黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

早すぎた変節

 以前「タイムウォーカー零」を紹介した時にも触れたが、元々冒険活劇だった「DRAGONBALL」がいつの間にかバトル漫画になったように、作品をジャンプのカラーに合うよう改変する事をジャンプナイズと言い、これによってジャンプを代表する人気作が幾つも生まれた反面、作品の魅力を失ってしまった作品もまた幾つも生まれてきた

 

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 そんな訳で今回紹介するのは「タイムウォーカー零」同様、ジャンプナイズが自らの首を絞めた結果になってしまったこちらの作品だ

 

 クライシスダイバー(90年26号~37号)

 戸舘新吾・二枚矢コウ

 

 作画担当の戸舘新吾は原哲夫猿渡哲也のアシスタントを経験しながら85年増刊スプリングスペシャルに「今夜はラディカルボーイ」が掲載されてデビューを飾る。更にオータムスペシャルに「ファイヤースタント」、翌86年ウインタースペシャルに「ファイヤースタントⅡ」の掲載を経て88年1・2号から田中誠一が原作を務める「コスモスストライカー」で連載デビューするも13話で終了。その後88年サマースペシャルに「メタルドッグ」を掲載、89年サマースペシャルには本作品のオリジナルである「クライシスダイバー」を掲載すると、それが翌90年26号から連載が開始されたのであった

 一方、二枚矢コウは89年にビッグコミックオリジナル石井さだよしが作画を務める「べらん名医」やビッグコミックオリジナル増刊でこちらも石井さだよしが作画を務める「ウドの達人」の原作を担当、ジャンプ関係では同年増刊スプリングスペシャルでともながひできが作画を務める「シュート剣道参る‼」、90年ウインタースペシャルでささきまさよしが作画を務める「竜ー81」の原作を担当しており、本作品が連載化されるのに際してストーリーアシストとして参加する事になる

あくまでアシストという立場な為か背表紙には二枚矢コウの名は無い

 主人公の亜樹将太郎は日本屈指の大財閥である亜樹コンツェルンの御曹司。環境に恵まれながらも両親が多忙な為孤独だった将太郎は、それを気にした両親が8歳の誕生日プレゼントとして用意した家族水入らずの旅行中に搭乗した飛行機が冬山に不時着して両親は死亡、本人も低体温症で命の危機にあったが同乗していた見知らぬ女性が抱き温めてくれたおかげでその女性の命と引き換える形で奇跡の生還を果たしていた

 命を救われた将太郎は、自分の命は自分と同じように助けを待つ人の為に使おうと決意して民間特別救命隊を結成、自らが隊員として出動し、例え救出率が0.1%しかない絶体絶命の窮地からでも多くの人命を救う事からクライシスダイバーと呼ばれる事となる

 とまあ、そんな設定なので本作品は基本的に災害が起きたところに将太郎が出動、アクシデントで危機的状況に晒されながらも人命救助を果たすという話である、いや、だった。というのも、途中で唐突に執事の昔馴染みという人物からの要請で、遥か昔に巨大な国を一瞬で滅ぼした伝説の古代兵器であるコンドルの翼のありかを示す黄金聖書と翡翠の音玉を守る為にペルーに飛び、宝を狙う盗賊団のスカーレットバッズと闘いを繰り広げる事になるからである

 こういった路線変更はまさにジャンプイズムの典型と言え、珍しい事ではない。が、注目すべきはそのタイミングだ。参考までに他の作品が路線変更したタイミングを挙げると、「DRAGONBALL」の場合は悟空が亀仙人の下で修業を始めたのが28話目、そして以前紹介した「タイムウォーカー零」の場合は零のライバル的存在である九条が登場するのが8話目である。ジャンプでは作品の掲載順や連載継続の可否は読者アンケートの結果で決定される訳だが、新連載作品は最初の4話までは様子見期間で、また、アンケート結果が誌面に反映されるまでには四週間のラグがある(あくまで私の推測だが)。それを鑑みると、「タイムウォーカー零」の路線変更タイミングである第8話というのはどれだけ早いのかが窺がえる

 翻って本作品はどうかというと、将太郎がペルーに飛んだのが第6話と「タイムウォーカー零」より更に早い。これは本来様子見期間である4話も待たずに第2話が終了した時点で路線変更に踏み切った計算だ

 本作品はそんなにアンケートの結果が良くなかったのだろうか? 事実として第6話の時点で掲載順が19作品中の16番目まで落ちているのだから良くはなかっただろう。だが、それだけが理由ではないと思われる

 では何が理由かというと、ネタ切れである。そんなに早くネタが切れるものかと思われるかもしれないが、そもそも本作品を描いた経緯は単行本1巻折り返しの作者あいさつによると、編集から消防士のサクセス・ストーリーを作ってみないかと話を振られたからであり、作者自身が描きたかった訳でもなく、詳しい訳でもない。そのせいか連載第1話どころか前身の読切版の時点ですら純粋な災害救助だけでは話がもたず、クライマックスでは船をジャックした犯人と対峙しているし、連載するにあたって原作協力を入れたにも関わらず第1話はビルジャックした犯人と対峙、第3話から第5話は飛行機が制御不能になって錯乱した搭乗客と対峙、と既に展開に行き詰ってにっちもさっちもいかなくなっていたのだ

 だが、逃げるようにバトル漫画に挑んだところで他のバトル漫画と勝負できるほどジャンプは甘くないし、そもそもまだ主人公がどういうキャラなのかも把握してない段階での早すぎる路線変更に読者はついていけない。結局本作品は12話にして連載終了の危機からの生還に失敗したのであった

 ここからは余談になるが、本作品の終了後、戸舘新吾はジャンプどころか他誌にも作品を掲載したという情報が見つからず、その足取りはプツリと途絶えてしまった。一方で、二枚矢コウもしばらくはその名を見かける事は無かったのだが、二十年以上が経った2012年に突如「見習い⁉神社ガールななみ 姫隠町でつかまって」でポプラ社主催の第2回ポプラズッコケ文学新人賞佳作受賞者としてその名が記される事となる

 あまりにも時代が離れているのでもしかしたら別人の可能性もあるが、こんな名前がそうそう被る事もないのでまあ本人だろう。生年月日は調べても判明しなかったがこの時点でどう若く見積もっても40は越えているだろうに新人賞である。私もそうだが、年を食うとどうしても新しい事をやるのに億劫にも臆病にもなるのに、そのバイタリティは是非見習いところだ