黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

金田一少年にもコナンにもなれなかった者たち その3

 前々回、前回に引き続き今回もマガジンやサンデーの後追いで連載を開始したものの、短期終了してしまった推理漫画を紹介していきたい

 その第3弾はこちらの作品だ

 

 少年探偵Q(98年11号~26号)

 しんがぎん・円陣

 

 作画担当のしんがぎんの経歴についてはこちらを参考にされたし

 

shadowofjump.hatenablog.com

 「鬼が来たりて」の連載終了後は96年30号に「疾風伝ハヤテ」を掲載。そして98年11号から原作者を迎えて本作品の連載を開始したのであった

 一方原作担当の円陣であるが…前回紹介した「心理捜査官草薙葵」のストーリー担当の岐澄森同様全く情報が無かった。単行本カバー折り返しの作者あいさつで本人がインターネットで少年ジャンプのファンのサイトを見ていたところ、「あの円陣というペンネームはなんじゃ。ダサダサじゃん」と書いてあって落ち込んだなどと書いてあったが、今となってはそのサイトすらネットの海の底に沈んで見つからないという有様である

 そんな本作品は、推理ドラマで探偵役を務める子役の英久太が、現実で起きた事件でもドラマ同様に鋭い推理を展開して解決する推理漫画である。因みにタイトルがよく似ているマガジンの「探偵学園Q」とは当たり前であるが全く関係が無いし、向こうの方が後発なのでパクりとか言わないように

 久太が主役を務める少年探偵Q(本作品の事ではなく作品内のTVドラマの事である)は視聴率20%を超える人気番組となっており、番組の中では颯爽とした姿で全国の小学生の憧れの的となっている久太は撮影時以外はぼんやりした子供だが、事件が起きるとドラマの役柄が乗り移ったかのように凛々しい姿を見せる

 なんて設定からも、本作品はこれまで紹介した2作品と比べてもライバル誌の両作品、特に「名探偵コナン」の方をより意識した作品となっているのがわかる。そして、紹介した2作品でも述べた事だが、本作品も推理部分の質がよろしくない…というか、それらと比べても更に悪い出来となっている

 推理もののネタバレはタブーなので詳しいネタバレは避けるが、例を挙げると読者に謎を解かせるタイプなのにも関わらず解決編になってから後付けの証拠が出て来るなど、推理もののセオリーと言われるものを悪い意味で悉く破っており、原作者はおそらくノックスの十戒なんて内容どころかそんな言葉すら知らないのではなかろうかと思えるくらいにミステリの素養が無いのが見て取れる(まあ、ノックスの十戒も今となっては意味不明な項目もあるが)。主人公が子供であるから読者層も低年齢層を意識してあまり小難しい事避けたのかもしれないが、それにしても子供だましと言うか子供だましにすらなっていない

 また、2巻の巻末にはおまけとしてラストエピソードの原作原稿が掲載しているのだが、これが漫画と比べても一層酷い。このまま読者に読ませる事を想定していないので読んでいて全く面白みが無いのはいいとしても、手掛かりの出し方など推理ものに重要な事の指示がなく、作画担当に意図を伝えようという気が感じられない。まあ、そこは別途に指示があったのかもしれないから置いておくとしても、推理に関係の無いストーリーパートも変に受けを狙った寒い台詞が多く、漫画と比べてみると作画の段階でかなり修正されて多少はマシになっているのがわかる

 どうしてこのような原作者を選んだのか? 前回の「心理捜査官草薙葵」の紹介では、期待していなかったから原作者選びも適当だったのではないかと推測したが、今回は推測ではなくそうだったのだと断言出来る。というのも、あるインタビュー記事で当時編集長だったマシリトこと鳥嶋和彦が、編集部の意志ではなく社長室に呼ばれてマガジンやサンデーのように探偵漫画を始めるよう指示されたと語っており、鳥嶋自身はそんな簡単なものじゃないと内心あきれながらも受け入れざるを得なかったという

 始まった作品は人気が出ず、15回で打ち切りになった。以後鳥嶋は自分自身の信じる道を貫くようになる

 と、記事は続き、鳥嶋が全面的に正しかったようにまとめている。確かに指示は安易でそう簡単に人気が出る訳は無いという考えは妥当とはいえ、こんな原作では例え人気が出る素地があったとしても駄目だっただろう。自分が正しかった事を証明する為に万が一でもヒットさせないよう努力をしたのではないかというのは穿ち過ぎだとしても、やる気など出よう筈も無い事は容易に想像出来るし、実際本作品の制作過程では打ち合わせもあまり行われなかったという

 と、ここまで貶してばかりの本作品だが、褒めるところがないではない。それはしんがぎんによる作画である。「人形草子あやつり左近」の小畑健と比べると流石に緻密さに欠けるきらいはあるものの、その分親しみやすい絵になっており、特に女性キャラは久太の幼馴染にしてマネージャーでもある川渕シズカと、ドラマでの久太のパートナー役である巨乳アイドルの大深ヒロコのダブルヒロインを筆頭に可愛いキャラばかりだ。また、話の方も最終エピソードに原作に無いロリキャラを登場させたり、あまりに展開がツッコミどころだらけなので実はドラマの中での話だったという事にした方が良いとか考えたり(結局実行しなかったが)、ダメな原作なりになんとか見せ場を作ろうという努力の跡が垣間見えて涙ぐましい

 前述の通り本作品は15回で終了となり、鳥嶋は上層部からの横やりを蹴るのに良い前例が出来たと内心ほくそ笑んだ事だろう。だが、その為に犠牲の羊とされてしまったしんがぎんを思うとやるせない。その後本誌で連載どころか読切も掲載される事も無く02年に29歳の若さで急逝する事となるのだから余計にそう思うのである