黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

全米が、全世界が泣いた(別の意味で)

 毎年言っていて恐縮だが1984年の本日11月20日は「DRAGONBALL」の連載が開始された日であり、即ちジャンプの黄金期が始まった日である。という訳で今回はその「DRAGONBALL」に関係したある物を紹介したい

 

 それはこちらだ

 

 DRGONBALL EVOLUTION

 2009年3月13日公開

 

 せっかくの記念日になんて物を紹介するんだ、とお思いの方もいるかもしれないがそれも無理なからぬ話だろう。なにせ本作品は上映前の時点で既に駄作のレッテルを貼られ、上映後もその評価は覆る事は無くWikipediaによると制作費4500万ドルに対して興行収入は5600万ドル弱。一般に興行収入は制作費の倍は稼がないとペイラインに届かないと言われているので商売としても大失敗に終わったからだ

 だが待って欲しい。駄作だなんだと貶している人たちの中で本作品を見た人はどれだけいるのか。興行収入から推測するに多くの人はネットの評判を鵜呑みにして自分では見てもいないのにしたり顔で語っているだけではないだろうか。そんな人たちの評価にどれだけの価値があろう

 …などと偉そうに言っているが、実のところ私もそんな人たちの1人であった。だが、今は違う。この記事の為にDVDを購入(中古だが)して実際に見たのだから胸を張って評価を下す事が出来る、本作品は駄作だと

 

 やっぱり駄作じゃないかというツッコミはさておき、本作品のあらすじは以下の通りだ

 

 祖父の悟飯と2人暮らしの孫悟空は、祖父に鍛えられたおかげで武術と”気”の使い手となっていた。ある日、悟空が同級生のチチに誘われてパーティに参加し悟飯が1人で家にいたところに復活したピッコロ大魔王が強襲、悟空が戻った頃には家はボロボロに壊され悟飯も今まさに息絶えようとしている所だった

 

 悟飯の遺言でドラゴンボールを集める事、そして亀仙人を探す事になった悟空は同じくドラゴンボールを集めていたブルマと協力して亀仙人を見つけ出し3人で、途中からはヤムチャも加わり4人でドラゴンボール探しの旅を続ける。一方、ピッコロもまた世界征服の為にドラゴンボールを欲しており悟空たちを追跡していた…

 

 いかがであろう。原作初期の冒険活劇とバトル路線に移行した中期の話を1本の映画に収める為に改変や省略したところはあれど、話としては「DRAGONBALL」以外の何物でもない

 だが、私もだったが実際に本作品を見た者の多くはこう思っただろう「こんなの『DRAGONBALL』じゃない!」と

 そう思った理由は主に3つあると考える。まず1つは物語のラスボスと言えるピッコロがどうにも強く思えない事だ

 

 なにせ自ら動いたのは冒頭で悟飯を襲い、どんな力なのか謎だが虚空を掴むような動作をするだけで触れる事なくアッサリ倒し、同じ動作で家をも破壊した場面だけ。以後は悟空たちの追跡も手下のマイに任せきりで移動アジトの飛行艇に引きこもったまま破壊も殺戮もしないのだから強さも怖ろしさも感じられる訳もない

 

 因みに「マイって誰だ? そんなヤツ原作にいたっけ?」とお思いの方もいるかもしれないがちゃんと原作にも登場している。ただしピッコロ配下ではなくピラフ一味としてであるが

 

 あとは原作とは違い口から卵を産むのではなく飛行艇にある妙な機械に血を吸い取らせて怪物を生み出す事が出来るのだが、その怪物は恐ろしげな見た目とは裏腹に大して強くなく、取り柄は真っ二つに切られても死なずにそれぞれの肉片が再生して2体に増殖する生命力くらい。ならば不死身なのかというとそうでもなく溶岩に放り込まれるとアッサリ死ぬし、しまいにはわざと切り刻んで増殖させられては片っ端から溶岩に放り込まれ、溶岩だまりの先にあるドラゴンボールが取れずに難儀していた悟空が溶岩を渡る為の足場として利用されるという有様だ

 

 さすがにクライマックスでは自ら悟空と戦う事になるのだが、その戦いもよくわからない気弾を撃ちあったり互いに相手を片手で掴んでの腹パン合戦という迫力の無さ。結局悟空がピンチになったのは日食によって大猿に変身し自我を失って暴走してしまった時だけでピッコロ自身は大した強さを見せぬままアッサリ覚えたてのかめはめ波で倒されてしまうという拍子抜けぶりだ

 

 2つ目は、まず上で紹介したあらすじを読み返して欲しい。1つ引っ掛かる部分がないだろうか? そう、「同級生のチチに誘われてパーティに参加」という件である

 

 実は本作品中の悟空は高校生で、しかもチチに惚れている色ボケ野郎なのだ。そのせいで悟空は行く先々でチチと遭遇して仲を深めていき、かめはめ波の修行においてもチチが誘惑するような言動で悟空の性欲を刺激し、それに発奮した悟空がアッサリと成功、そして2人は抱擁し熱い口づけを交わすといったラブロマンス的展開を見せられる

 

 そんなシーン誰が求めているのか

 

 「スパイダーマン」などマーベルのヒーローものだったら一定の需要があるのかもしれない。が、「DRAGONBALL」においてそれを求めている人がどれだけ居よう。というか、原作ではチョイ役もいいとこのチチなんかに尺を使うくらいなら本作品では登場すらしなかったクリリンを出すとかもっと意義のある使い方があるだろうに

 それだけじゃなくどうも制作陣はチチが大層お気に入りのようで、チチの為に格別な見せ場を用意している

 

 それはチチに化けたマイと本物のチチとのバトル、言わばチチ対チチである。もしやこの為にピッコロを引きこもりにしてまで本来はピラフ一味のマイを手下として出したのでは…というのは邪推だろうか

 

 このバトルシーンはクライマックスである悟空対ピッコロよりもよっぽど気合が入っていて見応えもあり、DVDの特典としてメイキング映像が収められている程だ。ただし見応えがあると言っても、これぞ「DRAGONBALL」と思えるような空間を目一杯使ったダイナミックなバトルではなく、拳と蹴りの応酬というカンフー映画的なバトルではあるが

 

 もう一度言う、そんなシーン誰が求めているのか

 

 本作品の観客が見たいのは「DRAGONBALL」的なバトルでありカンフー映画的なバトルが見たいならカンフー映画を見るわい。そんなものに気合を入れるくらいなら悟空対ピッコロのバトルをなんとかしろよ

 そして3つ目は、そもそも論であるが「DRAGONBALL」という作品が実写化に向いていないという事だ

 キャストが原作のイメージと全然違う、というのは漫画を原作とした実写作品共通の問題なので仕方ない。しかし、ユニークな建物が建ち並ぶ近未来的な都市と原始的な荒野が混在する「DRAGONBALL」のカオスな世界を違和感なく融合させて見せるのは鳥山明のセンスがあってこそで、実写でやるにはハードルが高すぎる。加えて本作品は前述のように悟空が高校生という中途半端に現実的な設定と、更に欧米人によくある偏見に基づいたヘンテコアジア観までトッピングした結果、場面場面のビジュアルに差があり過ぎてこれは「DRAGONBALL」の世界なのかという以前に同一の世界なのかと思うほど違和感だらけになってしまっている

 

 元々が困難である「DRAGONBALL」の実写化に挑もうという関係者の勇気には敬意を表しよう。だが、勇気があれば何をやっても許されるわけではない。誰も求めていない勝手な改変でジャンプの、そして日本の漫画の象徴といえる「DRAGONBALL」をヘンテコSF青春カンフー映画魔改造して世界中のファンを落胆させた本作品の罪は極めて重いと言える