黄金期ジャンプの影

主にジャンプ黄金期の短期終了作品について語ります

コイツでコロナなんて(物理的に)ぶっとばせ‼

 私事であるが、先日遅ればせながらコロナワクチンの1回目の接種を受けてきた。一時の猛威からすれば落ち着いてきたものの、コロナが流行してきてから一年半ほども続く窮屈な生活に精神が疲弊し、コロナに対してヘイトを募らせている方も多かろう

 まったく、流行したての頃に流布していた、コロナウイルスは熱に弱いから夏には収束するなんて話は一体何だったのだろうか? アビガンが効くなんて話なんか最早無かった事になっているし

 グチはさておき、今回紹介するのはそんな世相にピッタリなこの作品だ

 

 身海魚(99年1号~12号)

 田中加奈子

 

 本作品の連載が開始されたのはジャンプの黄金期が終了してから二年半が経っており、黄金期の読者の中には本作品の事を知らない人もいると思うので先に断っておくが「深海魚」と書きたかったのに変換ミスしてしまった訳では無い。と言うか、「しんかいぎょ」を変換してもこうはならないし

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作者自画像?

 作者は95年に「平妖三昧」でホップ☆ステップ賞佳作受賞、翌96年に同作品が増刊スプリングスペシャルに掲載されてデビュー。同年には「竜鬚虎図」で手塚賞入選を果たすと共に同作品が34号に掲載されて本誌デビューを飾る。その後97年43号に「クリーチャーズ」、98年8号に「コタンコロカムイ」と本誌で読切作品の掲載を重ね、99年1号から連載デビューとなったのが本作品だ

 本作品は医学博士の凶嫪范が狂暴化するウイルスから人類を救うために造り出したサメ型の生物であるK-1号が、人体に入り込んでウイルスと闘いを繰り広げる医療?バトル漫画である

 K-1号は体の大きさを10メートルからミクロサイズまで変える事で人体に入り込み、右腕をサメの頭部に変化させたゲヘナ・マウスや、硬質化させたヒレを利用したフカヒレギロチン、フカヒレパニッシュなどを繰り出して人体に巣食うウイルスを物理的に駆除するという、まさにコロナウイルスが蔓延している現在に求められる存在である。…まあ、K-1号は1体しかいないので駆除ペースはコロナ患者の増加ペースにはとても追いつかないだろうし、駆除して貰った患者は別に抗体が出来る訳でもないからまた罹患する可能性もあるだろうが、なんてリアルな考えは言ってはいけない

 さておき、深い海の魚ならぬ身体の海の魚とタイトルに掲げている事からも、K-1号が体内を自由に泳ぎ回れるという事が本作品の大きなセールスポイントだと思われるが、あまり生かされていないというのが正直な感想である。というのも、体内の描写が非常に淡白なのだ

 勿論、超拡大した上に俯瞰視点で体内を正確に描こうにも、そのような映像は現実には存在しないので無理な話ではある。しかし、そもそもがフィクション色の強い作品なのだから別に正確にこだわる必要はないし、むしろ現実にはあり得ないような景色を描いてもいいと思うのだが、本作品では波紋やあぶくなど液体の中であるような表現があるだけで、他はほぼ何も描かれていないのである。これではセールスポイントが視覚的に何も貢献していないと言わざるを得ない。しかも、K-1号は物語の開始早々強盗に撃たれて瀕死になった少年、諏訪大吉と合体するし、ウイルスの方も患者の体を乗っ取って暴れるので闘いの舞台は体内より体外の方が多いという本末転倒ぶりだ。また、ウイルスとのバトルも、バトル漫画の総本山と言えるジャンプの中では割とアッサリしており、作品全体として見応えに欠けるきらいがある

 しかし、だからと言って本作品はつまらないという訳ではない。確かに見応えには欠けるかもしれないが、そのぶんK-1号のキャラクターを掘り下げており、読み応えは充分なのだ

 元々K-1号は無理矢理ウイルス駆除をやらされているだけで人間に対する親愛の情も無く、自分の事しか考えないようなヤツであった。それが妹想いの心優しい少年である諏訪大吉と合体した事によって自身も大吉の妹である寿を大事に想うようになってしまった事にとまどい、また、実は自分自身がウイルスから存在であるという衝撃の事実を知ってしまって心が揺れ動いてしまう。このあたりの心理描写は流石手塚賞入選作家であり、思うに作者は本質的には絵で見せる作家ではなく物語で読ませる作家なのだろう

 だが、あいにくジャンプ読者が求めているのは読ませる作家よりも見せる作家の方である。それは黄金期の二大看板である「DRAGONBALL」、「SLAM DUNK」を見ても明らかであろう(両作品が読ませる漫画では無いという訳ではないが)。結局本作品はジャンプの水が合わず10話にして連載終了、その後作者は翌2000年13号から「三獣士」の連載を開始するが、こちらも19話で終了となってしまう。そして同年50号に掲載された読切作品の「剣客ひょっこり厄三郎」を最後にジャンプという海から飛び出し、青年誌という新たな海に飛び込んだのであった

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追悼さいとう・たかを ジャンプにも存在したゴルゴ13フォロワー

 本日9月29日、さいとう・たかをが24日に死去していたという報が入ってきた。その代表作である「ゴルゴ13」は誰もが知る作品であり、今年7月には単行本の201巻が発売され、「こち亀」の記録を抜いてギネス世界記録を更新したばかりであった

 そこで当ブログでも同氏を追悼していきたいと思う…のだが、あいにく同氏はジャンプに連載どころか読切作品の1つすら掲載歴が無い(急いで調べたので間違っているかもしれない)。西村繁男の「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』」によると、ジャンプ創刊時の連載陣の候補にはなっていたみたいではあるが

 

shadowofjump.hatenablog.com

 

 なので、代わりに「ゴルゴ13」の影響が色濃く感じられるこちらの作品を紹介したい

 

 マッド・ドッグ(83年22号~31号)

 武論尊・鷹沢圭

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 原作を担当する武論尊は後にジャンプの大看板となる「北斗の拳」の原作も務める事となる言わずも知れた存在であり、この当時既に「ドーベルマン刑事」という大ヒット作を生んでいてその地位を確立していた

 一方、作画を担当する鷹沢圭は77年に平松梅造名義の「汚された金庫」で手塚賞佳作受賞、翌78年には「イダテン・ホーク」で準入選、同作品が増刊に掲載されてデビュー。更に「イダテン・ホーク2」、82年フレッシュジャンプに「破壊都市TOKYOゼロ」と掲載を重ね、83年22号から鷹沢圭とペンネームを変えて本誌初登場にして連載デビュー作となる本作品を開始したのであった

 そんな本作品は主人公の渡瀬剛が、死んでしまった戦友の妹に仕送りする為、傭兵として世界を渡り歩き、任務を遂行するミリタリーアクションである

 武論尊は元々自衛隊に在籍した経験があって(因みに本宮ひろ志自衛隊時代の同僚である)ミリタリーに関して造詣が深い上、本作品の連載にあたってベトナムカンボジアに取材に行ったという事もあり、戦闘シーンはよくある戦争もののように感情で動いてやたら銃を撃ちまくるような真似はせず、冷静に状況を見極め、確実に任務を遂行する。この辺りが「ゴルゴ13」の影響が色濃いという所以である

 とはいえ、本作品が掲載されるのは青年誌のビッグコミックではなく少年誌であるジャンプなので「ゴルゴ13」のように女を抱く訳にはいかないし、なによりそのまんまではストイック過ぎる。なので、主人公の渡瀬はデューク東郷のように冷徹過ぎず、適度に少年誌的な味付けがされている。「利き腕を相手に預ける事はしない」などとは言わずちゃんと握手もしてくれるし、何よりも情に厚い。特に女性に対しては。標的の娘が巻き込まれる事を気にして暗殺に失敗する事もあるし、何より傭兵をしている理由からして同僚の妹の為である。そういえば、任務の性質の割には女性が出てくる頻度が高めだが、それも「ゴルゴ13」を意識したのだろうか

 だが、それでも少年誌ではストイック過ぎたのか、本作品は10話で連載が終了してしまう。同じく武論尊が原作を務める「北斗の拳」の連載が開始される僅か数カ月前の事であった

 その一方で、作画の鷹沢圭の名は本作品を最後にジャンプで二度と目にする事は無かった。その後別の名を引っ提げてジャンプに帰ってくる事になるのだが、それはまた別の機会に触れたい

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 ところで、「ゴルゴ13」はさいとう・たかをの死後も連載は継続すると発表された。ファンにとっては朗報だろうし、それを殊更批判するつもりもないが、どうもイマイチ割り切れない思いがするのは私だけであろうか

巻来功士の夢の終わりと新たな夢の始まり

 当ブログでは前回、前々回と巻来功士の「メタルK」を、その裏事情を綴った「連載終了!」を交えて紹介したが、「連載終了!」は作者がジャンプの専属契約を解消するまでが描かれているので、せっかくだからそこまでを作者最後のジャンプ連載作品と併せて紹介したい

 

 そんな訳で今回紹介する作品はこちらだ

 

 ザ・グリーンアイズ(89年40号~90年10号)

 巻来功士

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 早速本作品の紹介に入る前に、まずは「メタルK」の連載が終了してから、本作品の連載が開始するまでの流れを「連載終了!」の内容に沿って触れていきたい

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 「メタルK」は僅か10話で終了してしまったが、話が進むにつれ人気が上昇してきたおかげか、すぐに編集部から作者に次回作の要請が来た。しかも、担当によるとネームが出来たら即連載らしいという、実績の無い作者に対しては破格の扱いで

 だったら「メタルK」を終わらせるなよと釈然としない気持ちを抱きながらも、作者はSF、ホラーといった自分好みの要素をてんこ盛りにしたネームを提出し、アッサリと通って87年24号から「ゴッドサイダー」の連載が開始される事となる

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画像は電子書籍版です

 この作品は作者のジャンプ連載作品の中で一番連載期間が長い上、主人公の鬼哭霊気がジャンプの創刊二十周年記念作品であるファミリーコンピュータ用ゲームソフト「ファミコンジャンプ」に、あの「こち亀」の両津勘吉らを押しのけてプレイアブルキャラクタとして登場したという事もあり、作者の作品の中ではずば抜けて知名度が高いだろう。…連載は「ファミコンジャンプ」発売前に終了してしまったが
 しかし、そんな「ゴッドサイダー」の連載中でさえ、作者は編集部に振り回されていた

 連載開始早々にまたも担当が鈴木晴彦に交替、その後一旦松井栄元に戻るも、松井が異動した為、更にKという編集者にと担当がコロコロと替えられていく。しかも、このK、他の編集者と違ってなんでわざわざイニシャルにされているのかというと、作中ではろくでなしに描かれているからだ

 例えば作者はKからこんな言葉を浴びせられている

 「…巻来君…副編集長がボクの肩に手を置いて何度も聞くんだよ…

  『ゴッドサイダー』の最終回はいつになるって…何度も…何度も…」

 おそらくKとしては発奮を促す為の言葉だったのだと思う。が、元々感性が合わないのかKに対して良い感情を持っていなかった作者からしたら嫌味以外には聞こえず、Kに対する悪感情は積もっていくばかりであった。そんな状況ではモチベーションが上がる訳もなく、Kの言葉通りに「ゴッドサイダー」は88年51号で最終回を迎えてしまう

 それでも「ゴッドサイダー」はヒットの部類には入る作品である為か作者の元にはまた連載の要請が舞い込み、そして作者のジャンプにおける最後の連載作品となる「ザ・グリーンアイズ」が89年40号から開始されたのである

 そんな本作品は両親と共に搭乗した飛行機を、世界を裏で動かしている巨大武器密売組織であるシャドーカンパニーオブアメリカ、通称カンパニーに撃墜されアマゾンの密林に墜落するも、命を取り留めた蘭妙広樹が、同じ飛行機に乗っていたダーズリー博士が持っていた通称ダーズリーレポートを奪う為に差し向けられたカンパニーの改造人間と戦いを繰り広げるバイオレンスアクションである

 一連の巻来功士作品を紹介するにあたって本作品と「メタルK」を続けて読んでみたら、両作品を構成する要素は非常に似通った部分と真逆な部分の両面が見られ、両作品は言わば鏡写しの関係にあると感じられた。非常に似通った部分の例を挙げると戦う事になる組織はどちらも闇の組織であるし、その組織に両親諸共殺されかかったというのも、組織の刺客が生物実験で生まれた改造人間というのも一緒。一方真逆な部分はというと、「メタルK」の主人公は女性であり、科学の力で蘇ったサイボーグであるのに対し、本作品の主人公は男性で、自然の力を駆使する野生児等等という感じだ

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 でありながら、いや、であるからなのか、私は本作品に関して「メタルK」ほど強い印象を受けず、最近になって単行本を購入するまでタイトルすら忘れていた程だ。そしておそらく他の読者の多くもそうだろう。同じ系統の作品ならば先に触れた作品の方に強い印象を受けるのは必定で、だからこそ後発作には先発作とは違う強力な何かが必要なのだが、本作品の違いはあまりインパクトのある違いではなかった。結果、本作品は話題になりながらも編集部の都合で短期終了させられてしまった「メタルK」とは違い、順当に21話にして連載終了となってしまう

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 その直後作者は転換期を迎える事となる。きっかけは元担当でスーパージャンプ編集部に移籍していた鈴木晴彦からの依頼で初めて青年誌に読切作品の「ミキストリ 太陽の死神」を描いた事だ。この作品は読者の反応も良くアンケートで2位を獲得しのだが、それ以上に作者にとって大きかったのは、少年誌の枠を気にせず自由に描ける事の精神的解放感である

 一方担当のKとの関係は冷え切っていて、連絡も少なく、ネームを見せても淡白に却下されるという日々が続いていた。我慢しきれなくなった作者は編集部に電話を掛け、担当を代えて貰うよう頼み込み了承されるが、これは業界ではタブーとされた行為だった。新担当は右も左もわからず、まともに打ち合わせも出来ないド新人で、作者は半ば干されてしまう

 この時期、作者はまだ漫画家なら皆が望むと言っても過言ではないジャンプの専属契約を結んでいたのだが、それは最早ジャンプとの関係が冷え切ってしまった作者にとっては他誌での執筆を妨げる足枷でしかなかった。そして決断した作者は自ら願い出てジャンプの専属契約を解消し、ジャンプから旅立った。「機械戦士ギルファー」で連載デビューを果たしてから五年後の事である

 改めて作者のジャンプ時代を振り返ってみると、編集部に翻弄され続けた五年間であった。勝手に原作をつけられ、最初から短期終了ありきで連載を始めさせられ、そして担当をたらい回された末に担当の交代要請というタブーを侵さざるを得ず、結果干されてしまったり。もし担当に恵まれていたなら作者の未来は違っていただろうと想像すると、誰が担当になるかという事は漫画家にとって非常に大切な問題だと思わずにはいられない

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右上から時計回りに堀江信彦、松井栄元、鈴木晴彦、K

 しかし、同時にこうも思う。冷たい言い方だが、所詮ジャンプ編集部にとって作者はその程度の存在でしか無かったのだと。ジャンプでは異質な存在でコアなファンもついていたが、全読者数との比率では取るに足りず、他にいくらでも替えの効く存在だと。まあ、そもそも「キン肉マン」が終了しても「北斗の拳」が終了しても部数が伸び続けた当時のジャンプに替えの効かない存在など鳥山明しかいなかったかもしれないが

 ジャンプを離れた後、青年誌で長く充実した漫画家人生を歩む事になった作者にとって、ジャンプ時代は喜びより苦しみの方が多かったかもしれない。だが、そう歩めたのはあの「メタルK」の、「ゴッドサイダー」の巻来功士という肩書も大きかっただろう。そう思うと苦難の時代は同時にかけがえのない時代だったのではないだろうか

伝説のトラウマ作品とその舞台裏 その2

 さて、前回は「メタルK」を紹介するなどと言っておきながら、前段階が長過ぎて結局紹介できないという詐欺じみた事をやってしまったが、今回こそはきちんと紹介したい

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 まずは「連載終了!」を引用しつつ前回の続きから 

「機械戦士ギルファー」の連載終了後、作者は再びジャンプで連載する事を目指して85年スプリングスペシャルに「バースター3」を、更に続けて「ブラック☆スター」と読切を掲載するが、どちらもアンケートは中の上どまりと頭打ちの状況になっていた

 そんな時、2代目担当の松井栄元からの提言が作者に飛躍のきっかけを与える事になる

 「少年誌の常識ってやつをブチ壊す作品だ‼

  それぐらいやらないと今の少年ジャンプじゃ他の作品に埋もれてしまうだけなんだよ‼」

 今となっては意外な事だが、この時点までの作者の描く作品はキング時代の2作品がアクションコメディ、ジャンプに移籍してきてからの作品はいずれもロボットアクションと、後の作者から連想されるバイオレンス、エロ、グロといった作風とはかけ離れたものばかりであった

 勿論、これらの作品も嫌々ながら描いていた訳ではないだろう(望まぬ原作を押し付けられた「機械戦士ギルファー」はわからないが)。しかし、テーマの選定などにおいては少年誌という事を少なからず意識していたに違いない。そもそも好き勝手に描こうとしてもネームが通らないし

 だが、編集の一言で吹っ切れた作者は少年誌の常道とは真逆を行こうと決心する。少年誌の主人公は普通は男性だからこそ、敢えて女性主人公に、読者の胸を熱くさせるのではなく背筋を凍らせる夢も希望も無い話を描こうと。そうして描き上げたネームは編集会議にかけられ、意外な事に即連載が決定してしまう

 それが86年24号から連載が開始された「メタルK」である

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カバー下の表紙は結構エロい(乳首修正済み)

 そんな本作品は、世界規模の陰謀組織である薔薇十字団に両親を殺され、自身もその体を炎に焼かれた冥神慶子がサイボーグとして蘇り、復讐の為に組織の人間を次々と始末していくバイオレンスアクションである

 薔薇十字団と戦う慶子の最大の武器は、機械の骨格を覆う皮膚だ。何度実験を繰り返しても慶子の興奮状態が続くと機械が高温になって溶けてしまう事から、逆にこれを利用しようと成分を変え、溶けるとゼリー状の硫酸と化す皮膚は、周囲に硫酸ガスを発生させるし、手の皮膚を溶かして伸ばし鞭として使用する事も出来る

 そんな設定なので、慶子の見た目は普段は奇麗だが、クライマックスになると皮膚が溶け出し機械の骨格が露わになるというグロテスクな姿になり、衝撃を受けた読者も少なからずいた事だろう

 かく言う私も本作品の第1話を目にした時の衝撃は今も忘れられない。慶子の顔が溶けて機械の骸骨が露わになるシーンは、その少し前まではコロコロコミックを愛読していたような子供にはあまりにも刺激が強すぎた。更に第2話になると、狐のマスクをつけられた慶子が全裸で野に放たれて狩猟のターゲットにされるという、コロコロではまずお目にかからないシーンに軽いトラウマを覚え、基本的に買ったジャンプは全作品を何度も読み返していた私だったが、本作品に関しては再読をためらう程であった

 そして、作者もまた第2話が掲載されているジャンプを読んで別の意味で軽くトラウマを覚えた事だろう。というのも、本作品の掲載順が第2話目にして早くも巻末に追いやられていたからである

 アンケート結果が悪かったにしろ、反映するのが早すぎると担当を問いただした作者は以下のような答えを受ける

 「…どうやらこの漫画を…いやもしかしたらオレの担当の漫画を嫌って嫌っている人が編集部内にいるのかもしれない」

 加えて連載終了も既定路線であると告げられる作者。ただ、これはあくまで担当であった松井栄元の推測に過ぎず、事実かどうかは不明である。しかし、読者が出したアンケートを集計し、その結果を踏まえて掲載順を決定、更に誌面の編集、印刷という一連の作業が一週間で可能とは思えない。これまで当ブログで紹介してきた作品たちを見ても第2話目にして巻末に追いやられた作品など他に例を見ず、掲載順の動きから推測するとアンケートの結果が反映されるには一ヵ月はかかると思われるから、本作品に対して何か特別な力が作用したのは間違いない。以前紹介した「さらば、わが青春の『少年ジャンプ』」を読むと、編集部内にも派閥があり、権力争いが行われているような記述が見られるので、編集部内の力関係が影響を与えたのだろうか

 

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 それにしても、自分で選べるわけでもないのに付けられた担当編集者によって作品の扱いが変わるなんてひどい話である。こういう事が横行していたとは思いたくないが、長いジャンプの歴史の中で他に全くなかったとも思えない。まさに黄金期ジャンプの影と言えるだろう

 編集部内の思惑はさておき、本作品に強い思い入れを抱いていた作者は、連載終了が半ば決定していてもめげずに全力で描き続けた。おかげで作者には熱いファンレターが届くようになり、アンケート結果も徐々に良くなってきて編集部でも無視できず、改めて連載終了か否か会議に掛けられる事になる。が、決定を覆すには至らず、本作品は全10話中、巻頭を飾った初回と「はなったれBoogie」が最終回の為にブービーとなった31号を除いた8話が巻末掲載という記録と、私を含む少なからぬ読者にトラウマを残し、連載終了となってしまったのである

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伝説のトラウマ作品とその舞台裏

 ジャンプ作品がどれだけ読者の記憶に残るかは基本的に連載期間の長さに比例するものである。何しろアンケートで高く評価された作品=読者の注目を集めた作品ほど長く連載されるし、ずっと読者の目に触れられる事で、より読者の記憶に深く刻まれるのだから。なので、悲しい事だが短期終了作品は元々読者の注目度が薄い上に読者の目に触れられる期間が短いので、記憶に残っていないという場合も少なくない

 そういう理屈だと、今回紹介する作品は僅か10話で終了しているので、あまり憶えている人は多くないと言えるのだが、おそらくこの作品に関しては例外で、多くの人が憶えていると思う

 その作品とはこれだ

 

 メタルK(86年24号~33号)

 巻来功士

 

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 それともう1つ、作者は後にこんな作品を描いているのをご存じだろうか

 

 連載終了!

 イースト・プレス

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 これは作者が漫画家としてデビューする以前から、自ら申し出てジャンプの専属契約を解消するまでを描いた実録漫画で、「メタルK」の誕生から連載終了に至るまでの事情も詳しく描かれているので併せて紹介したい

 まずは作者が「メタルK」の連載を開始するまでの経緯を「連載終了!」の内容に沿っていつもより詳しく紹介して行こう

 作者は小学生の頃には既に自分は漫画家になると決心しており、高校1年の時にはフレッシュジャンプ賞の最終候補に残るなど早くもその片鱗を見せていたが、その後大学に進学して講義もそっちのけで留年してしまう程のペースで漫画を描き、様々な出版社の様々な賞に応募し続けるも、最終候補どまりになってしまう事が多く、やっと小学館から月2回刊行していたマンガくんの賞で佳作を受賞したと思ったら程なくマンガくんが休刊してしまうなど、なかなかデビューのきっかけを掴めないでいた

 一方、同じ大学の同期には、あの北条司がおり、作者がもがいているのを尻目に在学中に手塚賞準入選を果たし、アッサリと連載デビューまで決めてしまう。それに対抗心を抱いた作者は漫画に本腰を入れようと大学を中退して上京する事を決意したのであった

 

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 …と作中では描いてあるのだが、作者のインタビュー記事等、他で調べた情報と比べてみると違う部分が若干見られる。大学名なども配慮の為か変えてあるし、どうやら実録と言えども漫画としてまとめる為に若干改変しているようなので、そこのところは留意して頂きたい

 あてもなく上京してきた作者だが、早々にチャンスを掴む事になる。当初は大学時代に一度自宅まで訪ねてきた編集者がいるサンデー編集部に原稿を持ち込もうと小学館のある神田まで出てきたのだが、その日は持ち込み可能日ではない事に気付いてそのまま帰ろうとした途中、少年画報社の前を通りかかったので、せっかくだからと少年キング編集部に原稿を見てもらったところ評判がよく、81年村田光介名義の「ジローハリケーン」でアッサリ連載デビューを果たしたのであった

 尚、それと同時期には前述の小学館編集者からコロコロコミックの編集者を紹介され、誘いも受けていたが、キングの連載話があったので結局断る事にしたという。もしこの時作者がキングではなくコロコロを選んでいたらと思うと興味深い。まかり間違えればあの「メタルK」がコロコロで連載されたという未来もあり得たのだ。…いや、ないだろうが

 「ジローハリケーン」は翌82年に連載終了するものの、続けて「ローリング17」の連載を開始。作者の前途は洋々と思えたのだが、その矢先、キングが休刊するという思いがけない事が起きてしまう

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 これで漫画家としての基盤を失った作者は投稿及び持ち込みの日々に逆戻り。例によって最終選考止まりを何度も経験しながらも持ち込み先の1つであるジャンプ編集部に認められ担当編集者がつけられた。そしてフレッシュジャンプ83年9月号に「サムライR」が掲載され、これがアンケートで2位を記録し、連載の話が持ち上がる事になる。因みに最初についた担当は、何の因果かあの北条司の担当でもあり、後にジャンプ第5代編集長となる堀江信彦だった

 

 ところで、当ブログで紹介してきた作品の作者の多くはジャンプの所謂純血主義政策の為、手塚賞やホップ☆ステップ賞などジャンプ系のコンテストで入賞し、ジャンプ系以外で掲載経験の無いまま連載に至るというケースが多い。それに比べてなんと波乱万丈の漫画家人生ではないか。そして、それ故に作者は独立心が強く、ジャンプの文化に馴染む事が出来ずに苦悩したという

 作者は臨時で原哲夫のアシスタントを務めた後、83年51号でついにジャンプで連載を開始する事になる。そのタイトルは「機械戦士ギルファー」。だが、この作品は作者の本意ではなかった。というのも、てっきり「サムライR」が連載化されると思っていたのに、編集から提案されたのは当時ジャンプで主催していた原作賞である梶原賞受賞作品の漫画化であったからだ。しかもこの原作は、賞を取らせた手前、漫画化しなければならないけど誰も引き受け手がいなかったいういわくつきの作品で、いわば厄介ものを押し付けられた訳である

 それでも許される限り原作を改変してなんとか形を整えて連載にこぎつけたが、ただでさえ望まぬ原作付きでモチベーションが上がらないのに、加えてアシスタントは素人同然で自分の負担が重い。更に途中でいきなり担当編集者を代えられるなど環境にも恵まれないとくれば充分な力を発揮する事も出来ない。結局「機械戦士ギルファー」は僅か10話で連載終了となってしまうのであった

 …おっと、今回は「メタルK」の紹介をすると言ったのに、その前段階で予想外に長くなってしまった。なので、看板に偽りありかもしれないが、今回はここまでにして続きは次回とさせて頂きたい

色無き世界の色男

 当ブログでは前回ジャンプ二大ヤンキー漫画の1つ、「BØY」の作者である梅沢勇人(梅澤春人)の作品を紹介した。ならば、二大ヤンキー漫画のもう1つ、「ろくでなしBLUES」の作者である森田まさのり作品を紹介するのが筋であろう

 …と言いたいところだが、残念ながら森田まさのりがジャンプで連載した作品は前述「ろくでなしBLUES」の他に「ROOKIES」、「べしゃり暮らし」と残念ながら短期終了作品は存在しない(「べしゃり暮らし」はジャンプ連載分だけなら短期終了作品とも言えるが)。いや、作者からすれば残念でも何でもないのだが

 なので、今回は代わりに森田まさのりのアシスタントであった作者によるこの作品を紹介したい

 

 原色超人PAINTMAN(93年14号~25号)

 おおた文彦

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作者自画像

 本作品の連載当時は作者が森田まさのりのアシスタントだったという事を知らなかったので見比べようなどと思わなかったが、改めて師弟の画を見比べてみると作者の方は当時デビューして間もないという事もあってタッチはかなり粗い。が、顔の陰影のつけ方や、口を開けた時に下唇が突き出るような感じなどに師の影響が見て取れる

 作者は90年に高校卒業後、森田まさのりのアシスタントとなる。因みに森田まさのりとは同郷(滋賀県)の上、単行本1巻に寄せられた同氏のコメントによると恩師も一緒だったというが、出身校まで一緒だったのかは残念ながら調べてもわからなかった。尚、同門には以前当ブログで紹介した「神光援団紳士録」の岩田康照もいる

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 その後91年に「ペイントマン」でホップ☆ステップ賞佳作受賞、翌92年増刊スプリングスペシャルに掲載されてデビューを飾る。同年サマースペシャルに設定を引き継ぎ題名を少しだけ変えた「原色超人ペイントマン」を掲載、それが連載化にあたりペイントマンをPAINTMANと英語つづりに変えて93年14号から開始されたのが本作品だ

 そんな本作品は、新米の小学校教師である一色彩人が、ドゥ・トゥーン・ボーリ星の王子であるクィン・ダ・ウォーレⅡ世から授けられた超人原色でペイントマンに変身し、クィンを追って地球にやってきたケェアニ・ド・ルァークの一族と生徒たち及び地球を守るために戦う変身ヒーロー漫画である

 ドゥ・トゥーン・ボーリやらクィン・ダ・オーレやら語感の悪いカタカナが出てきて戸惑った人もいるかもしれないが、落ち着いてよく見て欲しい。何の事は無い、道頓堀に食い倒れ、かに道楽と関西由来の名前をもじっただけである。作中には他にもアディ・グル・スーだのジャ・ロートァ・イーグだのが出てくるのだが、これらも元ネタがあるのだろうか。あいにく私は関西に縁が薄いのでわからない

 ところで、ジャンプの黄金期において生徒たちを守る為に戦うといえば「地獄先生ぬ~べ~」を、地球を守る為に戦う変身ヒーローといえば「とっても!ラッキーマン」を連想する人も多いだろうし、その中には本作品を両者からパクっていいとこどりをしようとした作品と思ってしまう人もいるかもしれない。が、本作品の方が先に連載が開始されているので誤解なきよう。むしろ両者の方が本作品からパクったのかもしれない…いや、ないか

 そんな本作品の一番の特徴は、ペイントマンの名前の通り、彩人が赤、青、黄という三色の超人原色を体に塗る事によって変身する事だ。この超人原色は、赤は空中飛行、青は筋肉超増強、黄は五感超進化、と塗る色によってそれぞれ異なる能力が得られる。加えて、色を混ぜる事で更に強力な能力、例えば青と黄を混ぜて緑にする事によって武装変形の能力が得られるという風に、色の特性を生かしたギミックがあってなかなか面白いアイデアである

 のだが、ここで問題が1つある。ジャンプは、いや、ジャンプに限らず漫画というものは基本的に白黒で描かれるものだという事だ。その結果、色を塗る、色を混ぜるという本作品の肝であり見どころでもあるシーンが何色なのか視覚的にわからないという残念な事になってしまったのである

 この問題は読切の段階で気付いてもよさそうなものだが、作者や編集者はどう考えていたのだろうか。デビューする事に必死で見落としていたのか、それとも気付いていたけど読切が好評だったから大した問題ではないと高を括ったのか

 いずれにしてもいくら読切で好評だったからといって連載でもそうだとは限らない。何せ他の連載陣も皆、読切で好評を博して連載を勝ち取った作品であり、今度はその中で争わなければならないのだから。そして各作品がそれぞれの特色を出してなんとか連載存続を図る中、白黒な為に特色を充分に出せなかった本作品は、当時誌面で「キン肉マン」のオリジナル超人募集のように読者から怪人を募集したにもかかわらず、結局作品に登場させる事の無いまま僅か11話にして終了してしまったのであった

 

 

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 本作品の終了後、作者は二度とジャンプ作品が掲載される事も無く、話によると再び森田まさのりのアシスタントに戻ったという。一方、皮肉な事に本作品の終了後僅か数カ月のうちに「とっても!ラッキーマン」(同年35号)、「地獄先生ぬ~べ~」(同年38号)の連載が開始され、共にアニメ化されるほどのヒット作となってしまう。それを見て作者は一体何を思ったであろうか

あの人気作品との共通点は

 突然だが、あなたはヤンキー漫画と言えば何を思い浮かべるだろうか?

 「BE-BOP-HIGHSCHOOL」、「疾風伝説 特攻の拓」、「今日から俺は」、「カメレオン」等々、80年代から90年代にかけてはヒットしたヤンキー漫画が各誌で数多く誕生した為、思いつくタイトルは人によって千差万別だと思う。が、ここに「ジャンプで」という前置きをつけたならば、思い浮かべるタイトルは2つしかないのではなかろうか

 その2つとは勿論「ろくでなしBLUES」と「BØY」である

 どちらも長い事連載が続いたジャンプの二大ヤンキー漫画と言えるのだが、私個人の意見としてとしては悪役のキャラが本当にクズみたいなのが多く、それを晴矢がぶっ飛ばすという単純な構造で爽快感のある「BØY」の方が好みで、単行本も購入していたものだ。…後半になるにつれ悪役キャラの悪事がインフレして、いくら漫画だとしても洒落にならん重犯罪レベルまでになったのにドン引きして途中で購入を止めてしまったが

 

 そんな訳で今回紹介するのはそんな「BØY」の作者によるこの作品である

 

 酒吞☆ドージ(90年15号~30号)

 梅沢勇人

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作者自画像

 まず触れるべきはペンネームだろう。梅「澤」「春」人ではなく梅「沢」「勇」人。もっと厳密に言うなら現ペンネームは梅の旁の部分が「毎」ではなく「每」と書く旧字体なのだが、変換方法がわからなかったので不本意ながらそのままにしておいた。ところでWikipediaには旧ペンネームは「うめざわまさと」と読むと書いてあるのだが、ソースは何処なんだろうか? 少なくとも単行本の奥付には©Hayato Umezawaと書いてあるのだが

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画像は荒いが頭文字がMではなくHなのはわかるだろう

 作者は北条司に師事し、88年に「南方遊伝」がホップ☆ステップ賞入選、同年増刊サマースペシャルに掲載されてデビュー。同年オータムスペシャルにも「炎のマリア」を掲載している。89年スプリングスペシャルには「南方遊伝 初戀地獄編」が掲載。因みに作者はこのタイトルに思い入れがあるのか、ジャンプが653万部という発行部数記録を打ち立てた95年3・4号でも設定を少し変え、タイトルも「NANPO U DEN」とローマ字に変えた読切を、当時連載中であった「BØY」と共に掲載している

 

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 その後同年サマースペシャルに掲載された「酒吞ドージ」が同年39号に掲載されて本誌初登場を飾ると、これが連載化されて翌90年15号から開始されたのが本作品である

 さて、作者の漫画と言えば上に挙げた「BØY」以外にも「無頼男」、更にヤングジャンプに移ってからの「カウンタック」と、現代が舞台でやんちゃな男どもが沢山出てくる作品が多いというイメージだが、本作品はタイトルと単行本のカバーイラストからしてそんな作品ではない事は想像がつくだろう。そう、本作品は大江山酒呑童子伝説をモチーフにした物語である

 作者のイメージからはかけ離れているかもしれないが、実は古史古伝をモチーフにしたものは本作品だけではない。デビュー作である「南方遊伝」は西遊記を、「炎のマリア」はジャンヌダルクをそれぞれモチーフにしたもので、この時期の作者の常套手段であったのだ

 ただし、あくまでモチーフとしただけで内容の方は元ネタとはだいぶ違う。「南方遊伝」は三蔵法師の三代目と孫悟空の孫娘の恋話であるし、「炎のマリア」はジャンヌダルクが火刑に処された後、神の導きによって異世界を渡り歩くという内容で、設定にフレーバーが感じられる程度の全く別の話と言ってしまってもいい作品になっている

 そして勿論、本作品にも大胆なアレンジが加えられている。共通点は名前と酒が好きという所くらいで、舞台は大江山どころか日本ですらないし、時代も酒吞童子がいたとされる平安時代でもなければ現代でもない。主人公のドージが妹のシズカ、ダビンチ星人のポンと共に星から星へと渡り歩くというSF漫画なのである

 基本的な話の流れは、酒を飲むほどに酔うほどに力をまし、その手で惑星をも破壊できるという伝説の超戦士である酒吞星人のドージが行く先々で酒を飲んでは悪事を働く。のではなく、逆に悪事を働く連中をぶちのめすというものであり、ぶちのめされる連中は善人を虐げる下衆ばかりと、時代劇のような非常にわかり易い勧善懲悪ものになっている

 こういった特徴は作者の代表作である「BØY」とも共通しており、まさに私好みの展開である。加えて言うならば、本作品は別のある作品とも共通したものがあったりする

 その作品とは黄金期ジャンプの大看板の「DRAGONBALL」だ

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 伝説の超戦士という酒吞星人の肩書はサイヤ人と近いものがあるし、それに何といっても「DRAGONBALL」もまた主人公の名前が孫悟空というところからもわかるように元々は古史古伝西遊記をモチーフにした作品なのである

 作者の代表作である「BØY」だけでなく「DRAGONBALL」とも共通したものを持っているとあれば本作品もヒットする素地は充分にあると言っても過言ではない。…いや、過言だった

 なにせ「DRAGONBALL」は如意棒や筋斗雲といった西遊記由来のものは早々にぶん投げてしまっているし、サイヤ人の設定もそこまでオリジナリティのあるものではなく、そこが共通していたところでヒットする程ジャンプは甘くないし、そもそもSFはジャンプの読者層にはウケが悪い。更に間が悪い事に、本作品の連載時はちょうどサイヤ人にスポットが当たるフリーザ編の真っ最中で大盛り上がりとあっては連載デビューしたてでまだ画力も話作りも未熟な作品に注目する読者は少ない。結局本作品は「DRAGONBALL」との類似点を指摘される事すら無く15話で終了してしまったのであった

 

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