黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

データで見る黄金期ジャンプ 原作・原案付き作品編

 当ブログでは前回紹介した「暗闇をぶっとばせ‼」など原作・原案付き作品をいくつか紹介してきた。そこで今回は原作・原案付き作品をテーマに少し掘り下げてみたいと思う

 改めて説明するまでも無いが原作・原案付き作品とは、漫画の作業を設定やストーリーを考える原作担当(原案の場合は負担が軽く、設定のみでストーリー作りには関わらない事が多い)と、それを基に絵を描いて漫画として仕上げる作画担当に分けて作られ、著者として原作・原案者と作画者が併記されている作品である。なので、「キン肉マン」などでお馴染みのゆでたまごのように原作担当と作画担当に分かれているものの、1つのペンネームで活動しているケースは除外している事をあらかじめ断っておく

 ジャンプを、いや、漫画誌を購読した経験がある人なら感覚的にわかると思うが、原作・原案付き作品は漫画全体からすると割合は少なく、ジャンプの黄金期においては全連載作品が168あるのに対して原作・原案付き作品は20で、割合は約12%しかない

f:id:shadowofjump:20220325090223j:plain

95年3・4号だと連載作品が20のうち原作・原案付き作品は3つである


 因みに当ブログで紹介した黄金期ジャンプの短期終了作品は47、そのうち原作・原案付き作品は6で、割合が約13%と偶然か否かほぼ同じ数値になっている

f:id:shadowofjump:20220325190124j:plain

当ブログで紹介した原作・原案付き作品たち

 まあ、漫画家サイドとしては別に1人でも漫画は描ける、というか1人で描きたいだろうし、編集サイドとしても原稿料とか打ち合わせとか諸々でコストも手間も増える訳だから原作・原案付き作品が少ないのは当然と言えよう

 だが、逆に少ないながらも存在し続けるのはそれだけの理由があるからで、例えば黄金期ジャンプを代表する原作・原案付き作品の1つである「北斗の拳」が、読切の段階では原哲夫1人で描いていたのに連載の時点になって武論尊が原作者についた事情は、当時編集長であった西村繁男が後に書いた著者「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』」によると、担当の堀江信彦から原は絵に時間をかけるタイプなので、どうしても話作りが弱い、連載となると原作なしでは無理だと言われ、それを受けて西村が原作担当として武論尊に白羽を立てたという。他には「ドラゴンクエストⅣ」のプロモーションの一環として企画された「ダイの大冒険」のような例もあるが、基本的には絵は得意だが物語作りはあまり得意ではない漫画家をカバーする為に編集サイドで原作者を引き合わせるケースが多いと思われる

 

 では、その物語作りの弱い(失礼)漫画家こと、原作・原案付き作品の作画担当の多さランキングを見てみよう

 

 1位 原哲夫        4作品

 2位 小畑健        3作品

 3位 鬼窪浩久 戸舘新吾  2作品

 

 1位2位に関しては原作・原案付き作品と言えばまず名前が挙がる2人だから納得であろう。ただ、1位の原哲夫は黄金期以外を含めても4作品のままなのに対し、2位の小畑健は黄金期以外も含めると倍以上に膨れ上がって逆転するという事を補足しておく

 そして、同数3位には鬼窪浩久、戸舘新吾という割とマイナーな漫画家がランクインした。実はこの両名には共通点があって、どちらも原哲夫のアシスタント経験者であるという事だ。他に前回紹介した「暗闇をぶっとばせ‼」の今泉伸二も同様の経験があり、本人とその門下で20作品中9作品と一大勢力を築いている。原哲夫自身が原作・原案付き作品を多く手掛けた事もあってか、同氏の下は作画の勉強には良くとも話作りの勉強にはならないという事だろうか(失礼²)

 

 次に原作・原案担当の多い作家ランキングを

 

 1位 宮崎まさる      4作品

 2位 隆慶一郎       2作品

 

 因みに1位となった宮崎まさるは前回紹介した「暗闇をぶっとばせ‼」での宮崎博文名義など別名義も含めてのものである。こちらは複数担当者が僅か2人、しかも2位となった隆慶一郎原作は「花の慶次」と「影武者徳川家康」の原作者だが、「花の慶次」の元となる小説「一夢庵風流記」を書き、連載前の読切版は手がけたものの、連載開始時には故人となっていて後の「影武者徳川家康」には勿論ノータッチであり、実質的には複数の作品を担当した人物は1人だけとかなり寂しい結果となった

 尚、ジャンプ漫画の原作者と言えば、黄金期の読者ならまず上でも名前を挙げた武論尊を思い浮かべる人が多いだろう。実際同氏がジャンプで原作を手がけた作品は5つあるのだが、ジャンプでの活動時期は主に黄金期以前であり、黄金期に限定すると「北斗の拳」しか手掛けていないのでランク外という結果となった。いつかジャンプ全体でのデータもとってみたいとも思うが、…正直面倒くさいとも思ってしまう

 

 ところで、絵は得意だが物語を作る力に難がある作家と物語を作る力がある作家を組ませて、画力が高く物語を作る力もあるユニットが出来たのだから、普通に考えると原作・原案付き作品は漫画家単独で描いた作品よりもクオリティが高く、長期連載になるケースが多い筈である

 では実際どうなのか見て行こう

 まずは黄金期ジャンプに連載歴がある全作品の単行本巻数の割合をグラフにしたものを

  

f:id:shadowofjump:20220323102934p:plain

 尚、今まで当ブログで使用してきた作品データはジャンプの黄金期中に連載が開始された作品をカウントしたものであった。だが、それだと「北斗の拳」、「キン肉マン」といった黄金期の初期を代表する作品がデータから漏れてしまうので、今回からは黄金期中に連載歴のある作品を使用した事を断っておく

 

 続いて原作・原案付き作品に限定したデータ

 

f:id:shadowofjump:20220323102959p:plain

 両者の比較グラフがコレ

f:id:shadowofjump:20220323103046p:plain

 見ての通り、実際は短期終了作品の割合はジャンプ全作品の割合よりむしろ高くなっているのである。このあたり原作・原案担当サイドと作画担当サイドとの連携が上手くいかないなど原作・原案付き作品特有の問題があるのか、いずれにしても理屈通りにいかないものである