黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

手塚賞・赤塚賞を振り返る 3巻目

 今回は手塚賞・赤塚賞の受賞作品を振り返る記事の第3弾を

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 めざせ漫画家!手塚・赤塚賞受賞作品集3

 

 本単行本に収録されているのは88年下半期に開催された第36回手塚賞及び第29回赤塚賞計9本に最終候補作3本を加えた12本となる。前回は手塚賞が史上唯一の2人同時入選、赤塚賞も入選者が誕生と豊作だったのに対し、両賞とも入選者無しどころか手塚賞に至っては準入選者すら無しで全体的に受賞者が少なかった為に最終選考作まで収録して水増しする程の不作だったと言える

 

 以下、収録作品と審査員による印象的な短評を紹介する

 

 手塚賞佳作 ごんごろぎつね 中空不知男

 

 作者は本単行本の作者紹介によると当時27歳でそれ以前の受賞歴は無しというが、それ以上の事は調べてもわからなかった。タイトルから小学生の時に国語の教科書で読んだ「ごんぎつね」を連想する方もいると思うが、内容の方も実男の病気の妻の為に薬草を届けていたごんごろぎつねを実男は悪さをしに来ていると勘違いして…という「ごんぎつね」を連想させる話となっている

 短評(手塚治虫)テーマ的に目立つものがあり、構成力もなかなかのもの

 

 手塚賞佳作 白い贈物ーWHITE PRESENTー 今野克彦

 

 作者は同作品が89年増刊ウインタースペシャルに掲載されてデビューを飾る。更に次回の手塚賞では準入選を果たすが連載を持つまでには至らなかったようだ。内容は家族が皆用事がある為にクリスマスの夜を一人きりで過ごす事になり不貞腐れていた和男が、街角でサンタへのメッセージを募集している老人を見かけ…というハートウォーミングストーリー

 短評(小山ゆう)夢とやさしさのあるなかなかいい作品であるが、これからデビューする新人なら、もう少し熱いパワーが欲しい

 

 手塚賞佳作 CANNONS! 中村佳美

 

 作者は後に「オレのとらぶるBABY」でホップ☆ステップ賞受賞、90年増刊オータムスペシャルに「ガイアー」が掲載されデビューを飾るが、やはり連載を持つまでには至らなかったようだ。内容は素人お笑いコンビCANNONSを結成している高校生のたかしとかずのりが、目をかけてくれているプロデューサーにネタ見せに行くが酷評され、更にオーデションに来ている若手芸人のネタを目の当たりにして自分たちとのレベルの差にショックを受けてこのままお笑いを続けていくのかと葛藤する青春ストーリー

 短評(ちばてつや)お笑いの世界に、デビューしようとする若者の軽さと深刻さをうまく描いているが、こういう内容は、漫画にするのはとてもむずかしい。スター久保田のすごさや輝きが伝わってこないし、ふたりの一所懸命さも、危なっかしさも伝わってこない。実力はあるのだから次回作に期待

 

 手塚賞佳作 Jファイター・ヨニー 郡山誉世夫

 

 作者はジャンプではデビューがかなわなかったが、後に歴史漫画の作画を担当して集英社から何冊か単行本を出している。内容はイスラエルの空軍基地に所属する若手パイロットのヨニーが、領空侵犯してきた所属不明の戦闘機2機に対応する為教官のヨアヒムと共に出動するというミリタリーもの

 短評(本宮ひろ志)絵は、やや新鮮さに欠けるが、話を読ませる技術は十分にある

 

 手塚賞佳作 HERO⁉ 一条馨

 

 作者は後に飛鷹ゆうきペンネームを変えて「タイムウォーカー零」で連載デビューを果たす事になる

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 内容は痴漢逮捕は得意だが血が苦手な刑事の流が、幼稚園で防犯教室を行っている最中に逃走中の凶悪犯が侵入してきて保育士や園児が人質に取られてしまうというもの

 短評(弓月光)絵も今風で、よくできた作品。刑事の性格をもっと極端にした方がよかったのでは

 

 赤塚賞準入選 ぬいぐるみサマー 野口周三

 

 作者は井上雄彦のアシスタントとなって「SLAMDUNK」に関わり、後にラノベのコミカライズなどを担当。他にもデザイナーにイラストレーター、アニメのプロデューサー及びディレクター、脚本家、更には大阪成蹊大学芸術学部の教授など仕事は多岐にわたっている。内容は高給に釣られて真夏に着ぐるみに入るアルバイトをする事になった日高祐介が現場で子供や偏屈な上司に振り回されるドタバタコメディ

 短評(藤子不二雄)むだなセリフを整理すると、もっとおもしろくなったとおもう

 

 赤塚賞準入選 RED・HOT 上北双子

 

 作者は前回の佳作に続いての受賞。内容は車トラ次郎が彼の愛車であるミニ・クーパーに取り憑いている化け猫の恋人ならぬ恋猫探しに協力させられるというもの

 短評(辻真先)絵はうまいが、シナリオと演出はイマイチ。前回佳作よりは進歩している

 

 赤塚賞佳作 なまずの中はパラダイス‼ 秋山健太郎

 

 現在放送中のアニメ「逃走中」の美術監督が作者と同姓同名だが、情報不足で同一人物かどうかはわからなかった。他に群馬県議にも同姓同名の人物がいるが、こちらは77年生まれとあり、この時はまだ小学生なので別人だろう。内容は巨大ナマズに家ごと飲み込まれた左玄ノ進、末松親子とそこに訪ねてきた人魚によるシュールギャグ漫画

 短評(楳図かずお)発想の自由なところがギャグらしくていいが、シュール過ぎると単純なギャグのパンチが弱くなってしまう点に注意が必要

 

 赤塚賞佳作 おねえさんがついてます! 浪花ボン太

 

 作者については調べても何もわからなかった。内容は受験生の大沢武と年上の彼女の里中麻美が何とか大学に受かろうと奮闘するラブコメディ

 短評(鳥山明)おねえさんがどうして主人公にやさしいのか?設定がいまいちはっきりしない。絵はまあまあ

 

 赤塚賞最終候補作 ばーぶ たけだつとむ

 

 作者は前々回に佳作を受賞しているが、此度は一歩及ばなかったようだ。内容はばーぶこと凡吾のばあちゃんが凡吾の若さを吸い取った悪婆族と戦う低年齢向けギャグ漫画

 短評(コンタロウ)無理につくったという感じが強い

 

 赤塚賞最終候補作 占い三四郎 松本卓也

 

 こちらは前回の佳作受賞者。内容は日本一の占い師を目指して修行中の浦内三四郎が転入先で出会った篠崎恵利に災難の相が出ているのをみて災難から守ってやろうと奮闘するというもの

 短評(秋本治)話が長いわりに、キャラが生きてこない。話のポイントをもっとしぼって

 

 赤塚賞最終候補作 おかしな2人 西本典正

 

 作者はこれまでも赤塚賞フレッシュジャンプ賞の最終候補に残った事はあるが結局受賞までは届かなかったようである。内容はマッチョな太田岩太とガリガリな細川筋男の2人が一目惚れした女性の気を惹く為にあの手この手と奮闘するというもの

 短評(鳥山明)すべてがありきたりで、展開にも意外性がないのが残念

 

 以上が88年下半期に開催された手塚賞・赤塚賞の受賞者及び最終選考者である