黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

連載再開待ってます

 ご存じの方も多いと思うが、冨樫義博の「HUNTER×HUNTER」の週刊連載が終了、今後は週刊連載ではない形で掲載されていくという事が発表された。連載が終了という文言はショッキングではあるが、よくよく読めば結局は体調に合わせたペースで掲載するというこれまでと大差ない形態のようで、大概の方は予期していた事だろうから意外感はないにしろ、続きが待たされるという点では残念である

 ここまで頻繁に休載を繰り返す例は極めて稀だが、連載作品が休載になるという例は黄金期時代のジャンプにおいても存在する。そう、ゆでたまごの「キン肉マン」である。同作品は作者が腰痛の為85年38号で連載が中断し、同年50号で再開されるまで過去話を再掲載していた事は当時の読者なら記憶に残っている事だろう

 だが、「HUNTER×HUNTER」も「キン肉マン」も休載自体は残念であるものの、結局は再開されているのだから良い(「HUNTER×HUNTER」は今後の保証がないが)。中には今回紹介するこちらの作品のように休載とされながらいつまでたっても再開されず、気が付いたら無かった事になっていた作品もあるのだから

 

 ボクはしたたか君(88年50号~90年18号)

 新沢基栄

作者自画像

 

 作者はフレッシュジャンプ賞などに応募歴はあるものの受賞歴は無く、また他の漫画家のアシスタント歴も無く、ジャンプ本誌、関連誌及び他の出版社の雑誌にすら連載どころか読切の掲載歴すら無いという状況なのにいきなり80年41号から「3年奇面組」で連載が開始される事になる。と、同作品は主人公たちが高校に進学するのにあわせて「ハイスクール!奇面組」と改題を経ながら87年30号まで長きにわたって連載が続いただけでなく、TVアニメ化も果たした程の大ヒットを記録する。黄金期ジャンプの作家陣において経歴が何もないにも関わらず連載にこぎつけ、かつヒットを飛ばした漫画家というのは極めて異例で他に例を見ない事である。かの鳥山明も受賞歴及びアシスタント経験は無かったが読切の掲載歴はあったし

 「ハイスクール!奇面組」の終了後は88年18号に「おやおや親父」を掲載、そして同年50号から本作品の連載を開始したのであった

 そんな本作品は、大沢城小学校に転入してきた流石したたかと双子の妹であるあざやかを中心に繰り広げられる学園&ホームコメディ漫画である

 などという説明では、知らない人だと本作品を作者の代表作である「ハイスクール!奇面組」の小学校バージョンみたいなものとイメージするかもしれない。それは半分正解であるが半分間違いである。まず共通している所は、作者が同じなのだから当然とも言えるがキャラ同士の掛け合いの軽妙さなど作品全体のノリだ。おかげで私もそうだが「ハイスクール!奇面組」が好きだった人は本作品も楽しむ事が出来るだろう

 その一方で大きく違う部分は登場人物の数である。「ハイスクール!奇面組」が奇面組の5人と唯、千絵をはじめ腕組、番組、御女組、色男組等々…更にエピソード毎に新キャラを使い捨てるように出しまくっているおかげで「3年奇面組」時代から通算で七年近く連載が続いたのにもかかわらずメインキャラ及びキャラ同士の関係などがあまり掘り下げられなかったのに対し、本作品の登場人物はしたたかとあざやかの他は本郷勇一、大貫アキラ、斉藤つとむ、本田原海、途中から転入してきた佐々木コタローといったクラスメートと先生、あとはその家族くらいとかなり少なくなっている(厳密にはもう少しいるが)為キャラの描写が濃厚で、あざやかと本郷がいい感じになったり、したたかとコタローが海を取り合ったりといった関係性が見えて「ハイスクール!奇面組」にはない楽しさがある。ただ、人数が少なすぎて世界が狭いのが難点ではあるが

 だが、そんな本作品は90年18号を最後に突然連載が中断されてしまった

 その原因は、上に挙げた冨樫義博ゆでたまごもそうだったように漫画家の職業病といえる腰痛である。元々作者は「ハイスクール!奇面組」の連載していた頃から腰痛に悩まされており、末期にはついに耐えられずに原稿を落としてしまう程に悪化してしまったのが同作品の連載終了の原因とされている。その後時間をおいて本作品の連載が始まったのだが、連載を続けているうちにまた悪化してしまったという訳だ

 新キャラが登場したというタイミングでの突然の中断に本作品を楽しみにしていた私は落胆した。が、あくまで休載であり、同じように休載となったゆでたまごの「キン肉マン」は程なくして再開されたのだから本作品もそうなるだろうと信じて待っていた。そして連載中断から約半年後の90年40号に作者は帰ってきた

 本作品ではなく、何故か「パートナー真児くん」という読切作品で

 それでもこれは連載再開前の試験運転で、近いうちに再開するのだろうと好意的に解釈して待っていた…のだが、その後も連載が再開される気配はなく、久しぶりに92年25号で再登場した時もやはり本作品ではなく「必殺!学園救助隊キャラクター」という読切だったのに至って流石に私も再開は無いなと察して悲しい気持ちになってしまった。そして本作品は連載休止のままいつの間にか無かった事にされてしまったのであった

 その後作者はジャンプを去り01年から少年ガンガンで「ハイスクール!奇面組」のリメイク作品である「フラッシュ!奇面組」の連載を開始したが、やはり腰痛の為に休載が多く、しまいには05年6月号を最後に中断してしまう。また、17年に「ハイスクール!奇面組」が舞台化された時に作者がキャストと一緒に撮影した写真では杖を手にしていたという事なので今も腰はおもわしくないようである

 そのような状況ではもう連載を持つ事は難しいだけでなく気力の方も衰えたようで、本人もインタビューで、以前は本作品の続編を描きたいと思っていたが現在は特に描きたいと思っていないなどと語っていが、そんな哀しい事を言わずにいつか本作品の続きを描いて欲しい。私は今も待っていますよ新沢先生