黒の破壊神」(以下「BASTARD‼」)を思い浮かべた方もいる事だろう。主人公であるジャスティスの長い金髪につり目という外見的特徴は「BASTARD‼」の主人公であるダーク・シュナイダーと一緒であるし、画のタッチも師弟である故か似た雰囲気がある

 共通点は他にもある。そもそも剣と魔法のファンタジーというテーマからして「BASTARD‼」と一緒だし、女性キャラがやたら露出度が高いのも一緒、決めの場面でのアメコミのようなハッタリの効いた演出もまるで「BASTARD‼」を見ているようで、師である萩原一至の影響は隠れようがない

 だからといって、私は本作品を「BASTARD‼」のパクりなどと言う気はない。確かに「BASTARD‼」との共通点も多いのでそう思ってしまうのもわからないでもないが、読んでみるとそれと同じくらい相違点も見つけられるからだ

 まず物語の舞台からして違う。「BASTARD‼」の舞台はベタベタなファンタジー世界で、登場するキャラも如何にもな格好をしているのが多いのに対し、本作品の舞台は現代に近い世界で魔法の要素は薄く、普通にヘリコプターとか銃も出てくるし主人公のジャスティスも革ジャンにホワイトジーンズ姿でバイクに乗っていたりする

 中でも一番の違いは主人公だろう。両作品の主人公の見た目が似ている事は前述したが、中身の方はまるで違う。「BASTARD‼」の主人公であるダーク・シュナイダーは、所謂剣と魔法のファンタジーにおいては主人公になる事が少なくむしろ悪役になりがちな魔術師であり、性格面を見ると残忍で傲岸、おまけに世界征服を目論んでいるという悪役じみた、というかまんま悪役な設定である

 一方、本作品の主人公であるジャスティスの方は、単行本のカバーでも剣を持ってポーズを決めている事からわかるようにバリバリの剣士であり、性格の方も正義を意味する名前そのまんまに正義の心を持った熱血漢と、典型的なジャンプの主人公キャラとなっている

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刀より銃の方が似合いそうな格好だ

 以上の相違によって「BASTARD‼」は一見王道のヒロイックファンタジーのようで、実はアンチヒーローのダークファンタジーになっているのに対し、本作品の方はジャンプの王道ど真ん中と、似て非なる作品に仕上がっている。そしてその相違はそのまま両作品の明暗を分ける結果となってしまった

 何度も言っているが、ジャンプで連載を持つだけでも相当大変な事である。そして、長期に渡って連載を続けるにはその相当大変な事をやり遂げたもの同士での争いに勝ち残らなければならないので輪をかけて大変な事である。なので、各々はサバイバルレースを勝ち抜く為のセールスポイントが必要とされる

 その点において「BASTARD‼」はダーク・シュナイダーの主人公でありながら悪逆非道なところは当時のジャンプでは珍しく、他にない明確なセールスポイントとなっているのに対し、それが無い本作品はジャンプの中でも最も層の厚い王道バトル漫画という土俵で他の王道作品と真正面から争わなければならなかった。そしてその結果、力足りず14話で終了となったのであった

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  しかし、当時のジャンプの王道バトル漫画といえば「DRAGONBALL」に「幽☆遊☆白書」、「ダイの大冒険」といった錚々たる面々であり、それらとの争いに敗れたからといって誰が責める事が出来ようか

 ジャンプの王道バトル漫画同士の生き残りを賭けたバトルは、どんな漫画の中のバトルよりも過酷なのだ