当ブログで最初に紹介する記念すべき短期終了作品はこちら
カメレオンジェイル(89年33号~89年44号)
悲しい事ではあるが短期終了作品は総じて知名度が低く、当時読んでいた人々でさえ忘れてしまっているという作品も少なくないが、本作品はそんな中では比較的知名度が高い作品だと思う
というのも本作品の作者は後にジャンプ、いや、日本を代表する漫画家の1人になったからであり、知らなかったとしても上のカバー絵を見ればピンと来る人も多いだろう
そう、作者はDRAGONBALLと共にジャンプ黄金期の二枚看板と言われたSLAM DUNKを描く事になる井上雄彦である
と思った人は半分だけ正解
よく見て欲しい
成合雄彦
この時期の彼は井上雄彦ではなく成合雄彦というペンネームを使用していたのだ。というか、これが本名らしいのだが
では早速カメレオンジェイルの紹介に入る前に井上、いや成合雄彦が本作品の連載を開始するまでの軌跡を振り返ってみよう
成合雄彦は88年に楓パープルが第35回手塚賞入選作品となり同年32号に掲載、これが彼のジャンプ初登場にして漫画家デビュー作であった
この手塚賞は選考が非常に厳しく、それまでの34回で入選作品は僅か6つしかない。その事からも期待の高さが窺がえよう
その後同年42号に読切作品である華SHONENが掲載される。因みに両作品ともに主人公の名前は流川楓で、あのSLAM DUNKの流川楓と見た目がそっくりだ。特に楓パープルの方なんか性格もまんまのバスケット部員で脇役として赤木や小暮と言ったキャラまで出てきたりする(見た目は違うが)
そして翌89年33号から初連載作品として開始されたのがこのカメレオンジェイルである
さて、このカメレオンジェイルとはどんな作品なのか?
第1話冒頭から一部を引用して説明すると、警察では処置できない誘拐・テロリズム・殺人の防止などありとあらゆる危険に対処する犯罪阻止のプロフェッショナルである危険請負人の中でも史上最強といわれ、カメレオンの如くいくつもの顔を持つ男である通称カメレオン・ジェイルが依頼を請けて様々なトラブルを解決する物語である
この説明でいまいちピンと来ない人は、まあCITY HUNTERみたいなものだと思って結構です。シャルという牧村香的な女性キャラまでいるし
なんて言ったら身も蓋もないので少し身も蓋もつけさせて貰うと、別にパクりだなどと言う気は無い。主人公が公に出来ないような依頼を請けて悪を倒すといった作品は珍しくない。他に有名な作品としては漫画ではないが必殺仕事人も同じ系統の作品と言えるだろう
そんな同じ系統の作品群の中でこの作品ならではの要素を上げるならば主に2つ、1つは主人公であるジェイルが他人になり代わる能力を持っている事だ
これはルパン三世のような変装ではなく、眉間にある「クラ」に全神経を集中させる事により生命エネルギーを爆発させ、肉体を自由に変化させて全くの別人になりきる事が出来るという
クラというのはチャクラの事であろうか。自分で言っててもよくわからない説明だ
そしてもう1つの本作品ならではの要素は、この手の作品の多くは標的が外道で最終的に主人公に殺されたり叩きのめされたりするのに対し、標的は根っからの悪人ではなく故あって道を踏み外した者で、ジェイルの能力は専ら改心させる為に使用される事だ
この要素が色濃く表れているのが第2話「真夜中の狂犬」で、このエピソードではジェイルは警官をぶっ飛ばし銃を奪って逃走したボクサー崩れを、その才能を惜しんだ兄貴分からの依頼で改心させる為に兄貴分に変身して相対する事となる。そしてジェイルの活躍で標的は改心し、エピローグではセコンドで兄貴分が見守る中タイトルマッチに臨むというハッピーエンドとなっている
実はこのカメレオンジェイル、読み返すのは十年以上ぶりだったのだが、やはり面白い。ジャンプに限らず少年漫画の中には当時は夢中で読んでいたけど何年も後になって改めて読み返してみると突っ込みどころが多すぎて楽しめない、あるいは突っ込みどころを笑うという別の楽しみ方になるという作品も少なくないのだが、本作品は元々ジャンプの読者の中では高めの年齢層にターゲットを設定しているのかそういう感じはしなかった
そんな今読んでも楽しめるカメレオンジェイルであるが、当時の読者はあまり楽しめなかったようで連載開始から僅か十二週にして最終回を迎えてしまう
因みに第1話から最終回までの本誌での掲載順は以下の通りである
何故連載が短期で終了してしまったのか?
素人考えではあるがまず考えられるのは、やはりCITY HUNTERに似ていたからだろう。同じ系統の作品は珍しくないとはいえ、同じ雑誌で被ってしまったらどうしても比べられてしまうのは避けられず、そうなれば当時既に人気を確立していた作品に新人の連載デビュー作が立ち向かうのはきびしいものがあるだろう
因みにこの類似性に関して、かつて成合雄彦がCITY HUNTERの作者である北条司のアシスタントを務めていた事に理由を求める向きもあるが私はそう思わない。この作品は渡辺和彦という原作者がついているし、作者の他の作品に本作品と作風の似たものが見当たらない事から設定やストーリーにはあまり関わっていないと考える方が妥当だと思うのだがどうだろう
また、展開が意外と地味だというのも理由かもしれない。自由自在に姿を変える事が出来るという能力はいかにも派手なイメージではあるが、フィクションの世界では割と見掛けられるポピュラーな能力だったりする。この能力を駆使して派手な立ち回りでもするのなら話は違うのだろうが、話の展開が相手を倒すのではなく改心させる方向を向いている為に解決がアッサリしているのだ。先に挙げた「真夜中の狂犬」にしてもボクサー相手にボクサーに変身して相対するといういかにもなシチュエーションにも関わらずたった一発のカウンターパンチで決着がついてしまう有様である。しかもこれでもまだ派手な方で、中には標的よりその前の雑魚と戦った時の方が派手だったというエピソードもすらある。こういう解決が地味で所謂いい話で締める作品は大人になってから読み返しても楽しめる反面、少年誌、特にジャンプでは人気を得辛かったりする
こうして僅か三カ月余りで連載が終了する事になったカメレオンジェイルであるが、その後の成合雄彦は語るまでもない一方で、原作者である渡辺和彦の方はその後の消息が掴めない。今試しにネットで検索してみてもヒットするのは音楽評論家とか声優とか同姓同名の別人と思われる人物だけである
同じ作品でデビューを果たした2人だが、片やその名前を知らぬものはいないという程の超有名人となり、片や消息すらもわからない。この残酷なまでの明暗もまたジャンプ黄金期の影といえるだろう