黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ダイの大冒険放送記念?


 本日10月3日はジャンプ黄金期を代表する作品の1つであるダイの大冒険の再アニメ化版第1話の放送日である。まあ、私の住んでいる地域はテレ東が映らないので後日ネットで見る事になるのだが…

 

 それを記念して今回はダイの大冒険に因んだ?作品を紹介したい。そのタイトルとは

 

 ファイアスノーの風(93年13号~93年24号)

 松根英明

 

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 ちょっと待て、これのどこがダイの大冒険に因んでいるんだ、と突っ込みたい気持ちは分かるがちょっと私の言い分も聞いて欲しい

 だってダイの大冒険をわざわざこんな所で紹介しなくても当時の読者は皆知っているだろうし、知らない人もアニメ見れば済む話だ。同じ三条陸稲田浩司コンビによる冒険王ビィトを紹介するという手もあったが、連載誌も連載時期も違うし短期終了作品でもないし

 そんな訳で他になんとかダイの大冒険に引っ掛けて紹介できる作品がないかと無理矢理捻りだしたのが、剣と魔法のファンタジー物語繋がりという事で本作品ファイアスノーの風である

 

 ところで、当ブログでこれまで紹介した短期終了作品は成合(井上)雄彦のカメレオンジェイルと宮下あきらのBAKUDANの2つ。作品はともかく作者については知らない人はいないと思うが、今回は作品はおろか作者に関しても「誰?」と思う人も多い事だろう

 それも無理の無い話で、作者がジャンプで連載した作品は僅か十一週で終了した本作品のみ、あとは杉根英朋名義で読切作品があるだけである。と言うか、正直私もあんまり作者についてはわからない

 なのでネットの力を借りて作者について調べてみたのだが、これが全くと言っていいほど情報が出てこない。Wikipediaですらファイアスノーの風についての項目はあるものの松根英明の項目は無く、旧名の杉根英「朋」で検索しようものなら杉根英「明」と間違えて表記されているケースも少なくないという有様だ。前々から思っていたけど、ネットって80年代から90年代のマイナーサブカルの情報に弱いよね。短期で終了したとはいえジャンプ黄金期の漫画家の1人なのに

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yahooでは杉根英「明」しか候補に出ず、amazonHMVもこの通りである

 

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作者自画像。作品中のキャラより気合を入れているように見えるのは気のせいか

 因みに作者は杉根英朋名義でもジャンプコミックスで疾風のジークという短編集をだしており、ついでにこちらも紹介しようと思って注文したのだが、アニメの放送日までに届きませんでした…

 

 嘆くのはこのくらいにして作品の紹介を

 ファイアスノーの風は、赤い野獣の異名を持つ剣士のゼノが、偶然助けた男から1本の剣を処分するよう託されたが為に、剣を手に入れようとする連中から命を狙われつつも約束を果たそうと冒険する剣と魔法のファンタジー物語である

 さて、ファンタジー物語は基本的に中世ヨーロッパをベースをしている為日本では元々馴染みが薄かったものがドラゴンクエストによって一気に定着したという事も有ってか作品としては圧倒的にゲームが多く、他のジャンルでもゲームを下敷きにしたような作品が多いのが特徴だ。ダイの大冒険なんかはそのまんまドラクエを基にしているし、昨今一部で人気の異世界転生ものなんかも作中で描かれる異世界はゲームのそれだ

 

 しかし、本作品は冒険の目的からし指輪物語を彷彿させる事からもうかがえるが、作者はそういったゲーム的な世界ではなくクラシックなファンタジー世界を描こうという意図が見える。馬の調達をする時もわざわざ馬屋と鞍屋を別にしたりするなど雰囲気を大事にしており、舞台世界の全体的な雰囲気は暗く、重い。時にギャグなのか牛丼や湯飲み茶碗を出したりするのは御愛嬌だが

 そういう意図が顕著に表れているのが戦闘シーンだ

 ダイの大冒険でもそうだが普通のファンタジー物語の戦闘は非常に派手で、魔法や剣技にはアバンストラッシュとかメドローアとかいかにもな名前が付けられ、主人公側も敵側も技名や決め台詞を叫びながら攻撃を繰り出すのが常である

 しかし本作品は違う

 主人公のゼノを含む登場キャラには名前のついた技を持つものは1人しかおらず、魔法も巨大な火の玉を飛ばしたり吹雪を発生させたりといった派手なものではなく、相手に幻覚を見せて気を失わせるという地味なものだ

 その代わりという訳では無いが、ダメージの表現はしっかりと描かれている

 血は派手に流れるし、斬撃をまともに受けたら肉体は切断される。中にはゼノが雑魚の首を切断した挙句、剣で串刺しにして掲げるといった残酷なシーンもあるが、それをさあ見せ場ですよと大きなコマで描かず、こんな事はこの世界では日常茶飯事だとばかりに小さなコマで済ますあたりはゲーム的な軽いファンタジーではなく、退廃的な世界を描こうという作者のこだわりなのだろう

 

 だが、そのこだわりが良い方に作用したかというと、残念ながらノーと言わざるを得ない

 日本ではファンタジードラクエ以前に定着しなかったのは、要するにそういったクラシックなファンタジーが喜ばれなかったという事で、それ敢えてやろうという作者の志の高さは買えるが、同時に成功までのハードルまで高くしてしまった感がある

 ましてや当時のジャンプはまさにゲーム的なファンタジーの代表で、ドラゴンクエストという大看板を冠したダイの大冒険が連載中であり、そこに新しく入ってきた本作品はたいそう地味に映った事だろう。加えて作者の描く絵は垢抜けず、物語の世界とはマッチするが見栄えが良いものでは無い。僅か十一週で終了してしまったという結果は必然とは言わぬまでも順当だと言える

 

 本作品の掲載順推移はこちら

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 今回は参考までにダイの大冒険と比較してみた。連載開始直後でまだアンケート結果が反映されていない時期はダイの大冒険より掲載順が上にいたが、その時期が過ぎて掲載順が逆転されて以降一度も上に行くことはなかったという厳しい現実が見てとれる

 

 ダイの大冒険が再アニメ化で話題になっている今だからこそ、同時期にこのような作品があった事も心の隅にでも留めて欲しい。そんな気持ちで今回はファイアスノーの風を採り上げてみた次第である