黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

ジャンプ版「逃亡者」

 「逃亡者」という古い海外TVドラマがある

 無実の罪で逮捕されて死刑判決を受けた主人公が護送中に脱走し、自分で真犯人を見つける為に逃亡生活を続けるという内容で、制作された米国はもとより遅れて放送された日本でも高視聴率を記録した

 それだけにとどまらず、この筋立ては余程魅力的なのか、その後も様々な媒体でリメイクやフォロワー作品が幾つも制作され、つい最近もかつてプレイコミックで連載されていた原作伊月慶悟、作画佐藤マコトによる「逃亡医F」が今年になってTVドラマ化されて三日前に最終回を迎えたところだったりする

 そして「逃亡者」フォロワー作品は黄金期ジャンプにも存在していたのである

 

 という訳で今回紹介する作品はこちらだ

 

 暗闇をぶっとばせ!(94年2号~16号)

 今泉伸二・宮崎博文

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 作画を務める今泉伸二の経歴については以前紹介した「チェンジUP‼」の記事を参考にされたし。同作品の終了後は93年増刊スプリングスペシャルに読切作品の「チョコレート☆ミラクル」を掲載、そして94年2号から初めての原作つき作品となる本作品の連載を開始したのであった

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 一方、原作を務める宮崎博文は、以前紹介した「METAL FINISH」の記事を書く為に調べた時に初めて知ったのだが、同作品の原作を務めた宮崎まさると同一人物だという事だ。同氏は現在では主に宮﨑克名義を使用している他、宮崎二郎だの観月昴だの高田信だの幾つものペンネームを持っており、Wikipediaによるとその数は表記違いを含めるとなんと10個もある。「北斗の拳」の原作者として有名な武論尊がジャンプ以外で仕事をする時は史村翔名義を使用するなどペンネームを使い分ける例は他にもあるが、いくら何でも多すぎるだろう

 

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 さておき、作品の説明に入ろう

 主人公である壬生隼人の父宅也は交通課の警察官であったが、ある日何者かによって殺害され、現場には父が書いたと思われる「左ウデ タランチュラ イレズミ」というメッセージが残されていた。それから一年後、身寄りがなく父の同僚の秋元に引き取られた隼人は、1人で父殺しの犯人を見つけようと暴走族を手当たり次第に狩っていた

 一方、秋元もまた事件の捜査を続けており、ついに犯人に繋がる重要な証拠を見つけて隼人に電話を掛けるが、直後に秋元も殺害され、隼人はその犯人として警察に逮捕されてしまう

 警察は端から犯人と決めつけて話を聞こうともしない中、隼人は父と秋元の仇を取る為、身の潔白を証明する為に隙を見て逃亡したのだが、そんな隼人を追跡するのは秋元の娘であり、隼人の幼馴染でもある恵であった

 

 さて、「チェンジUP‼」の紹介記事でも述べたが、今泉伸二の作風と言えば不幸である。その点において、父を殺され養父も殺され殺人の汚名を着せられた挙句幼馴染に追われる隼人は作者の作品の中でも屈指だと言えよう。勿論父を殺され、しかも犯人は幼馴染の隼人だと告げられる恵も不幸だし、他も犯人サイド以外の人物は不幸者ばかりだ。このあたりの設定が原作側によるものなのか作画側によるものかはわからないが、今泉節は健在だと言えよう。また、画風が以前の少年誌的なタッチから劇画調になっているのもより不幸感を引き立てている

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画風は前作から劇画寄りに変化してきている兆しがあった

 ところで、本作品のような「逃亡者」プロットを使用した作品の見せ場は大別すると2つに分けられると思う。1つは主人公が追跡者の影におびえながら逃亡生活を続けるサスペンス要素。そして、もう1つは話が進んでくるにつれてだんだん隠されていた真相が明らかになっていくというミステリ要素である

 そのうちサスペンス要素については、本作品の追跡者役である恵は隼人と幼馴染という事もあってか非情になり切れない部分もあり力不足に感じられる。が、その分真犯人が暗躍して随所に罠を張り、隼人や隼人に関わる者をあの手この手で殺しにかかってくるので、充分なスリルを味わえる

 一方、ミステリ要素についてはハッキリ言って皆無である。というのも、犯人は秋元殺しの時点で顔も氏素性も明らかにされてしまっているからである。それだけでなく、直後には後ろ盾となる人物まで登場し、会話で隼人の父を殺害に至った事情までご丁寧に語ってくれるので、最早明らかにされるべき事が無くなってしまっているのだ。ミステリの中には「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」のように真相が最初に明かされ、探偵役が犯人とのやりとりを重ねて追い込んでいくさまが見せ場となる、倒叙ものと呼ばれるジャンルもあるが、生憎本作品はそうではなく、そもそも真犯人と隼人がやり取りをする場面もラスト以外に無かったりするので単に見せ場を潰しているだけである

 そんな自ら見せ場の1つを潰すような、言わば片肺飛行のような状態ではジャンプの連載継続を賭けたサバイバルレースに生き残れる訳もなく、本作品は13話で終了してしまう。そして今泉伸二は本作品がジャンプ最後の連載作品となってしまったのであった

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 皮肉な表現をすれば新たな挑戦として原作者を迎え、タッチも変えて逃亡者ものを描いた結果、連載終了の魔の手から逃げられず、ジャンプから逃亡しなければならなかった今泉伸二であるが、その後、青年誌に活動の場を移して原作・原案付きの作品を数多く手掛ける事になる。長い目で見れば本作品自体はともかく、その挑戦は決して間違っていなかったと言えるのかもしれない

桂正和の迷走

 以前紹介した「超機動員ヴァンダー」の記事でも述べたが、桂正和という漫画家はコンスタントにヒットを飛ばしている印象があるが、実は初連載作品であり初ヒット作でもある「ウイングマン」から「電影少女」で次のヒットを飛ばすまでに約四年もブランクがあった

 

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 その四年の間に連載した作品は2つで、1つは前述の「超機動員ヴァンダー」、そしてもう1つが今回紹介するこちらの作品である

 

 プレゼント・フロムLEMON(87年33号~51号)

 桂正和

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作者自画像

 

 作者は「超機動員ヴァンダー」の終了後、86年増刊サマースペシャルに読切「すず風のパンテノン」を、同年48号に「KANA」を掲載後、87年33号から本作品の連載を開始したのであった

 そんな本作品は、父の遺志を継いで歌手になった沢口麗紋が、様々な困難と葛藤を乗り越えて成長する様を描いた芸能漫画である

 苦節十五年の売れない演歌歌手だった父の桃次郎は、プロデューサーの大崎巌に見いだされてようやく掴んだ初の大舞台の直前に心臓発作で亡くなってしまった。それから十年後、麗紋は父の遺志を継いで演歌歌手になる為に大崎が審査委員長を務めるオーディションに参加し、亡き父が自分で作詞作曲した持ち歌の「男の道」を熱唱したが、久しぶりに再会した大崎の反応は冷淡であり、麗紋はデビュー前から干されてしまう

 途方に暮れる麗紋に手を差し伸べたのは、かつて大崎にプロデュースされるも潰されてしまった元アイドル歌手で、現在は芸能プロダクションの社長を務める秋野このえであった。が、彼女は麗紋を演歌歌手ではなくアイドル歌手として売り出そうとする

 今となってはそうでも無くなってしまったが、芸能界というのは華やかな世界である。その中にいる女性を描くのに、女性を描かせたら日本一と言われている上に自身もアイドルが好きという作者以上に適任者はいないであろう

 実際本作品に登場する女性キャラは前述の秋野このえや、幼馴染にして芸能界の先輩でもある広川舞美など見た目は非常に魅力的なキャラが多い。…のだが、残念ながら本作品の主役である沢口麗紋は表紙カバーを見ればわかるように男である。そして、物語の主軸は麗紋と、かつて麗紋の父桃次郎を見出した音楽プロデューサーの大崎巌という男2人で進んでしまい、女性キャラは物語を引き立てる脇役、言わば刺身のツマのような存在でしか無い。一応メインヒロイン格である舞美との絡みは大崎よりも多く、麗紋と恋物語も展開するのだが、そこに主眼が置かれていない為か取ってつけた感が強くて出番の多さ程に印象に残らなかった

 また、本作品を読んで感じたのは、根本的問題として芸能界のような一見煌びやかだが内側では嫉妬と欲望が渦巻く世界を舞台にした話の主人公は男より女性の方が向いているという事だ。考えてみれば芸能界を舞台にした作品は漫画やTVドラマは多いが、その主人公は殆ど女性である。中には男を主人公にした作品もあるが、大概は女性をターゲットにしたもので、現実でもそうだが男は同姓のアイドルなんか別に興味はない。歌を気に入る事はあるが見たいとは思わないのである

 そして当然ながら本作品は漫画であるので歌を聴く事は出来ず、麗紋のライブシーンとか見せられても魅力的ではなく珍妙にしか映らなかった。そう感じたのは私だけではないようで、ネット上には本作品を基にしたネタ画像を幾つか見つける事が出来た。それはある意味では面白いと言えるが、ネタにはなれど人気が出るタイプの面白さではないし、そもそもネタとして楽しめるのはジャンプのメイン読者層よりも年齢が高めの捻くれた連中だけである

 思うに本作品の主題と読者層の噛み合わせの悪さは、作者の若さ故の迷いが原因なのではないだろうか

 この時期の作者の描く作品は「ウイングマン」を始めとして殆どが変身ヒーローものであるように、ヒーローの葛藤と成長を格好良く描きたいという気持ちが見てとれるが、前作の「超機動員ヴァンダー」が短期終了してしまった事で続けてやる訳にはいかない。一方で、既に女性キャラの魅力には定評があったが、だからとてそれを全面に押し出した作品を描こうと思うほど割り切れない

 なんとかヒーローものとは別の形で葛藤と成長を格好良く描きつつ魅力的な女性を無理なく描く事が出来ないかと頭を捻った結果、悪者との戦闘シーンの代わりにライブシーンで格好良い所を見せつつ、無理なく自然に魅力的な女性キャラも出す事が出来る芸能界という舞台に辿り着いたが、それは描き手にとって妥協点ではあったものの、読者の望んでいるものではなかったと

 以上は私の想像に過ぎず、実際作者がどういう経緯で本作品を描こうと思ったのかはわからない。わかるのは、本作品は作者のジャンプにおける連載作品の中でも最短の19話、しかもそのうちの5話が巻末掲載という有様で終了してしまったという事だけである

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 そして「超機動員ヴァンダー」と本作品と続けて短期終了してしまった作者が再びジャンプで連載を持つまでには、約二年もの月日を待たねばならなかったのであった

すもももロボも

 前回の当ブログの記事で、こせきこうじの事が語られるのは皆無であると述べたが、考えてみれば黄金期ジャンプで活躍した他の漫画家も同様の者が多い。なにせ黄金期が終焉してから既に二十五年以上が経っており、現在ではその頃の作品を読んだ事が無いという人も多く、読んだ人も記憶が風化しつつあるのだから当然と言えば当然である。悲しい事だが時は常に流れ続けているのだ

 一方、現在でも圧倒的な存在感を放つ者もいる。その筆頭と言えば、やはり鳥山明だろう。代表作である「DRAGONBALL」は十年以上にわたってジャンプの、いや、漫画の中心であり続けて読者の頭に深く刻まれているし、未だグッズが出続けTVアニメも放送中であるなど現在でも何かにつけて目にする事も多いのだから忘れようもない

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ファミコンジャンプミニのパッケージでも扱いが段違いである

 そんな鳥山明について当ブログで改めて語る必要はないだろう。ただ、1つだけ言わせて貰うならば、その功績は「DRAGONBALL」だけではなく、その前に連載されていた「Dr.スランプ」もまた大ヒットを記録し、世の中に大きな影響を与えた事も忘れてはならないと

 中でもTVアニメ版の影響は大きく、「DRAGONBALL」のようにバトルものではないのでファミリー層に広く受け入れられた為、むしろ少年層以外にはこちらの方が有名だと言ってもいいのではないのだろうか。中年世代には未だにレンズが大きく黒いセルフレームの眼鏡をアラレちゃん眼鏡と称する人もいる筈である

 そして、大ヒットを記録した作品はいつの世もフォロワー作品が作られるもので、「DRAGONBALL」が多くのバトル漫画を生んだように、「Dr.スランプ」もまたこちらの作品を生んだのであった

 

 すもも(85年23号~32号)

 天沼俊

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画像は電子書籍版です

 作者は津島匠名義で81年52号に「センセーションⅡ」が掲載されデビュー及び本誌初登場を果たす。翌82年に1月増刊に「ちはるチハル」、4月増刊に「ギャング&スター」、21号に「オレンジハウスA面」、24号に「オレンジハウスB面」、83年フレッシュジャンプ2月号に「ハローシンデレラ」とコンスタントに読切を掲載した後、二年半近くのブランクが空き、85年23号に天沼俊と名義を変えると共に本作品で連載デビューを果たしたのであった

 そんな本作品は、十六歳の少女雪野すももと、すももの家に届けられたお手伝いマシーンICX-777はたらき小僧との暮らしを描いた近未来ロボットコメディである

 時は今となっては近未来ではなく過去となってしまっている2001年の鎌倉CITY。幼くして父を亡くし、母も多忙でほとんど帰ってこず、ほぼ一人暮らし状態のすももの家にはたらき小僧が届けられる。しかし、広告では従順で働き者のアンドロイドだった筈だが、実際に届けられたはたらき小僧は見た目そのままのいたずら小僧であり、まるで姉弟のような2人、いや、1人と1体の共同生活が始まる

 ところで、人間と人間型ロボットとの共同生活という題材は別に「Dr.スランプ」の専売特許ではなく、「ドラえもん」などもそうであるように昔からフィクションの世界では見られる題材である。それなのに本作品を「Dr.スランプ」のフォロワーと断じたのは、無駄に凝ったメカの描写や、イラストチックでどこか海外の香りがするオシャレなタッチの画風など鳥山明を連想させるものが多いからである

 ただ、本作品は「Dr.スランプ」と比べると、全体的にマニアック寄りな印象を受ける

 まずキャラデザインにおいては、後に青年誌でエロティックな漫画を描いている事からもわかるように、作者の描くリアルタッチではないのに妙に性的魅力があり、そこを売りにしようとしているのか露出シーンも散見されるし、作品の舞台については、本作品の舞台は鎌倉CITYという今となっては間違った昔の近未来観が懐かしい。加えて、意図的なのか手が足りないのか余白の多い作画と相まってオシャレサブカル感あふれる雰囲気が味わえる。そして登場キャラは基本的にすももとはたらき小僧のみ、あとはたまに出て来るボーイフレンドの宗近を除くとほぼモブしかおらず、舞台もすももの家とごく近所のみという狭い世界で全て完結してしまっている

 それらは本作品独自の魅了を醸し出していると同時に、尖っていて取っつきにくさを感じる要因でもある。対照的に「Dr.スランプ」の女性キャラが良くも悪くも性的魅力を感じさせず健全であり、その舞台は則巻家周りは同じようにオシャレサブカル感があるものの、ペンギン村全体で見ると牧歌的な雰囲気に包まれて尖った感じを軽減させ、取っつきやすい印象を与えている。こんな雰囲気だからこそ「Dr.スランプ」のTVアニメはゴールデンタイムに放送され、ファミリー層に好評を得たのだろう

 一方、本作品が繰り広げるシュールな日常劇は例えるなら深夜番組であり、ハマれる人にはとても魅力的に映るが、そういう人は決して多くない

 深夜番組の中にもゴールデンタイムに昇格して成功した例もあるが、ゴールデンタイムに昇格したら視聴者に受け容れられずに速攻で終了してしまうケースがよくあるように、本作品もまたジャンプでは受け容れられずに10話で終了してしまったのもやむなき事だっただろう

 だが、殆どの深夜番組はゴールデンタイムに昇格する事なく終了してしまう。そんな中、黄金期ジャンプという漫画界のゴールデンタイム中のゴールデンタイムに連載を持ったという事実は揺るぎようがない。それは多くの人間が夢見ても叶わぬ事なのだから

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黄金期ジャンプで最も過小評価されている男

 こせきこうじはもっと評価されていいのかもしれない

 前回の当ブログはその言葉で締めくくった。これは半分冗談であるが、もう半分は本音である

 事実、黄金期ジャンプを彩った作家陣の中でこせきこうじほど過小評価されている男はいないのではないだろうか。「ブラックエンジェルズ」の平松伸二、「神様はサウスポー」の今泉伸二、「キックオフ」のちば拓といった実績のある面々が挑んでも短期終了の憂き目に遭ってしまった野球漫画というジャンルにおいて黄金期で唯一、しかも二度も長期連載を果たした人物だというのに、今までジャンプについて語られる際にこせきこうじに触れる事など皆無であり、たまに語られたとしても批判的というか、半ばバカにするような意見ばかりなのは一体どういうことなのだろうか

 …まあ、正直馬鹿にされるのもわかる。なにせこせきこうじの描く絵はお世辞にも上手いとは言えず、ストーリーは「県立海高校野球部員山下たろーくん」(以下「山下たろー」)も「ペナントレース やまだたいちの奇蹟」(以下「やまだたいち」)も努力と根性で全てのハードルを乗り越えていく展開一本鎗という能の無さで、こんな漫画は誰にでも描けると思われるのも無理のない話である

 だが、考えてみて欲しい。本当に誰でも描ける漫画だったら、他誌ならともかくジャンプで長期にわたって連載を続けられるだろうか。一度ならば色々偶然が重なって奇跡が起きたと強弁出来ない事もないが、二度もである。これを実力と言わずしてなんと言おう。二度も奇跡が起きたというならむしろそっちの方があまりの強運ぶりを称賛すべきだろう

 

 そんな訳で今回紹介するのはこせきこうじによるこちらの作品だ

 ああ一郎(80年32号~81年19号)

 こせきこうじ

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作者自画像

 

 作者は78年に本作品の前身でタイトルも同じ「ああ一郎」で手塚賞準入選、79年5号に掲載されてデビュー及び本誌初登場を飾る。翌80年増刊でも同タイトルの読切を掲載、その後同年32号から本作品で連載デビューを果たしたのであった

 

 そんな本作品は、「山下たろー」や「やまだたいち」の柔道版である

 いや、マジでそれ以上に本作品を上手く説明する言葉がないのだ。主人公の長島一郎は「山下たろー」の主人公たろー、「やまだたいち」の主人公太一と同じくチビでバカでノロマで周りから嘲笑されるダメ人物であり、それが常識を超えた努力と根性によって少しずつ強くなっていくという筋立ても両作品と同じである。なんなら名前も一郎にたろー、太一とほぼほぼ被っている

 それを馬鹿の一つ覚えと見下すのは簡単だし、私自身そういう気持ちも無い訳ではない。だが、バカはバカでも1つの事にひたすら打ち込んだバカの力というのは侮れないものがある。実際その1つのみで2つの長期連載作品を生んだわけだし

 ただ、本作品は作者が新人の頃の作品であり、長期連載にも至っていない。当ブログでは単行本全4巻以下の作品を短期終了作品と定義しているので全5巻の本作品はその分類から外れるが、第1巻に収録されているのは手塚賞準入選作と新規描き下ろし、増刊掲載ぶんのみであり、ジャンプ連載ぶんは第2巻からの収録となっているので、実質的には全4巻で短期終了作品と変わらない。なので、後の両作品と比べると色々な点で見劣りする部分があるのは否めず、私も以下に挙げる3つが特に気になった

 まずは絵が下手だという事だ

 いや、昔も今もずっと下手なままだろう。上の単行本のカバー絵を見ても「山下たろー」と大差ないし。と異議を唱えたい人もいるだろう。確かに今も下手だと言われると否定は出来ない。だがカバー絵が「山下たろー」と大差ないと言うのはその通りではあるが証拠にはならないのだ。と言うのも、上の画像はオリジナルではなく「山下たろー」のヒットを受けて再版されたバージョンで、その際にカバー絵が新規に描き下ろされている、つまり「山下たろー」と同じ時期に描かれたものなので大差ないのは当たり前なのである

 という事で、本作品連載当時の絵を見て頂こう

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 どうだろうか。こう見てみると、下手は下手なりに上達しているのがよくわかるだろう。絵が全てではないとはいえ、これでよく手塚賞準入選を果たせたものである

 次に気になったのは、主人公に対する扱いの酷さである

 これも後の作品と共通する部分で、おそらく下手糞が上達していくのを際立たせる為なのだろうが、作者の描く主人公は周囲から酷い扱いを受ける描写が少なくない。中でも本作品は特に酷く、「無能の極致」だの「生きてる価値ない」だの、しまいにはホームレスを見ながら「一郎くんも将来ああなるんじゃない?」だの容赦ない言葉が浴びせられ、その様子は作者を評価している自分ですらあまり気持ちのいいものではなかった。

 そして最後は、題材となる種目が作者と合っていない事だ

 何度も言うが作者は黄金期ジャンプにおいて唯一野球漫画で成功を収めた人物である。その点では作者は才能があると言えるが、だからとて他のジャンルにおいても才能を発揮できる訳ではない。思えば野球漫画の大家たる故水島新司も、その代表作中の代表作である「ドカベン」は当初柔道漫画であったが、やはり柔道とは相性が良くないのか野球漫画に転換するまでは正直あまり面白いものではなかった

 特に作者の場合は主人公が異常にチビだという特性が足を引っ張っている。おかげで試合内容は大きい相手に対し、攪乱して浮足立たせた隙に投げるという展開一辺倒で、細かい攻防は殆ど無い。しかも対格差があり過ぎる相手と組みあう絵は作者の画力では難しく、かなり不自然で柔道をしているようには見えない絵になってしまっている

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十年後に新規で描き起こしてもこのザマである

 以上の事から、本作品は「山下たろー」や「やまだたいち」が好きな人でも絶対楽しめるとは言い難い。だが、ここからよく黄金期ジャンプで長期連載を勝ち取れるようにまでなったものだと、読み比べて作者の進歩を実感するのに格好の作品と言える。下手が努力と根性で少しずつ上達していくという作風は、図らずも作者自身にも当てはまるものだったのだ

涙と泪と男と女

 前回の当ブログの記事にてマイナースポーツ漫画の難しさを述べた際にも少し触れたが、メジャースポーツ漫画にもメジャースポーツ漫画なりの難しさがあり、ジャンプにおいて連載されたメジャースポーツ漫画はマイナースポーツ漫画の比ではない程多いが、短期終了の憂き目にあった作品もまた数多い

 そんな訳で、今回紹介するのはメジャースポーツ中のメジャースポーツを題材にしたこちらだ

 

 チェンジUP‼(92年12号~33号)

 今泉伸二

 

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作者自画像

 作者は高校卒業後デザイン事務所に就職したが、程なく漫画家を志して退職し、寺沢武一宮下あきら原哲夫といった面々の下でアシスタントを務める。そして84年に「ブリキの鉄人」でフレッシュジャンプ賞入選、同作品がフレッシュジャンプ12月号に掲載されてデビューを飾る。因みに作者が入選した回で佳作を受賞したのが以前紹介した「くおん…」の作者の川島博幸である 

 

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 その後86年33号から「空のキャンバス」で本誌初登場にして連載デビューを飾ると、これが一年以上連載が続くまずまずのヒットを記録。88年22号からは「神様はサウスポー」の連載が開始、90年31号まで続く作者の代表作となる。そして91年増刊サマースペシャルに本作品の前身である「ドリーム・ボール」を掲載、翌92年12号から連載が開始されたのが本作品である

 そんな本作品は、幼稚園の頃は剛速球投手だったものの、怪我の為に野球を辞めた長州冬馬が、高校で幼稚園の同級生だった紅葉楓と再会した事をきっかけに甲子園を目指して再び野球に打ち込むようになる高校野球漫画である

 さておき、作者の作品の特徴を一言で言えば、不幸である。「空のキャンバス」の主人公である北野太一は子供の頃に背中に負った大怪我の為に命の危機がつきまとっているし、「神様はサウスポー」の主人公である早坂弾は幼い頃に両親が離婚、引き取った父親が早くに死んだ為修道院育ちの上左腕が麻痺する持病持ちという境遇。不幸なのは主人公ばかりでなく周りのキャラも負けず劣らずで、まるで不幸のバーゲンセールである。それに加えて登場キャラは涙もろい人物ばかりだから、どのエピソードでも誰かしらは涙をボロボロ流している。これもまた作者の作品の特徴と言えよう

 翻って本作品を見てみると、主人公の冬馬は交通事故で肩を故障、ヒロインの楓は物心がつく前には父親を亡くしている上、物語中に川の増水で命を落としかけるなど不幸ではあるものの作者の作品にしては大人しめである。むしろ冬馬のあだ名がウンコ太郎だったり、元々野球を再開しようと思ったのは女にもてる為だったりと、コメディ色が強い印象だ

 だが、そのぶん登場キャラの涙もろさはパワーアップしていて、女にフラれただとか馬鹿にされただとか些細な事で泣くので涙の量については引けを取っておらず、そういう意味では作者の特色は充分に出ていると言えよう

 一方、野球漫画として見るとどうかというと、主人公が怪我のせいでブランクがあるという設定の為に、まともに投げられるようになるまでが長く、試合自体の描写はアッサリしていて物足りないという印象である。あだち充の「タッチ」みたいな例外はあるものの、言うまでも無く野球漫画の最大の見せ場は野球シーンであり、ここがアッサリしているのは明確にマイナス要素と言えよう

 だが、これに関しては仕方ない部分もある。本作品に限った事ではないが、連載開始当初はキャラや舞台などの説明にページを割かねばならないので野球部分に力を入れていられず、大体はライバルや先輩相手の一打席勝負とか、試合のクライマックス部分のみを切り抜いたみたいな限定的な描写しか出来ない。そして、その間に連載終了が決まってしまうと最早試合をちゃんと描くだけのページが残されていないのである。振り返ってみれば以前紹介した「ショーリ‼」や「キララ」も同じような流れで短期終了してしまっているし、本作品もまた21話で終了してしまったので、ちゃんとした描写が入っている試合は1試合しかなかったりする

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 ここに野球漫画の難しさがあるのだろう。序盤の限られたページの中で物語やキャラの魅力をアピールしつつ、野球という皆が知っている、言い換えればそれだけ目が肥えていて評価が厳しいスポーツの魅力もアピールして読者を惹きつけねばならない。特にジャンプの場合は基本的にどんな作品でも長期連載は保証されておらず、連載を続けるには再序盤から読者アンケートで「DRAGONBALL」など既に人気を得ている作品と同じ条件で争わなければならないので難しさもまた格別だ。黄金期ジャンプにおいて単行本が10巻以上出る程連載が続いた野球漫画が「県立海高校野球部員山下たろーくん」と「ペナントレース やまだたいちの奇蹟」の両こせきこうじ作品しかないのも故無き事ではないのである

 

 そう考えてみると、こせきこうじはもっと評価されていいのかもしれない

マイナースポーツの悲哀

 気付けば北京オリンピックも次の日曜日で閉会式を迎えようとしている。フィギュアスケートなど一部競技に対する注目度が非常に高かった一方で、昨夏に行われた東京オリンピックに比べると全体的な盛り上がりに欠けていると感じるのは、自国開催ではないという理由だけじゃなく、そもそも冬季五輪の種目がマイナースポーツばかりだという事も大きいだろう。私はスキーのクロスカントリーなどが好きで見ていたのだが、一般の人はノルディック複合の後半部分として見る事はあっても、それ単独では興味が無いだろうしなあ

 

 そんな訳で、今回紹介するのは冬季五輪種目でもあるスポーツを主題にしたこちらだ

 

 METAL FINISH(90年41号~91年1・2号)

 鶴岡伸寿・宮崎まさる

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2巻は電子書籍版で購入したので画像は1巻だけで

 

 作画を担当する鶴岡伸寿は、88年に「THE FIGHT」でホップ☆ステップ賞入選、同年増刊サマースペシャルに掲載されデビュー。翌89年スプリングスペシャルに「NO MERCY」を掲載後、同年30号に「BEAT SWEET!」で本誌初登場を飾る。更に同年38号に「LIKE A CHILD」、翌90年ウインタースペシャルに「RUDE BOY」の掲載を経て同年41号から本作品で連載デビューを果たしたのであった

 一方、原作担当の宮崎まさるは、81年に週刊少年マガジン原作賞入選、86年にはフレッシュジャンプ漫画原作部門で入選を果たし、同年フレッシュジャンプ7月号からともながひできが作画を務める「アリスがヒーロー」で連載デビューを飾る。また、同年にはマガジンでも石垣ゆうきが作画を務める「100万$キッド」の原案として連載デビューを果たしただけでなく、それと並行してやはりマガジンにて鐘田頌太朗名義で宇野比呂士が作画を務める「名探偵Mr.カタギリ」の原案も手掛ける事となる。89年には再び石垣ゆうきとのコンビでマガジンにて「あいつはアインシュタイン」の連載を開始。そして同作品の連載終了後、本作品で本誌連載デビューを果たしたのであった

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関係ないが石垣ゆうきといえばやっぱりコレだろう

 そんな本作品は、天才プレイヤーと呼ばれるも早世した兄にあこがれ星城大一高アイスホッケー部に入部した風間和泉が、輝きを失った部を盛り立てる為に奮闘するアイスホッケー漫画である

 兄の駿も在籍していた名門星城大一高アイスホッケー部。しかしそこは去年起こした不祥事の為に一年間の出場停止処分を受けた事から部員たちは転校や退部で次々と去り、残った者もすっかり腐ってしまってかつての輝きは失われていた。そんな所にやる気満々で入部してきた和泉は先輩たちの癇に障り、執拗な嫌がらせを受ける事になるが…

 やる気の無い部活に入部した主人公が、その熱さで周りを巻き込んでいくという物語はスポーツ漫画の王道の1つと言えよう。そして、登場キャラも熱血漢でいかにも主人公キャラな和泉の他に、中学時代に得点王に輝きながらもチームプレーが嫌いで「一匹狼」の異名を持つ世良、やる気がないようなポーズをとりながらも和泉を気に掛けて色々アドバイスするキャプテンなどベタと言える程の王道を行っている

 ところで皆さんはアイスホッケーについてどれだけ知っているだろうか? 私もそうだが、ちょこちょこ映像を見る機会はあるから全く知らないという事は無いにしろ、詳しいルールはよくわからないという人が殆どではないだろうか

 本作品に限らず全体的にマイナースポーツをテーマにした漫画は多くない。その理由としてはマイナーだからそもそも描き手にも読み手にもあまり興味を持たれないというのが一番であろうが、読者の競技に対する知識の無さ故に事あるごとにいちいち説明を入れなければならないし、いくら描き手がリアルで迫力あるプレイシーンを描いても、それがどんな凄いプレイなのか読み手に伝わり辛いという事もあると思う

 実際本作品でも、ただでさえキャラや物語の舞台を説明する為に貴重なページを割かなければならない序盤に、1チームが何人で構成されているかとか、どんなポジションがあるかとか初歩的な説明まで入れる羽目になってしまっていたし、描き手の絵の方に問題があるのか読み手の自分の方に問題があるのかわからないが、肝心のアイスホッケーシーンを見ても、そのプレイが実際どんな動きをしているのかイメージ出来ず、全然ピンと来なかった。もしこれがメジャースポーツ、例えば野球漫画であったなら、1チームが何人なんて初歩中の初歩的説明どころか、タッチアップとか振り逃げとか特殊なルールすら説明の必要は無いし、少しくらい絵に難があったとしても、このシーンはこんな事しているんだろうなと知識で穴埋めする事が出来ただろうに

 とは言え、メジャースポーツ漫画にはメジャースポーツ漫画なりの難しさがあり、誰もが知っている競技だけに読者の目も肥えているので評価は辛口になりやすい。例に挙げた野球漫画にしても以前の記事で触れたが、黄金期ジャンプにおいては短期で終了してしまった作品の方が多数である。だが、それだけにヒットしたメジャースポーツ漫画は他のスポーツ漫画を霞ませる圧倒的な存在感を放つ。そして、不幸な事に本作品の連載が開始した次の号からあのメジャースポーツ漫画の連載が開始されてしまった

 

 それはこの作品である

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勿論左の作品ではなく右の作品の方だ



 以前当ブログでも紹介した「カメレオンジェイル」の作画担当である成合雄彦が井上雄彦と改名して連載を開始した「SLAM DUNK」は…などという説明は不要であろう。僅か一週差で2つのスポーツ漫画の連載が開始されたとなればどうしても比較されてしまう。「SLAM DUNK」が連載開始から半年ほどでジャンプの看板作品の1つにまで駆け上り、その後更に「DRAGONBALL」と並び称されるまでになったのに対し、本作品は僅か14話で連載終了、今となっては最早憶えていない者も少なくない、と、残酷なまでに明暗が分かれてしまった

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 そして成合(井上)雄彦と同じく原作付きの作品で連載デビューを果たした鶴岡伸寿は、本作品の終了後、ジャンプでは読切作品の掲載はあったものの、二度と連載を持つ事は無かったのであった

 

 

柳の木の下に河童は何匹?

 前回当ブログで紹介した「水のともだちカッパーマン」は河童(厳密には河童と人間とのハーフだが)が主人公というなかなかニッチな作品であった

 長い歴史を誇るジャンプでも流石にそんな作品は他に無いだろうと思う方もいるかもしれないが、それは甘い。黄金期の作品ではないが実はもう1つ河童を主人公にした作品が存在していたのである

 それは今回紹介するこちらだ

 

 河童レボリューション(98年12号~32号)

 義山亭石鳥

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作者自画像

 

 作者は97年に「73式乱射銃」で赤塚賞準入選、同年8号に「IN THE TRUE」が掲載されてデビューにして本誌初登場を果たす。また「73式乱射銃」も同年に赤マルジャンプSUMMERに掲載されている。そして同年42号に本作品の前身にあたる「河童レボリューション」を掲載すると、44号に「鼻の中の君よ」を挟み、45号に再び、そして50号に三たび「河童レボリューション」と掲載が続き、翌98年12号から連載が開始したのが本作品だ。尚、余談ではあるが、読切版の方は本作品の単行本とは別に「オリジナル河童レボリューション」というタイトルで出版されている

 このようにハイペースで掲載が続いたのは、それだけ作者が期待されていたという事だろうが、ジャンプ編集部がギャグ漫画家の発掘・育成を目的として創立したGAGキングがこの数年不作続きの為97年をもって廃止されるなど、ギャグ漫画家日照りにあえいでいたという事情もあったかもしれない

 そんな本作品は、冬眠中のところを小学生のマサシに起こされた為、マサシの家に居ついた河童のヒロ坊、サユリの兄妹が騒動を起こす河童ギャグ漫画である

 このように常人ならざる者が人間の家に厄介になり、次々とトラブルを巻き起こすといった題材は、本作品や前回紹介した「水のともだちカッパーマン」に限らずポピュラーな題材である。特に藤子・F・不二雄はこの手の作品が多く「ドラえもん」(騒動を起こすのは専らのび太だが)、「オバケのQ太郎」、「ポコニャン」、「モジャ公」、「チンプイ」など枚挙にいとまがない。また、黄金期ジャンプにおいては「まじかる☆タルるートくん」が有名であろう。そして、このような作品の主人公キャラは見た目が愛らしいのが定番となっている

 一方、本作品の主人公であるヒロ坊はというと、単行本のカバー絵をご覧の通り見た目が非常に良くない。更に中身の方はもっと悪く、自己中心的でマサシの家に居つくようになったのも、半ば脅して強引に迫った結果である。ついでに言えば口も悪い

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河太郎もそんなに愛らしいとは言えないが、ヒロ坊と比べればこの通り

 読切版が好評を得て連載化に繋がったのも、ヒロ坊の定番とは真逆のキャラ造形がウケたというの要因が大きかったであろう。が、こういったネタは言わば出オチに類するもので、読者としても最初は目新しさをを感じるがそのうち慣れてしまうものである。そして、慣れられてしまった後にはデメリットだけが残されてしまう

 と言うのも、この手のキャラがトラブルを起こしても許されるのは、ぶっちゃけ見た目が愛らしいからだ(偏見)。正に可愛いは正義である。加えて言うなら、基本的にトラブルの原因となる行動に悪意が無いか、悪意があった場合は、「こち亀」の両さんが金に目が眩んで暴走した挙句に破滅を迎えるように、最後に相応の報いを受ける事で読み手の不快感を解消しつつ笑いに昇華するからでもある

 だが、ヒロ坊の場合は見た目も性格も悪く、おまけに自分勝手な行動をしても周りが迷惑を被るだけで自分が報いを受ける事は少ないのだから、読み手の不快感は解消されない。私も本作品の連載当時は既に20歳を越えていて良くも悪くも良識が備わっていたのもあって、正直読んでいて笑いよりも怒りの方が込み上げてきて「こち亀」の大原部長ばりに「ヒロ坊のバカはどこだ!」と怒鳴り込みたい気分になる事もあった。勿論、中にはお約束のような展開は飽き飽きで、そっち方が面白いと思う人もいるだろうが、全体から見れば少数だろう。定番には定番になるだけの理由があるのだ

 本先品の他の特徴としては、個性的な新キャラが毎回のように登場する事が挙げられる。その顔触れはホモの烏天狗とかグレて家出したオタマジャクシ河童とかインパクトの強い面々であるのだが、良くも悪くもそれのみに特化した出オチタイプのキャラばかりで、強いインパクトの割にはあまり印象に残らず殆どは使い捨てにされた格好である

 ギャグ漫画は基本的に1話完結で次々に新しいエピソードを考え出さねばならないのでストーリー漫画と比べて消耗が大きく寿命が短いと言われている。その上に次々と新キャラを登場させていったのだから作者の消耗は更に大きくなる。おかげで後半になると、とってつけたようないい話風エピソードでまとめてからの二段オチが増え、たった20話で終了してしまったにも関わらず、完全に息切れして終わったなあというのが正直な感想だ

 

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 そして、本作品で完全にネタが涸れ果ててしまったのか、作者はその後赤丸ジャンプなどに数回読切が掲載されたのみで、連載作品は1本も持つ事が無く姿を消したのであった