黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

文字通り伝説となった物語

 前回「大相撲刑事」を紹介した時に話の枕として大相撲の話題を出して呑気に優勝争いについて語っていたが、その後、日が進むごとに次々と休場者が出てえらい事になるとは思いもよらなかった。まったくコロナとは怖ろしいものである

 さておき、今回はその際に名前を出したあの作品を紹介したい

 

 力人伝説 鬼を継ぐ者(92年52号~93年23号)

 小畑健・宮崎まさる

 

作者自画像?


 作画担当の小畑健の「魔神冒険譚ランプランプ」までの経歴はこちらを参考にされたし

 

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 その後92年32号に山際淳司原作の読切「天に昇った金メダル カール・ルイス物語」を掲載、そして同年52号から本作品の連載を開始したのであった

 一方原作担当の宮崎まさるの経歴についてはこちらを参考に

 

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 因みに前回紹介したガチョン太朗の「大相撲刑事」の連載が終了したのは92年40号で、その僅か三ヵ月後に本作品の連載が開始されている訳だが、ジャンプの歴史を見てもかなり数が少ない相撲漫画(「大相撲刑事」を相撲漫画に入れていいのか微妙だが…)の連載が短期間でたて続けに開始されたのには理由がある

本作品は「大相撲刑事」の弟弟子であると言ってもいい…訳ないか

 …などと勿体つけなくとも大概の人はわかっているだろうが、当時大相撲は若花田(後の若乃花貴花田(後の貴乃花)兄弟の人気による空前の大ブームにあり、貴花田は本作品の連載が開始されたのとほぼ時を同じくして行われた11月場所で10勝5敗の好成績を挙げて次の場所では大関獲りに挑戦と、より一層人気が過熱していたからである

 今になって考えると小畑健がまだ実績もないにも関わらず「魔神冒険譚ランプランプ」の連載終了から約半年という短いスパンで再び(厳密には三たびだが)連載を持つ事が出来たのも、相撲ブームが冷めないうちに連載を急いだという面もあったのだろう

 さておき、本作品はそんな相撲ブームの中心的存在であった若貴兄弟が各界入りしてからの道のりを描いた相撲ドキュメント漫画である

 若花田こと花田勝貴花田こと花田光司の兄弟は、父は角界のプリンスと呼ばれ人気も抜群であった大関貴ノ花、伯父は土俵の鬼と呼ばれ栃錦と共に栃若時代を築いた名横綱の(初代)若乃花という相撲一家に生まれたサラブレッドである。2人は父が横綱に昇進できぬまま引退したのを見て、自分達が父の果たせなかった横綱昇進の夢を実現させると決意して子供の頃からけいこに励んでわんぱく相撲で結果を出し、光司が15歳、勝が17歳の時に2人揃って父が親方を務める藤島部屋に入門する

 親子の情を捨てて厳しく指導に当たる父と、陰ながら2人を見守る母の下で力士として着実に成長していく2人。まさに古き良き家族愛の形がこの作品にはある。…のだが、その後両親は離婚、兄弟も絶縁状態になっている事を知っている現在からすると苦笑いしか出てこないのは残念である

 それにしても、ストイックでひたむきに強さを求める弟と、ややおちゃらけながらも弟を気遣いムードメーカー役を務める兄という2人のキャラはベタな主人公と相棒のような設定である。まあ、内実はどうあれ当時は実際に2人はそういう人物だと思われていたのだから設定もクソもないのだが。加えて同期のライバルである大海(後の曙)はハワイ育ちの巨漢で師匠は2人の父のライバルだった元高見山こと東関親方というこれまた事実ではあるがベタベタだ

 更に昇進スピードもご都合主義すぎると思える程で、弟の光司は88年3月場所で初土俵を踏んでから破竹の勢いで白星を重ね、90年5月場所で早くも入幕、91年5月場所では史上最年少で初金星を挙げ、92年1月場所で初の幕内優勝を飾る。そして同年9月場所で2度目の優勝、翌場所でも前述の通り好成績を挙げて臨んだ大関獲りの場所である93年1月場所でも11勝を挙げてアッサリと大関昇進を決めてしまった。兄の勝も弟ほどではないにしろ90年9月場所で初入幕、そして光司が大関昇進を決めた翌場所の93年3月場所で初優勝を飾り、おまけにライバルである曙に至っては、光司が大関に昇進したのと時を同じくして横綱に昇進を果たすというスピード出世ぶりである

 もし本作品が事実ベースではなく完全なフィクションだったとしたら、あまりに安易な設定にボツを喰らっていた事だろう。更にこの後兄弟も揃って横綱昇進を果たし、毎場所のように3人のうちの誰かが優勝するなんて話にする予定だなどと作者が提示した日にゃ、漫画を舐めるなと担当からキツいお叱りを受けたに違いない

※画像はイメージです

 本作品はブーム便乗に加え、実在の人物を扱っていて権利問題もあるので短期終了は既定路線だったのだろう。しかし、だからこそ人気を当て込んでいた事が連載開始時からしばらく掲載順が良かったところからも窺える。にもかかわらず後半になるにつれ掲載順がどんどん下がっていったのは、2人の活躍があまりに現実離れし過ぎて大した障害も無かった為物語として盛り上がらなかったというのもあると思われる。まったく、現代でも野球の大谷翔平とか将棋の藤井聡太とか一部の天才の物語はフィクションよりもウソ臭くなって困るものだ