黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

金田一少年にもコナンにもなれなかった者たち 番外編

 前回まで3回にわたって「金田一少年の事件簿」や「名探偵コナン」のヒットの後にジャンプでも連載が開始されるも短期終了してしまった推理漫画を紹介してきた訳だが、実はもう1作あると言えばある。…とはいえ、明らかに方向性が違うのでどう考えても両作品を意識した作品では無く、同列で語るには無理があるのだが

 そんな訳で今回は番外編としてこちらの作品を紹介したい

 

 ぼくは少年探偵ダン‼(98年43号~99年11号)

 ガモウひろし

作者自画像(ガモウひろし寄せ集めより)

 

 作者は84年に「根暗仮面」で赤塚賞佳作を受賞、同作品が翌85年フレッシュジャンプ3月号に掲載されてデビューを飾る。そして同年フレッシュジャンプ5月号から「臨機応変マン」で初連載。87年フレッシュジャンプ9月増刊号に「モンスターちゃんがやってきた」を掲載した後、同年フレッシュジャンプ10月号から「スーパーボーヤケンちゃん」の連載を開始。90年19号に「トラブル昆虫記」が掲載されて本誌デビュー。また同年には「とっても!ラッキーマン」をブイジャンプ(Vジャンプではなくその前身である)12月12日号に掲載すると、翌年6月26日号、11月27日号、更に92年増刊サマースペシャル、翌93年17号と掲載を経て35号から連載化される事となる。同作品はタイトル通り主人公のラッキーマンがラッキーですべてを解決すという、ジャンプの三本柱(努力、友情、勝利)へのアンチテーゼと言える作品で、TVアニメ化されるなど作者の代表作となっただけでなく今でも語られるほどのインパクトを残したのであった

 「とっても!ラッキーマン」の終了後は98年4・5号に「21世紀マン」を掲載、そして同年増刊赤丸ジャンプ6月14日号に本作品の前身でタイトルも同じ「ボクは探偵少年ダン‼」を掲載すると43号から連載が開始される事となる

 そんな本作品は小学生探偵である一刀両ダンが同級生で助手の非地小空と共にどんな事件も解決する探偵漫画である

 ところで、「ぼくは少年探偵ダン‼」というタイトル名は江戸川乱歩の小説に登場する少年探偵団を、作中に登場する怪盗21相面も怪盗二十面相をもじっている訳なのだが、それ以外には江戸川乱歩を連想させるようなものは皆無である。なにしろ主人公のダンがどうして鋭い推理力を持っているかというと、アクシデントで酢のビンが頭に刺さり、脳に酢が入ってしまった事から酢入り=推理脳になったという腰砕けもののダジャレからなのだから。また、ダンの頭はその時の傷がまだふさがっておらず、そこから新たに酢を注入する事によってより一層鋭い推理を働かせる…などと言うとあきれ果ててしまう人もいるかもしれないが、作者にとっては平常運転なので突っ込むだけ無駄である

 とまあ、そんな設定なので本作品は凄惨な殺人事件などは起きず、まともに推理する場面も皆無である。時々子供向けの推理クイズ、それこそタヌキの絵が添えてあるので暗号文からタの字を抜いて読もうレベルの問題や、高等な事をやっているようで実はたいした事をやっていない心理的駆け引きがあるくらいで、基本的には怪盗21相面や、そのボスであるノストラダムラーが率いる一党とのドタバタ劇がメインとなる

 それでも一応探偵漫画なので、見せ場はやはりダンが事件を鮮やかに解決する所であり、本作品の場合はダンのカバンに入っている探偵7つ道具が決め手となる。などと言うと結構まともに思われるかもしれないが、さにあらず。カバンに入っているのは7つだが家には100万の道具が置いてあり、毎朝ダンがハットを被る度にハッと閃いて事前にその日起こる事件の解決に必要であろう道具、それもなんでコレが必要なのかわからないようなものを7つチョイスして入れておくのだ。…いや、それは最早推理じゃなくて予知の類じゃないかと突っ込まれたらそうだとしか言いようがない。だから私は本作品を探偵漫画とは言っているが、推理漫画とか推理ものとは言っていないし、冒頭で触れた通り前回までの3作品とは同列に語るのは無理があるから番外編としたのである

 実際本作品を読んで彷彿させるのは「金田一少年の事件簿」や「名探偵コナン」ではなく、作者が同じだから半ば当然とも言えるが「とっても!ラッキーマン」である。というか、クライマックスはその解決法のバカバカしさといい「とっても!ラッキーマン」のセルフパロディとも言える。つまり、「とっても!ラッキーマン」においては主人公であるラッキーマンの幸運によって周りの状況が信じられない程ラッキーマンに都合良く作用するのに対し、本作品はダンの閃きによって都合良く作用する状況をあらかじめ自分で作り上げているという訳だ

 こういったバカバカしさは個人的に嫌いではない。が、「とっても!ラッキーマン」の明快さに比べるとまどろっこしいし、スケールにおいてもインパクトにおいても見劣りするのは否めない。また、探偵漫画として見た場合、ジャンプ読者の中でも低年齢層すらまだ上過ぎるくらいに子供向けの内容に感じられる。私は小学生低学年の頃に山根あおおにの「名たんていカゲマン」という探偵漫画を好んで読んでいたが、本作品も対象年齢はそのくらいで、もし「名たんていカゲマン」同様に小学館の小学○年生などの学年誌に掲載されていたなら人気を得ていたかもしれない

 だが、本作品が連載されたのはジャンプであり、ジャンプ読者からすれば子供向け過ぎて真面目に読む気にならなかったという者も少なからずいただろう。…まあ、そもそも真面目に読むような作品でもないし。そして結局は20話(連載初回は2話掲載)にして終了となってしまったのであった

 なお余談であるが、作者のガモウひろしは後にペンネームを変えて大物原作者となったという有名な噂がある。それについて私は肯定も否定もするつもりは無いのだが、噂を裏付ける根拠の1つとしてWikipediaなどでは件の原作者の代表作(デ…)とジャンルが被る本作品を描いていた事を挙げているのは、本作品がこんな内容なので逆効果だと思う