黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

鬼滅?いえ鬼来です

 劇場版「鬼滅の刃」が映画の歴代興行収入で日本一になったという。それを記念して今回はこの作品を紹介したい

 

 鬼が来たりて(96年5・6号~18号)

 しんがぎん

f:id:shadowofjump:20201228185309j:plain

f:id:shadowofjump:20201228185837j:plain

作者自画像

 

 「鬼滅の刃」じゃないのかよ、と突っ込まれそうだが、なにせ黄金期の作品でもないし短期終了作品でもないのでここで紹介するのはそぐわない。そもそも私は映画も原作も未見で、ブームに便乗して今更にわか知識で語ったところで面白い事は無いだろうし。という訳で鬼繋がりで本作品をチョイスしてみた。因みにタイトルは横溝正史推理小説悪魔が来りて笛を吹く」から取ったとの事だが、本作品には別に推理要素も横溝を彷彿させるような所も無い

 

 作者であるしんがぎんは94年に本作品とタイトルが同じ「鬼が来たりて」でホップ☆ステップ賞を受賞し、ジャンプ増刊オータムスペシャルに掲載されてデビュー。同年ウインタースペシャルに読切「鬼が来たりて 百鬼の章」を掲載した後、和月伸宏のアシスタント(所謂和月組)を務めながら95年に「かおす寒鰤屋」の記事でも触れた第2回黄金の女神像争奪ジャンプ新人海賊杯に「鬼が来たりて 人鬼の章」でエントリーして見事1位に輝き連載権をゲット、96年5・6号に本作品で連載デビューを果たしたのであった。因みに3位の「かおす寒鰤屋」の方が何故かデビューが早く、95年51号から連載を開始している。連載の準備に時間が掛かったのだろうか

 

 そんな作者による本作品は、凶々しき姿と強大な力により”鬼”の名をもって畏れられた一族である鬼部一族の一人である主人公の鬼部雷矢が、江戸時代初期を舞台に各地を巡りながら行く先々で鬼に魅入られて人の道を踏み外した者どもを退治していくという話である

 こういった諸国漫遊的な導入の作品は実は結構多い。各地を巡っているのは主人公に目的がある事を示唆するし、問題を解決するシーンは主人公の能力を示すと共に漫画的な見せ場となるからである。有名どころでは「北斗の拳」もこのタイプで、ケンシロウは恋人のユリアを捜して各地を巡り、北斗神拳で敵と戦うシーンは黄金期ジャンプを代表する見せ場の1つだ

 それと同様に本作品も雷矢が各地を巡っているうちに、何故鬼に魅入られた者どもを退治して回っているか明らかになるし、敵とのバトルでは雷矢の持つ鬼の力が描かれる…のだが、早々に連載終了が決まってしまい、同じ鬼部一族の者達や鬼部の力を牽制してきた神薙一族が登場してこれから本格的に物語が動こうとした矢先の13話でラストという短期終了作品にありがちな最終回を迎えてしまう

 

f:id:shadowofjump:20210104184934p:plain

 

 そんな本作品であるが、私の薦める見どころは実はジャンプに掲載された部分には無い

 それは何かというと、作者による本作品の解説である

 短期終了作品の場合、単行本が出る頃には作者が連載を持っていない場合が多く、時間に余裕がある為か話と話の間の余白に解説や描き下ろしイラストが載せられるケースが多い。本作品も例に漏れず作者本人による解説が載っているのだが、その熱量の凄さたるや尋常ではない

 説明するよりも実際に見て貰った方が早いのでこちらをどうぞ

f:id:shadowofjump:20210105183850j:plain

 

 如何であろう。上から下まで細かい字でビッチリ描いている上に描き下ろしイラストまで添えているという気合の入れっぷりである。しかも1巻ではこれが1話のみではなく各エピソード毎に同じ分量の解説が書かれているのだ。2巻になるとエピソード毎ではなくキャラクターや作品全体に関する解説に代っているのだが、どちらにしても作者の本作品に、そして漫画に対する熱意がヒシヒシと伝わってくる

 中でも印象的なのは「自分で最低限『これだけは』と思うラインを、絵的にもネーム的にも越える事ができず、描いていてすごく辛かったです」という言葉だ。漫画に限った話ではないが、頭の中で描いた完成形と実際に出来上がったものの落差に愕然とした経験がある人は多いであろう。私なんかもそのクチだが、そういった場合「時間が無かったから仕方がない」などと自分に言い訳をして後に引かないようにしている人が殆どだと思うのだが、それを良しとしなかったのだろう。そこからは強い責任感と誠実さが感じられ、そんな性格からか作者はかの尾田栄一郎など和月組の仲間から慕われていたという

 

 だが、そんな性格が心身を疲弊させてしまったのか、02年5月26日、作者は急逝してしまう。享年僅か29歳の事であった