先月は丸々「キャプテン翼Ⅱ」の紹介及び攻略記事に費やされたが、その紹介記事中で「キャプテン翼ワールドユース編」(以下「ワールドユース編」)について触れ、その問題についても述べた
だが、記事では触れなかったが「ワールドユース編」には根本的にもっと大きな問題、というか疑義があったりする
それは、そもそもなぜジャンプで連載されたかという事だ
別にジャンプで連載するのにふさわしくないなどと作品や作者を貶すつもりはない。ただ、ジャンプにおいて一度終了した作品の続編が他誌で連載される事は珍しくないが本誌で連載される例は極めて少ない、というか、黄金期では他にないし、黄金期以外でもパッと思いつかないくらいには稀なのに、なぜ「キャプテン翼」だけが本誌で続編を連載出来たのだろうか
それは、当時の日本でにわかにサッカーブームが巻き起こっていたからである
「ワールドユース編」の連載が開始される前年の93年の5月にはプロサッカーリーグのJリーグが開始されただけじゃなく、10月にはW杯アメリカ大会出場が懸かったアジア最終予選の最終戦、所謂ドーハの悲劇よってサッカーに対する注目度が爆増、Jリーグの試合が頻繁にゴールデンタイムで放送されていた他、サッカーに全然関係ない雑誌やCMにJリーガーをバンバン起用するなどメディアがこぞってサッカーを採り上げていたのだ
いや、これは順番が逆かもしれない。メディアがプッシュするのは既定路線で、そこにたまたまドーハの悲劇というドラマ性が乗っかった事で予想以上にブームが過熱したというのが真相ではないだろうか。その証拠に1つ前のW杯イタリア大会のアジア予選は静かなものだったのにアメリカ大会になって急に騒ぎ出したし、ドーハの悲劇の前には既に「ワールドユース編」に先駆けて「キャプテン翼ワールドユース特別編最強の敵!オランダユース」が短期連載されていた事からもメディアはブームに乗っかるのではなくブームを創出する事を企図し、集英社及びジャンプもその一翼を担っていたと考えた方が自然だろう
そしてジャンプは「ワールドユース編」の連載が開始されてから僅か三カ月後という時期にもう1つ、サッカー漫画の連載を開始させていたりする
それが今回するこちらの作品だ
うるとら☆イレブン(94年31号~41号)
薮野てんや・渡辺達也(WINNING RUN)
作画担当の薮野てんやは90年に「情熱のクリッパー」で手塚賞準入選、増刊ウインタースペシャルに掲載されデビューを果たす。92年には「もののけサンタ」で赤塚賞佳作を受賞、翌93年サマースペシャルに掲載。そして94年31号から本作品で本誌初登場にして連載デビューを飾ったのであった
一方構成担当の渡辺達也は、本単行本余白のおまけ漫画によると本職はスポーツライターで、本作品以外にもジャンプのサッカー記事を執筆、また、後年にはやはりジャンプのサッカー漫画である樋口大輔の「ホイッスル」の制作にも協力している
そんな本作品は羅本斗志郎が所属する弱小サッカーチームの城東FCが、監督に布藤を迎えた事により変貌を遂げ、ライバルである難蛮FCに挑むサッカー漫画である
主人公の羅本は実力があるものの独りよがりなプレイを繰り返し、他のメンバーも何をすればいいかもわからないといった有様の城東FCはチームとしての体を成さず36連敗を記録していた。このままでは勝利などおぼつかないとキャプテンの桂谷が布藤に監督を依頼、布藤はチームの勝利の為には戦術が必要であり、羅本にFWからMFに転向して個人プレイを控えるよう言い渡す。最初は反発した羅本だったが、布藤とチームのもう1人FWである火浦の2人対羅本たち11人という圧倒的に有利な勝負でゴールを奪われた事から考えを改め、生まれ変わったチームは初勝利を目指して難蛮FCとの試合に臨む、というのが本作品のあらすじである
ではあるのだが、正直ストーリーなどたいして重要ではない。各話のタイトルが『ターゲットマン』とか『オフサイドトラップ&ゾーンプレス』というところからもわかるように本作品はサッカーの戦術や選手の役割を解説する入門書的側面が大きいからだ
そんな内容であるから本作品は最初から短期で終了する事は決まっていたのであろうし、10話で終了したのもアンケート結果に関係なく予定通りだったと思われる
が、それを考慮しても内容が練れていないにも程がある。編集部サイドがどんな考えだろうが読者にとっては重要なのは面白いかどうかであり、仮に評判次第で連載を伸ばす考えだったとしてもそうはならなかっただろうと思うくらいには本作品の完成度は低い。羅本に火浦、キャプテンが桂谷で監督が布藤という名前からとっくに察している人もいると思うが、登場人物の名前はオフト監督時代の日本代表の名前を少しいじっただけでポジションもそのまんまだしキャラ付けも安直、話の流れもテンプレ中のテンプレで何の意外性も面白みもないのだから
また、解説部分にしてもサッカーに興味がある人なら今更説明しないでも知っているようなものばかりである。キャラの見た目が大きくデフォルメされて小さな子供のようになっているところから、サッカーに興味を持ち始めたばかりの低年齢層がターゲットなのだろうが、サッカーに限らずその手の入門漫画を積極的に読みたいなんて人がどれだけ居よう。少なくともジャンプ読者の多くはそんなものを望んでいない
本作品には読者を楽しませようなんて気持ちは全くない、とまでは言わない。が、それよりも当時黄金期の中でも最盛期を迎えていたジャンプの影響力を駆使してサッカーブームをさらに伸長させようという意図が優先されたとしか思えない。そのような経緯で生まれた本作品が名作になる筈もなく、ある意味では本作品こそが大人の都合に一番振り回された被害者だったのかもしれない